ムーブメントの当事者になる

酒井のコラム VOL.3 Meet The B参加レポート

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「いい会社とは何か」というテーマを掲げ、日本のB Corpが主体となった参加型フェア「Meet The B」が先月、東京・渋谷の100BANCHで開催されました。実は、日本で活動するB Corpが一堂に会するのは、これが初めての試み。その一員として参加した当日の様子を、PUKU POTAの発起人であり、ファーメンステーション代表の酒井里奈がレポートします。

想像を遥かに超えた来場者の数。圧倒されるような会場の熱気。3月11日に開催された「Meet The B」は、最近なんとなくは感じていた、B Corpへの注目やコミュニティの盛り上がりを、肌で感じることができたイベントでした。

日本でB Corpを取得する意味

当日のトークセッションはふたつ。最初に行われたのは、会場となった100BANCHを立ち上げたロフトワークの創業者であり、近年は地域に軸足を置いた新会社Q0を立ち上げて活動している林千晶さんと、昨年B Corpを取得したビーガン・アメリカンクッキーのブランドを展開するovgo代表の溝渕由樹さんによるセッションです。

テーマは、「いい会社がつくる日本の『ローカル』な未来」。Meet the Bの発起人であり、日本語版B Corpハンドブック『B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善』を発刊したバリューブックスの鳥居希さんが進行役をつとめました。

セッションは、B Corpの取得過程における苦労など、体験に基づいたエピソードや、日本のB Corpコミュニティに期待することなど、さまざまなテーマで展開。林さんの「B Coprとは優れた会社という名詞ではなく、優れた会社になろうとしている動詞の仲間」という言葉には、会場内で頷く人が続出していました。

日本における取得の難しさについての意見も飛び交いました。B Corpは人種の問題など、社会の前提が日本と異なるアメリカ生まれの制度です。そのため、確かに日本の社会構造上、加点がされにくい分野があるシステムであることは確か。例えば、ダイバーシティの項などはその代表例です。そんな中、鳥居希さんは「日本には日本特有の多様性や地域格差がある。それを認識するためのツールとしてはB Corpはとても有効だと思う」と指摘。その言葉にはハッとさせられました。

まず動いてみることが大切

ふたつ目のセッションは、オールバーズのサステナビリティ部門の責任者、ハナ・カジムラさんへのインタビュー。テーマは「B Corpのリーダーに聞く!『グローバルブランド』の現在地」です。サステナブルなブランドのフロントランナーでありトレンドセッターとして、ブランド立ち上げからの会社の変化や、モノづくりの担い手としての課題など、貴重なお話を聞くことができました。

今でこそ、ブランディングのお手本のような存在のオールバーズ。でも、ブランドを立ち上げて数年は、必ずしも今のような形をとっていたわけではないそうです。

当初は発信することよりも、まずは理念に沿ったプロダクトを作ることに注力してきたこと。ビジネスと社会性の両立という「お手本のない」モデルを追求することは、今でも試行錯誤の連続だということ。そして、そのためには最初から正解を求めるのではなく、まず動いてみることが大切だということなど、ファーメンステーションの歩みと重なる部分を多く感じました。

あくまで「実践者」であるということ

こうしたトークなど盛りだくさんのコンテンツは言うまでもなく素晴らしい内容でした。でも、このイベントの印象を決定づけていたのは、さまざまなところから滲み出る「B Corpらしさ」だったと感じています。良いビジネスを通じた、良い社会をみんなで作っていこう。そのために、理想論を語るだけではなくて、地に足のついた取り組みをしていこう。あくまで実践者であろう。このような強い意思です。それが、押し付けがましさが全くなく、あくまで軽やかに体現されていたイベントでした。

思い返してみると、それらの「らしさ」は準備の段階から現れていました。例えば、展示物や装飾の準備。参加企業にはまず、「デジタルで!」「繰り返し使おう!」「負荷の少ない資材で!」という指針が伝えられ、環境負荷への配慮が徹底されていました。ノベルティの配布も基本的に禁止です。

さらに素晴らしかったのは、参加者がそのまま取り入れられる具体的なアクションが示されていたこと。紙の配布物ではなく、QRコードを活用する。紙が必要な場合はFSC認証のものを使い、印刷にはベジタブルインクを使う。他の出展者とコラボレーションする。来場者にお土産を渡す場合二次利用の紙袋を使う、など、実践的なアイデアが、オススメの方法として伝えられていました。

運営資金の拠出に対する考え方にも、感銘を受けました。このようなイベントの場合、負担する金額に応じて発言力を持ったり、露出が増えたりすると言うのが原則だと思います。でも、Meet the Bにはそのような序列が一切なし。お金を出していても、出していなくても、同じ立場で発言し、議論するという空気が自然と出来上がっていました。自分の利益を優先させるのではなくて、良い社会を作ると言うゴールに向かってみんなで力を合わせよう。そんな精神が表われていると思います。

また来場者の多様性への配慮も抜群でした。トークショーの内容は、プロの手話通訳の方によって通訳されるという徹底ぶり。また、会場には絵本やおもちゃが用意されたキッズスペースが用意され、子連れでもゆったりと楽しめるように工夫されていました。

裏話になりますが、実はこのキッズスペースは、打ち合わせの際に私がポロッとこぼした一言がきっかけで実装されたものです。スタッフが子連れで参加する可能性があるとお伝えしたところ、「それでは子供が過ごせる場所を作り、スタッフも用意しましょう」と、即断で決まったことでした。配慮そのものもさるながら、スピード感と実現力には本当に目を見張るものがありました。心の底から脱帽です。

今回のイベントは初めての試みだったということもあり、参加者も初対面の人ばかりだったと思います。でも、自然発生的に助け合いや情報交換が起きていたりと、そこにはすでにコミュニティが形成されていました。会場は全体が「自分も何か貢献したい」という気持ちに溢れていたという印象です。

これからさらに大きくなっていくであろうこのムーブメント。その当事者として同じ時間を共有できていることの喜びを噛み締めた1日でした。

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