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UberEATSはいかにして「食」を民主化するか?

Project ARCH
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8 min readFeb 10, 2020

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Photo by Kai Pilger on Unsplash

UberEATSに代表されるフードデリバリーサービスが、食のあり方を大きく変えつつある。それは働き方を多様化すると同時に食のつくり手を多様化し、ゴーストレストランと呼ばれる「店舗をもたないレストラン」を可能にすることになった。食のつくり手を支えるプラットフォームが整った先に、人々が何を、どう食べるかは、いまとはまったく異なるかたちになっているかもしれない。

Speakers :
佐々木康裕:Takram ディレクター/ビジネスデザイナー
大石拓馬:Takram ビジネスデザイナー

🍔 データベースとしてのUberEATS

大石:UberEATSが今後どのような戦略をとっていくかを説明したレポートを読んだのですが、いままでやってきた食の配達だけでなく、今後はさらに事業を広げようとしている。彼らが構想しているのは、アプリをタップすれば食にまつわるあらゆる体験がシームレスにつながる未来。食全体、外食事業全体をUberEATSが飲み込もうとしている、と言うこともできます。たとえば家を出る前に注文すると出勤途中に受け取れたり、食材を家から注文するとスーパーで受け取れたり。さらにはレストランの予約もUberEATSで行えるようになるという話もあります。

このようにUberEATSが「食のビッグデータ」をもつようになることが、今後の食のあり方を大きく変えていくと思っています。そうなると、UberEATSがレストランに対して「この時期はこの料理の方が注文されやすい」「他の店ではこれくらいの価格で売れているから、もう少し値下げしたほうがいい」といったアドバイスもできるようになる。最近増えているゴーストレストランに対しても、UberEATSがそのエリアで需要のあるメニューの情報を提供することで支援しています。

またUberEATSはユーザーに対しても、個人の好みに合わせてレストランをおすすめしたり、その日の消費活動や摂取カロリーをもとに「これくらい食事を摂りましょう」というレコメンデーションができるようになるかもしれません。そのように彼らは、食の提供側も消費側もフルサポートできるようなビッグデータをつくろうとしているのです。

佐々木:UberEATSはもはやフードデリバリーサービスではない、ということですよね。「食」って振り返ると「昔はこんなものなかった」というものが多く、中食ブームやヘルシー嗜好が出てきたのもこの数年ですし、UberEATSのデリバリーの自転車が街の風景として根付きつつあるのもつい最近のことです。その延長線上で、2023年くらいにはUberEATSが新しい食のプラットフォーム化しているのが当たり前になっているかもしれません。

つまり、内装、決済システムの導入、食べログへの掲載などのバックエンドの作業を、すべてUberEATSに任せることもできるようになるかもしれない。人材不足が問題になっているのであれば、バイトのデリバリー、つまり人材の提供さえもUberEATSでできるようになると、さらにおもしろくなると思います。

大石:UberEATSは新しい働き方としても注目されていますよね。アプリのスイッチを入れた瞬間に仕事が始まって、スイッチをオフにすると仕事が終わるというフレキシブルな働き方は、これからの時代に合っている。その仕組みを人材のマッチングや雇用システムに転用することはできるかもしれません。

🍔 つくり手は「つくること」に集中できる

大石:ゴーストレストランが流行り始めると、レストランのオーナーは「何をつくるか」「どうやっておいしい料理をつくるか」だけに専念できるようになります。さらに究極的にはそのメニューをクラウド化して、世界中のどこでも食べられるようにもなるかもしれません。そのような世界になると、ようやく本当の意味での「料理人(=料理だけを追求する人)」が生まれるのではないかと思っています。

佐々木:それはB2Cの世界におけるショッピングで起きていることにも似ています。つまりブランドをつくりたい人の仕事は、ショッピングサイトを構築することじゃない。現状では「おいしい料理を届けたい」と思っている人がやらなければいけないことはたくさんあって、不動産を見つけて、内装を工事して、バイトを手配して、終わったら売上の計算をして……といった仕事もやらなければいけません。でもUberEATSのようなプレイヤーによって、料理人たちが本当に料理だけに集中できる環境がつくられて、あとは全部システム化してしまうというのはおもしろいかもしれないですね。

大石:加えて、コストも段違いに変わってきます。たとえば都内に店舗を構えようとすると1,000万円くらい費用がかかりますが、ゴーストレストランだと50万円ほどで始められるといわれます。

佐々木:ゴーストレストランって、たとえば極端な話、自分がやろうと思ったらできちゃうんだよね。自宅のキッチンでつくって、「結構おいしい肉団子をつくります」とか言ってね。

大石:できちゃいます。そこでUberEATSが「肉団子じゃないほうがいい」みたいなアドバイスをしてくれるようになると、誰もが料理人になることができる。

佐々木:「みたらし団子のほうが売れるんだよ」というのを、UberEATSが教えてくれるということね(笑)

🍔 食のプラティッシャー

大石:2019年7月に、スターバックスがBrightloomと提携したという話がありました。Brightloomというのはもともと「Eatsa」と呼ばれる無人レストランを展開していた企業ですが、現在は企業名を変えて食ビジネスにおけるプラットフォーマーになっています。

Brightloomと組んだスターバックスは、まずはモバイルで注文して店舗でピックアップできるシステムを拡大していますが、いずれはスターバックス自体もコンテンツ提供側からプラットフォーマーになる可能性もあるかもしれません。たとえば世界中の人々がつくったメニューがクラウドに上がり、そうしたメニューをつくって店舗で提供するような仕組みさえ、スターバックスが仕掛けていくかもしれない。こうした仕組みは「ゴーストレストラン2.0」とも呼ばれています。

佐々木:プラットフォーマーであり、かつパブリッシャーでもあるような企業は「プラティッシャー」と呼ばれます。たとえばNetflixは自社のオリジナルコンテンツをつくりながら、既存の作品を配信するプラットフォームでもある。

ただスターバックスは、「もともとプラットフォームだったところがノウハウを貯めて自分たちがパブリッシャーになる」というこれまでの流れとは逆のパターンですよね。コーヒーチェーンとして始めながら、その仕組みを使って自分たちがプラットフォームに変わっていくところが新しいと思います。アマゾンのAWSのようなかたちで、スターバックスはスターバックスとしてそのまま運営されつつ、まったく別のビジネスの仕組みをもってさまざまな会社の裏側を支えるということはあり得ると思っています。

大石:いまは全然イメージが湧かないですが、数年前にはUberEATSが想像できなかったように、近い将来当たり前になっている未来かもしれないですね。

佐々木:フード業界はいろいろ起きていますよね。インポッシブル・バーガーやビヨンド・ミートといったオルタナティブ・ミート、ノンアルコール飲料、さらにカンナビス系の話もある。食べ物自体が変わっているということと、食の提供の仕方が変わっているということ、さらにつくり手を支援するツールが増えてくるといったいろんな局面で変化が起きていて。多分5年後や10年後には、まったく違うランドスケープが広がっていそうだなと思います。

ここ数年でブランドを始めるハードルがすごく下がったのと同じように、「カフェをやりたい」と思ったらすぐにでも始められるようになるかもしれない。そういう未来が実現できると、食の選択肢も広がるし、提供するほうもつくることに集中できるので、いい世界が広がっていくのかなと思っています。

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