Stay Remote, Stay Creative

リモートワークは「働く」をクリエイティブにするか?

Project ARCH
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8 min readMay 1, 2020

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Photo by DESIGNECOLOGIST on Unsplash

新型コロナウイルスの影響で、日本企業にもリモートワークが普及しつつある。リモートワークは満員電車での通勤やムダな対面会議をなくし、日本人の働き方をクリエイティブなものに変えるのか? はたまた、長期的に見ればコミュニケーションやセレンディピティの機会を損なってしまうことになるのか? オンラインツールを賢く使うことで、リモート環境でもよりクリエイティブに働くためのヒントを考える。

Speakers:
岩嵜博論:博報堂 ビジネスデザインディレクター
大石拓馬:Takramビジネスデザイナー

👨‍💻 意外といけるじゃん

岩嵜:リモートワークというトピックを挙げた最大の要因は、コロナウイルスの影響によって、この収録をしている2020年3月4日のタイミングでも多くの会社がリモートワークにシフトし始めていることです。その結果、ぼくらのワークスタイルが大きく変わっている実感をいままさにリアルタイムで持っています。Takramもリモート推奨なんですよね?

大石:そうですね。2月後半からリモート推奨になっていて、クライアントの打ち合わせも含めて、ビデオ会議でできる限りやりましょうという方針でやっていますね[注:3月以降、Takramはフルリモート化している]。主に使っているのは、ビデオ会議ツールの「Zoom」。あとは「Miro」というオンライン・ホワイトボードツールがTakramのなかで流行り始めています。

これは画面上でみんなで付箋をペタペタ貼ったり、落書きしたり、簡単なカスタマージャーニーマップをつくったりすることができるもので、今後対面でワークショップをやるときでもMiroでいいじゃん、という話にもなっているくらい便利。みんなが同時に手を動かせますし、そのままPDFに書き出してクライアントへ共有することもできる。リモートになってから、そうした発見がいろいろ出てきています。

岩嵜:ぼくはたまたまこのコロナの騒ぎになる少し前に体調を崩して、3日ぐらい会社に行かなかったタイミングがあったんですが、ミーティングもプレゼンもZoomでやって、「意外といけるじゃん」と思いましたね。今回のタイミングで、古典的な日本企業も含めてオンライン会議やリモートワークを導入した企業が多いと思うんですけど、意外とできるじゃん、と気付いてしまった人も多いんじゃないかと思います。

だから、もちろんコロナウイルスは問題ではあるんですが、これがきっかけになって保守的な組織にもリモートワークが普及する可能性がある。Zoomの株価も上がっているし、教育関係者にZoomが無料提供される動きも出てきているので、一気にこうしたツールの普及が進むんじゃないかなという感じですよね。

👨‍💻 ステータスを可視化せよ

岩嵜:一方で、この先起きるかもしれないのは、人とばったり会ったり、オフィスの中の雑談から何かが生まれるみたいなことが、リモートワークの環境だと生まれにくくなるということ。そうすると、ビジネス環境下におけるクリエイティビティも必然的に下がってしまうのではないかと懸念をしています。

大石:そうですよね。クリエイティブな仕事をしていると、「いつ誰に話しかけないといけないか」というのが自分でも予期できないことが多いので、「困ったときにそこにいる誰かに聞く」ということができなくなるとどうなるのかは、まだ未知の段階ですね。とくに新入社員や入社間もない社員など、個々人に対する関係構築がまだしきれていないとか、誰がどんな専門性をもっているかを十分に把握できていない段階にいると、会わなくなることのハードルも大きくなってしまいがち。最初の関係構築を会わずにやるというのは、結構難しいのかなとも思います。

個人的には、リモートワークになると個々人の努力しないといけない量が上がると思っていて。たとえばSlackのステータスをこまめに更新することで話しかけてもいいかどうかのステータスを表示してあげるとか、もっと言うとZoomにオープンルームのような場所をつくって音声を常につないでおくとか。そうしたオフラインと同じような状況をオンラインでつくるための努力を一人ひとりがやらないと、セレンディピティがどんどんなくなってしまう感覚があります。

岩嵜:ステータスは「いま何をしているか」という機能的なことに加えて、気持ちが乗って仕事している状態とか、暇そうにしているだとか、感情的なところも含めて示してあげられるといいですよね。バーチャルの背景を使ったりキャラクターに変身したり、いまの機能はどちらかといえばステータスを隠す方向に特化されていると思うので、ステータスをどう可視化するかが今後の課題になるように思います。

👨‍💻 熱量は再現できるか?

岩嵜:もうひとつ取り上げたいトピックが、Run The Worldというスタートアップです。オフラインで行われていた大規模イベントをオンラインに移植することができるプラットフォームで、最近アンドリーセン・ホロウィッツからも出資を受けたこともあり、このコロナのタイミングで注目を集めています。

オンライン上でセッションを聞くだけでなく、カンファレンスに参加している人同士をマッチングさせるネットワーキング機能ももっていたり、あるいはセッション後の質疑応答をオンラインでもスムーズに行うことができたりと、オフラインイベントの良いところをできるだけオンラインで実現することを目指したプラットフォームになります。

大石:「イベントに参加している感」をつくるほかにも、周りの参加者たちの熱量を感じられるような機能もあるとよさそうですよね。自分がイベントに参加する際にも、他にどういう人が参加しているんだろう?という興味・関心がひとつの参加の動機になっていたりするので。

最近、あるアーティストの無観客ライブのYouTube配信を見たんですけど、やっぱりDVDでライブ映像を見るのとは違って、周りで盛り上がっている人たちの熱量が見えないのであんまり気持ちが乗ってこない。演者側もリアクションが見えることで気持ちが乗ってくるみたいな作用があると思うので、オンラインイベントになった時に話し手側のモチベーションをどう高めるかも重要だと思いました。

岩嵜:オンラインだと、オーディエンス側のステータスと主催者側のステータスがお互いに見えにくくなるわけですよね。だから、オーディエンス側から拍手があったとか、楽しそうに聞いているとか、そういうことが見えにくくなるとやっているほうも「あれ、これウケているのかな?」と思ってしまう。

この騒ぎがいつまで続くかはまだわかりませんが、これをきっかけにさまざまな実験が進むことで、また新しいコミュニケーションが生まれたり、新しいクリエイティビティや新しいフォーマットみたいなものが見つかったりするんじゃないかということを期待しています。

👨‍💻 公園化するオフィス

岩嵜:最後に、オフィスがどうなっていくんだろう? ということも考えてみたいと思っています。これまで人々はオフィスやコワーキングスペースで働いていましたが、リモートワークになるともうコワーキングはいらないよね、となるかもしれない。コワーキングスペースって、閉ざされた空間がないので意外とリモートがやりにくいんですよね。

これまでのオフィスも、自分のデスクがあって、そこに座って毎日働くというのが当たり前だったけれど、リモートワークが普及するとそうした個人用のスペースがいらなくなって、オフィスはむしろ公園のような空間になっていくのかもしれません。ふらっと立ち寄ってもいいし、そこで仕事をしても、ただ人と話すだけでもいい。するともう机はいらなくて、大きな広場みたいなものをつくればいいんじゃないかとも思ったりします。そしてリモートワークが進むと、逆に家の中にオフィススペースがつくられていくということも起こりえますよね。

大石:それはおもしろいですね。家のほうがむしろオフィス的になって、オフィスがむしろ家や公園的な空間になっていくといった逆転現象が起きるかもしれない。

岩嵜:書斎の復権も起こりうる。昭和の時代には、作家や学者といった専門職の人たちは家に書斎をもっていて、そこで仕事をしていたわけですよね。家は職場でもあり、人を招いてソーシャライズする場所でもあったと思うんです。そういう文化が、巡り巡ってこのリモートワーク時代に復権するのかもしれないなと。

大石:リモートワーク時代には、家の間取りも変わりそうですよね。自分はいまワンルームに住んでいるんですけど、デスクを置くためのちょうどいいスペースもないので、そうした部屋に対する需要も変わっていくのかなと。ほかには、リモートワークで見栄えすることに対する需要も発生しそうです。リラックスして着れるけどそれっぽく見える服の需要が高まっている、という話も海外ではある。コンフォートだけど画面に映っても支障がないようなアイテムが、どんどん生まれるかもしれないですね。

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