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酒井のコラム VOL.4 インパクト・レポートについて

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ファーメンステーションのようなスタートアップにとって、企業活動そのものが新しいチャレンジの連続。「だったサニタイザー」シリーズのような新しいコンセプトの商品はその代表です。でも、実は同じ時期にもう一つ、取り組んでいたプロジェクトがあります。それは、事業における社会的なインパクトを取りまとめた「インパクト・レポート」の作成。昨年一年をかけてスタッフみんなで議論を重ね、年末から本格的に取りまとめを始めて今年4月に発表しました。当社にとっては、初めての取り組みです。

自分達が理想とする社会の姿やそこに向かうためのアクションを可視化し、改めて言葉に落とし込む。その作業は、想像していたよりもずっとチャレンジングな工程でした。自分達らしいレポートとはどんな形なのか。模索する中で見えてきたものを、代表の酒井がお話しします。

突然ですが、みなさんはインパクト・レポートというものを読んだことがありますか。聞いたことはあるけれども、実物は見たことがない。そもそも何だかわからない。そんな方がほとんどなのではないか、と思います。

インパクト・レポートとはその名の通り、社会的な取り組みやインパクトの報告書。企業や団体が発行するレポートで、社会的な取り組みやアクション、そしてその成果を客観的、かつ定量的にまとめたものです。

社会的なミッションを掲げる企業やB Corpの多くが発行していて、ステークホルダーに対して自社の活動を伝える手段として活用していますが、日本で出しているのはかなりの少数派だと思います。

と、偉そうに書きましたが、実は私が代表を務めるファーメンステーションもインパクト・レポートについてはまったくのビギナー。今年初めて作成し、ウェブサイト上で公開したところで、正直に言って「自信作!」と言うにはまだまだ心許ない状態。

それでもなぜ、今回公開に踏み切ったのか。どんなことをどんな想いで書いているのか。今回は、その経緯や内容について、書いてみようと思います。

なるべく具体的で。なるべくオープンに。

インパクト・レポートと一言で言っても、その内容やアプローチは多様です。決まった型があるわけでもなく、企業や団体によってその呼び方も違ったりします。2022年のファーメンステーションのレポートは、「パーパス」「ファーメンステーションについて」「インパクトに対する考え方とモデル」「インパクトの取り組みと成果」といった内容を軸に構成。ファーメンステーションという会社を世の中に改めてご紹介するつもりで、まとめました。「なるべく具体的に、オープンに」ということを心がけながら、今まであまり公開してこなかった情報や、答えが出せていない課題もあえて思い切って掲載しています。

実はレポートの構想そのものは、ここ数年密かに温め続けていたもの。いざまとめ出すと欲が出てきて、油断すると、とても読みきれないような超大作になってしまいそうでした。「あれも、これも」という気持ちを抑えながら、なるべくシンプルに、わかりやすく、ということを心がけています。

例えば、課題解決のアプローチの章では、ファーメンステーションのアプローチを「『発酵技術』で『未利用資源』を『アップサイクル』する事業」、と改めて宣言。その上で、これら3つのキーワードに対する私たちなりの定義を、要素分解してご紹介しています。「発酵」も「未利用資源」も「アップサイクル」も、シンプルな概念のようで、実は本当に奥深い。流行やバズワードとしてではなく、ファーメンステーションという会社が届ける価値のど真ん中としてお伝えするのが狙いです。

また、インパクトモデルの章では、「インパクトとは一体何か」という大きな問いとも向き合いながら、事業を通じたアウトプットと接続させた、ファーメンステーションのオリジナルの「マルチインパクトモデル」を提示。ポイントは「オリジナル」であるということ。モデルといっても、これから進化したり変わったりする可能性があるものとして掲載しています。インパクトモデルについてはまた改めてご紹介しようと思うのですが、レポートの中で一番苦労したところです。

それから本レポートの「イチオシ」コンテンツでもある、取り組みと成果の章では、2022年に取り組んだことを掲載。大義名分も必要ですが、実践者として成果を出していくこと。そしてそのために小さなことでもアクションを起こしていくこと。これらを何よりも大切にしたいという思いから、具体的な数字を交えてなるべく具体的にご紹介しています。

「知るきっかけ」を作る

私自身、そしてファーメンステーションの仲間がどんな社会が理想だと思っているのか。そしてそこに向かって会社が何をしていて、どのように成長しているのか。その過程を含めて正直に伝えていく手段が欲しい。これは、ファーメンステーションが社会性の一つの物差しでもあるB Corpを取得する前からの悲願でした。

その狙いは、大きく二つあります。一つは、会社を知っていただくきっかけを増やすということです。商品やサービスを通じてだったり、企業理念だったり、場合によってはコマーシャルだったりと、会社を知るきっかけというのはさまざまだと思います。どれも、ある会社について、面白いな、もっと知りたいな、と思うことが入り口です。あまりメジャーな方法ではないかもしれませんが、このようなレポートも、そのひとつになり得るのではないかと思うからです。

社会性がテーマだと、きっかけとしては少し重いのでは?と感じる方もいらっしゃるかもしれません。でも実はそこがポイント。もちろん事業や技術のど真ん中にも、面白いことはたくさんあります。でも、実際にはオープンにできないことがとても多い。他方で社会的な取り組みには、一部例外もありますが具体的にお伝えできることがたくさんあります。会社の取り組みについて、リアルタイムでここまで公表できるトピックというのは、なかなかないと思うのです。

もう一つの狙いは、社会的な側面を持った企業の取り組みやそのポテンシャルについて、関心が向くきっかけにするということです。確かに、ソーシャル・インパクトという言葉そのものは、よく聞かれるようになりました。でも、それがどんなことなのか具体的にイメージが湧いているという人は、意外と少ないのではないかという気がしています。

ロジックや綺麗事だけではなく、課題を含めて公開していくこと。できないことができるようになるという過程を示していくこと。そんな地道な発信によって、少しずつ世の中が変わったらいい。事業性と社会性を両立させることができたらもちろん理想。でも、現実的には難しいよね。そんな一般論に対して、「こんな選択肢もあるよ」ということを示していけたらと思っています。

進化の過程こそ、見てほしい

2022年のインパクト・レポートは現在ファーメンステーションのウェブサイト上で公開しています。その形や内容は、まだまだ未熟。完成当初は、このような形で公にすることにためらいもありました。オリジナルのインパクトモデルを始め、もう少し議論を重ねて洗練させてから世に出した方が良いのではないか。最初は、一部の関係者に見ていただいてフィードバックをいただくくらいが良いのではないか。そんな議論があったことも事実です。

でも結果的にオープンにすることにしたのは、これから歩む進化の過程こそ皆様に見守っていただきたいと思ったから。そして、事業性と社会性の両立というまだ答えのない挑戦に、一緒に手探りをしながら挑んでいただきたいとの願いからです。完璧を目指していては、いつまで経っても完成しない。前進するためには、いろいろな意見があることを覚悟で今のベストを皆様に見てもらうのが一番。そんな想いで公開に踏み切りました。

何よりも良かったのは、皆様に見ていただくという緊張感を持ちながら実際に手を動かしてみることで、自分達に今足りないことや次に取り組むべき課題がクリアになったことです。今後もブラッシュアップをさせながら、一年ごとに取りまとめていく予定です。

現在公開しているのは、40ページ近くになる長いレポート。全文を読むのは大変だと思います。まずは目次を見ていただいて、少しでも面白そうだ、と思っていただける場所から読み始めてみてください。そのことが、皆様の活動を少しでも後押しできたらと思っています。

2022年インパクトレポートはこちらから!

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