The Rise of Resale Economy

リセールエコノミーの夜明け

Project ARCH
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8 min readFeb 3, 2020

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Photo by Hironori Iwasaki

The RealRealやメルカリに代表されるリセールマーケットの登場によって、リセールエコノミーが拡大している。リセール市場は2023年までにリテール市場の45%を占め、2028年までにファストファッションの市場規模を上回るとの予測もある。

環境問題を気にかける若者たちの価値観の変化とリセールプレイヤーが提供するモダンなエクスペリエンスによって、もはや中古品を買うことは恥ずかしいことではなくなった。しかしものづくりを行う企業側から見れば、それは既存のマーケットの縮小をも意味することになる。「リセール時代」のブランドと消費者の関係、そしてものづくりのあり方は、いかに変わっていくのだろうか?

Speakers:
佐々木康裕:Takramディレクター/ビジネスデザイナー
岩嵜博論:博報堂 ビジネスデザインディレクター
菅野恵美:Takram ビジネスデザイナー

👟 N次創作の可能性

菅野:先日、ナイキの「エアフォース1」を錆風に加工した靴が5万9,000円で発売されているのを見て、一次よりも、二次、三次、四次と、あとから改変しやすい商品がどんどん価値を増して次のマーケットに降りていくということが起こりうるのだと思いました。となれば、ブランドは最初から改変しやすいように商品をつくることもできるし、そこにブロックチェーンのような技術を入れることで、N次マーケットで売られるたびに収益を得続ける仕組みをつくることもできるかもしれません。

岩嵜:そうしたN次マーケットにおける体験は、一般的にCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)と呼ばれる概念では補足できないものです。企業側からすると、販売後における顧客との関係性、顧客のエクスペリエンスをどうデザインするか、ということがイシューになっていきそうですよね。

佐々木:わたしは昔バイクに乗っていたんですが、当時流行っていたヤマハの「TW200」やホンダの「FTR223」に乗っている人は、ほぼ全員がカスタマイズしていたんですよね。それぞれのユーザーがマフラーやハンドルを変えて乗るようになった結果、そもそも新車を買うのではなく、カスタマイズされたバイクを買うことの方がメジャーになってしまった。それと同じことがスニーカーでも起きたら、すごくおもしろいと思いました。

菅野:リセールマーケットが確立されてきたからこそ、N次創作がちゃんと売り出せる場が用意され、製品にどんどん新しいストーリーを乗せて次のマーケットに移しやすくなる。そうしたインフラがやっと広がってきたんだろうなと思います。だから、ファストファッションのような服のあり方というよりは、耐久性をもった服とか、何度も手を入れやすい服のほうが支持されるようなことも起きるかもしれないと思って、わたしはすごく楽しみですね。

👟「売る」が変わると「買う」も変わる

岩嵜:Arc’teryxというアウトドアブランドが、正規販売で買った製品を顧客がある程度使ったあとにお店に返すと正規店で使えるクーポンを提供する、といったサービスを始めています。彼らは引き取った製品の状態がよければリセールし、状態がよくなければ責任をもってリサイクルをする。こうやって、一度販売をしたあとのバリューチェーンをデザインするケースというのも出てきているみたいです。

菅野:UpChooseというオーガニックコットンを使った子ども服のブランドも、リセールを前提とした体験をつくっています。子ども服って賞味期限が短いじゃないですか。2~3年着たらサイズが合わなくなるものなので、「買ったあとに返す」ということが前提の値付けがされている。そしてUpChooseもArc’teryxと同様に、引き取った製品はメンテナンスをしてからリセールをしています。それは単に「服を買っている」というよりは、子どもに良いオーガニック製品を使わせるという価値観に共感した人々が集まる「UpChooseのコミュニティに参加する」、という体験に近いのだと思います。

佐々木:Rebagというニューヨークのストアではプライスタグに2つの値段があって、購入価格とRebagでの買い取り価格が載っているんですね。たとえば高級バッグが4,000ドルで売っていて、その横に「2,800ドルで買い取ります」と書いてある。そうすると買い手は、「負担額はこの差額ね」という感じで買うことができるんですよね。プライスタグが2つあることで、消費者の価格に対する反応を変えていくというのもおもしろいと思いました。

岩嵜:日本の事例として聞いたことがあるのは、メルカリが登場したことによって、ブランド物の高価な子ども服を買う人が増えたということです。チェーン店で安価に買うのではなく、パタゴニアのようなブランド物を買ったほうがメルカリで高く売れるため、差額を考えると高い子ども服を買ったほうが実はキャッシュアウトが少ない、ということが起こっているんですね。リセールマーケットが大きくなることによって、ユーザーの最初の購買行動も変わっていくのでしょう。

佐々木:H&Mは最近リセール企業を買収していますが、リセールエコノミーの拡大にともない消費者の行動が変わってきているなかで、これからブランドがどういうポジションをとっていくのかというところには注目したいと思っています。

岩嵜:もうひとつ重要な論点だと思うのは、ユーザーサイドの気持ちやモチベーション。リセール市場が生まれて、いらなくなった物を売ることでお金が戻ってきて嬉しいというのももちろんありますが、一方でリサイクルとか、いわゆるSGDsの観点でもリセールエコノミーが貢献している側面があります。購入後のエクスペリエンスを考えるときに、単なる経済的なバリューではないバリューも出てくるのだろうと思います。

👟 ソフトウェア化するものづくり

岩嵜:リセールエコノミーは近代的な工業化社会への挑戦、あるいはそこからのトランジションでもあると考えています。いままで企業は、完璧につくった商品をリテールを通じて完全な状態で売って、その先は基本的にユーザーに任せていた。それがユーザー側が使って不均一になったり、完全でなくなったものに対して、もう一度メーカー側が何らかのかたちで関与するというのは、工業化の大原則から大きくズレているわけです。

たとえばパタゴニアは、iFixitという修理情報サイトと組んで公式な修理情報を提供していて、ジャケットの直し方やジッパーの交換方法などを掲載しています。それはこれまでの工業製品の原則から外れて、一歩踏み込んでいる感がある。そういう踏み込みを、これから企業側がどこまで行っていけるかというのは要注目です。

佐々木:それはものづくりが「ソフトウェア化」している、とも言うことができるかもしれません。FacebookやInstagram、Twitterといったプロダクトは常に「永遠の未完成品」なわけですが、リアルなプロダクトもそういうふうになっていくというのはありえますよね。

ケヴィン・ケリーが、ソフトウェアはコピーされたがっている、シェアされたがっている、ということを言っていますが、これからはあらゆる製品もそうなっていくかもしれない。だから、シェアされやすい商品やコピーしやすい商品が売れていく、ということも起きそうな気がします。

岩嵜:余白や余地、カスタマイズの伸びしろといったものを、プロダクト開発をするときに予めつくっていく必要があるということですね。

佐々木:これからのブランドは、製品を販売したあとにもコミュニティとインタラクションを繰り返しながらカスタマイズの方法を一緒に考え、ブランド側もそこからヒントをもらって新しい製品づくりに活かしていく、というかたちになるかもしないですね。自分たちの製品を完璧につくり込むというよりは、カスタマイズのためのツールを提供し、「これを使って自由に楽しんでね」と。

ニューヨークにできたナイキの新しい旗艦店も、1階のかなりのフロア面積がTシャツをつくれる場所になっているんですよね。そこに行くと、自分でTシャツがデザインできて、その場でシルクスクリーンができるようになっている。そういう場所がこれから増えてくるかもしれません。

菅野:リメイクや金継ぎといった技術がぎゅっと詰まったスペースが街にあって、そこに持ち込むと自分なりに直せたりカスタマイズできたりするスペースが生まれれば、プロダクトの多様性も増していきそうです。

佐々木:ベルリンなどには「Repair Cafe」というリペア専門のカフェがあって、一見すると普通のカフェなんですが、裏に工房があってリペアができる。お店の人にお任せするというよりは、そこにいるコミュニティの人々に直し方を教えてもらいながら、持ち込んだものを修理できるようになっているそうです。そういう場所が、これから増えていきそうですよね。

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