Welcome to After-Corona Economy

アフター・コロナ経済圏へようこそ

Project ARCH
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8 min readMay 1, 2020

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新型コロナウイルスの影響で在宅ワークが普及するなか、新しい市場が生まれている。Eコマース、食、エンターテインメント、不動産、家具、エクササイズ、友達やパートナーとの付き合い方まで。<アフター・コロナ>の時代に、人々の価値観、社会のルール、ビジネスの当たり前はいかに更新されるのか? コロナウイルスによる社会変化がかたちづくる「2020年代の新しいスタンダード」を考える。

Speakers:
佐々木康裕:Takramディレクター/ビジネスデザイナー
大石拓馬:Takramビジネスデザイナー
岩嵜博論:博報堂 ビジネスデザインディレクター

🏠 10年に一度の転換期

佐々木:今日のトピックは、事前に記事を共有させていただいた「Stay-at-home Economy」。要は「在宅経済」というのが、このコロナの時代に生まれるということが書かれています。みんなが自宅で仕事するようになることで、新しい市場がこれから生まれてくるでしょうと。

たとえばeコーマス。アメリカのeコマースは全小売の15%くらいですが、コロナの影響でその数字も数%動くかもしれない。ほかには食事。平日の昼間に家で食事をするのって、わたしはかなり大きい変化だと思っていて。いままではオフィスの近辺で食べたりお弁当を持っていって食べていたところが、家で食べるようになると。その習慣の変化で大きな市場の変化があると思っています。あとはエンターテインメント。NetflixなどのストリーミングサービスからNintendo Switchのようなゲームまで、家のなかで楽しめる娯楽の需要は増えていくでしょう。

個人的には、このコロナ危機は10年に一度ぐらいで訪れる、世の中のルールが置き換わる転機になるんじゃないかと思っています。たとえばリーマンショックの前後で人々の価値観や考え方が変わり、それに呼応するかたちでブランドや小売りのあり方も変わることになりました。日本で言うと、2011年の東日本大震災をきっかけにいろいろな価値観が変わったと思っています。

同じように2020年のコロナ危機は、世界の共通体験として社会のルールを変えていくだろうと。2020年のいまから検討を始めるプロダクトやサービスは、もはやコロナが始まる前の考え方ではつくれない。そのルールや公式を、ゼロベースで考え直さないといけないんじゃないかと思い始めています。拓馬くんはコロナになって変わったことはありますか?

大石:ぼくは家の環境が全然整っていなくて、机も椅子もモニターもないみたいな状況だったんですね。そもそも間取りが仕事をする環境に適していないので、次に引っ越しをするときの基準が今回のコロナで変わったなと思っていますね。

佐々木:まさにそういう話だと思っていて。つまり、自分のなかで物事を判断するときの軸がリセットされている。住むエリアもこれから大きく変わるはずで、これまで家を選ぶときって、プライオリティのひとつは通勤のしやすさだったと思うんですね。これからはそのプライオリティが下がって、住環境的に快適なワークフロムホームができるか、書斎をもつことができるか、といったことが大事になってくる気がします。

🏠 「みんなでデジタル」の可能性

佐々木:「モノからコトへ」とよくいわれるように、この5〜10年で旅行やフェス、キャンプといった体験に対する需要が上がってきましたが、実はいま、コロナでいちばん影響を受けているのは「コト」のマーケットなんですよね。国から国への移動はできず、スポーツイベントもライブも中止になっているいま、「コト」のマーケットをデジタル側に持っていくことができれば、大きなチャンスになるんじゃないかと思っています。

横軸に「個人とグループ」、縦軸に「アナログとデジタル」を引いたダイヤグラムを考えると、たとえば「個人でアナログ」だと読書、「個人でデジタル」だとNetflixやTwitter、「グループでアナログ」だとスポーツや旅行、ライブが当てはまります。そして「グループでデジタル」の領域で最も盛り上がっているのは、『フォートナイト』のようなゲームだと思うんです。

そうしたオンラインゲームは、どういうふうにエンゲージメントを高めているのか、あるいは参加者同士のコミュニケーションを促しているのか。そのプラクティスを抽象化して公式化できれば、それが2020年以降に生まれるサービスづくりのひとつのルールになるのではないかと、いま仮説を持ち始めているところですね。

岩嵜:フィジカルで行われていたことの因数分解みたいなことがもっとされていくんだろう、とも感じています。つまり、いままでアナログで行うことが当たり前だったイベントをデジタルで行うために、機能を細分化して、もう一度再編集する必要がある。「人と会えること」「セミナーを聞くこと」「ライブ性があること」など、イベントに含まれる要素には何があるんだっけ? ということを考えていかなければいけないのでしょう。

佐々木:いままでデジタルのよさは時間と空間の壁を越えられることだと思われてきたかもしれないけれど、「デジタルだけどライブ性が重要視される」といったように、制約をかけることで逆におもしろくなるかもしれないですね。

一方で、先日オンライン読書会をやったんですが、いい意味ですごくインクルーシブだと思ったんですよね。自分が普段やっているイベントだと絶対に参加できないような子連れの主婦の方が子どもを抱えながら参加していたり、フランスやインドネシアから参加していただいた方もいたり。デジタルであるが故に、ある種の優しい空間をつくることもできるようにも思っていて、そこは大きなポテンシャルを感じていますね。

岩嵜:考えようによっては、意外とデジタルのほうが体験をよりリッチにしうるのかもしれませんね。「やっぱりフィジカルのほうがいいよね」と思いがちだけれど、実はデジタル化することによって、いままで体験できていなかったことができるということも出てくるように思います。

🏠 コロナ時代の振り子

佐々木:リモートワークをしながら思うのは、「何かを始める」「何かを終わらせる」というところの境目が、いい意味でも悪い意味でも溶けてしまったこと。これまではモードを移すときには物理的なトランジショニングがあったけれど、それがなくなってしまったので、仕事をどう始めてどう終わらせるかというモードチェンジの儀式を考えているところです。

もう少し時間軸の長い話で言うと、入学式や卒業式、あるいは入社式といった儀式がオンラインになると、何かに所属し始める、あるいは何かへの所属を辞めるという境目も溶けてくる。オンラインワークにちゃんと移行できている会社は離職率が高い、という話も聞いたことがあります。

岩嵜:オンライン化したときに、組織文化や風土みたいなものがどういうふうに形成されうるかは論点になりそうですね。いままでは対面的な接点において、あるいはオフィス空間を共有することによって文化が醸成されていたと思うんですけど、フィジカルな接点がよりなくなっていくなかで、それらはどうつくられていくのかと。

アメリカの会社では正社員のほかにフリーランサーも多く、チームメンバーのステータスがまばらなんですよね。そうした状況下において組織文化をどうつくるかというと、オフサイトをうまく使って、ミーティングやワークショップ、場合によってはピクニックに行くということもするんです。今後は、そうしたちょっとしたフィジカルアクティビティをコーディネートするようなサービスがビジネスになったりするのかもしれません。

佐々木:それはありそうですね。これからはオフィスのダウンサイジングも起きるかもしれないし、オフィスの稼働率も減ってくると思うので、ひとつのオフィスを複数社で共用するということも起きてきそうです。

冒頭にも話したように、いまつくっているサービスもアフター・コロナの時代に合わせてチューニングしていかなければいけない。それをどう新しい哲学や新しい思想に則ってつくっていくかというところも、大きなチャレンジになると思っています。

岩嵜:時代って、振り子のようにこっちに来たと思えば、また不安になって元の世界に戻ったり、また振れたりの繰り返しなんですよね。その振れ幅のなかで時代の方向感というのは変わっていくはずなので、ビジネスを考えるうえでも短期的な振れにはあまり惑わされずに、このコロナ危機の先にある時代の方向を見据えていきたいですね。

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