“良いこと”を褒めあえる社会に

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酒井のコラム VOL.2 「Stakeholder’s Mutual Commitmentのこと」

「ソーシャル・インパクト」という言葉を聞いて、みなさんの頭にはどんなことが思いうかびますか? 非営利団体やボランティア活動でしょうか。政府や大企業が掲げる、SDGsへの取り組みでしょうか。もしかしたら、最近日本でも話題になりつつあるB Corpを挙げるかたもいらっしゃるかもしれません。どれも、社会をより良くしたいという想いの上に成り立っている、素晴らしい取り組みです。

でも、一方でこの言葉、なんだか少し「他人事」な響きがありませんか? 一部の人に限られた特殊なこと、とか、ストイックで禁欲的というほうが近いかもしれません。今回はそんな視点から、このジャーナルを運営するファーメンステーションがはじめた、ある取り組みについて紹介します。

こんにちは。ファーメンステーション代表/PUKUPUKU POTAPOTA発起人の酒井里奈です。

発酵という現象を使って、未利用資源を価値あるものに変える。環境や地域性に配慮したファーメンステーションのこうした事業の性質からか、私達の活動をメディアなどで取り上げていただく時には“ソーシャル”という括りで語られる事がとても多いです。でも実は私自身はあまり積極的にこの言葉を使って来ませんでした。そこに含まれる慈善活動的なイメージに、なんとなく違和感を感じていたからだと思います。

事業性と社会性の両立。このこと自体は、2009年にファーメンステーションを立ち上げてから、ずっと変わらずに掲げている方針です。かれこれ十数年になるわけなのですが、元を辿れば大学後に銀行員として働き始め、やりたいことを模索しながらもがいていた頃からずっと、「理想形」として思い描いていた事業の形でもあります。お陰さまで、昨年はそのど真ん中とも言えるB Corpも取得することができました。

そんな中最近、ふと抱いた想いがあります。仲間を増やしたいな、と。

人にも社会にも、地球にも良い事業。この挑戦の道を、みんなでワイワイガヤガヤ、切磋琢磨しながら進んでいきたい。今日ご紹介するのは、その仲間づくりの第一歩としてはじめた取り組みです。

2022年3月に、日本のを国内スタートアップ企業として初めてB Corpを取得しました

一通のレターを、すべてのパートナー宛てに

ファーメンステーションでは昨年末、すべてのビジネスパートナーの皆様に宛てたStakeholder’s Mutual Commitment(ステークホルダーズ・ミューチュアル・コミットメント)という一枚のレターをつくりました。Stakeholderは「利害関係者」、Mutual Commitmentは「相互の約束」という意味で、ファーメンステーションが大切にしている社会的な取り組みに対して、賛同のお願いをするものです。日本語のタイトルは「ビジネスパートナーの皆様と協働させていただきたい取り組み」としています。

ここで掲げるコミットメントには、「ガバナンス」「雇用および社内体制」「環境」「社会・コミュニティ」「取引先」という5つの分野を設けています。

ガバナンスの項目では、法令遵守などの事業としての大前提の他に、透明性の高いコミュニケーションや、情報開示について触れています。これは、ファーメンステーションが特に大切にしていることのひとつだからです。ファーメンステーションが考えていることややっていることをできるだけオープンに伝えたいと思っています。例えば社内では決算を公開するといった取り組みもしています。

雇用及び社内体制の項目では、人権やハラスメントの問題や従業員の権利だけではなく、多様性の尊重を盛り込みました。これは、代表の私自身がスタートアップやビジネスの世界では少数派である女性であることや、様々なバックグランド、業界の皆さんと一緒にビジネスをしていることが、楽しくもあり、私たちの強みだと思っているからです。メッセージとして積極的に打ち出していきたいと思っています。

環境の項目はファーメンステーションの“本丸”でもあることもあり、エネルギーや資材の選択、原料や動物実験についてなど、すこし具体的で踏み込んだ内容を記載しています。エネルギーの可視化など、私達が現在進行形で挑戦中のこと、これからやっていきたいことをも含んでいます。私たちのビジネスが環境に与える影響などは、さらにデータ化、可視化を進めていきたいと思っています。

社会・コミュニティの項目は、地域性の高い事業や、文化への配慮について書いています。法律で決まっているようなことは何もないのですが、その土地らしいビジネスや商品のあり方があるのでは、と考えていて、ファーメンステーションとしては大切にしていきたい分野です。

最後の取引先の項目では、コミットメントで挙げているような内容を、ビジネスパートナーにも求めていくことを挙げています。このようなレターを出すということ自体も、そのひとつと言えると思っています。

このように書くと、なんだか難しいことをお願いしているように見えてしまうかもしれないのですが、このコミットメントとは、あくまでファーメンステーションの「約束」です。いわば、私達の自己紹介を兼ねたお誘いのようなもので、自然環境や地域社会に配慮した事業への挑戦を一緒に行いませんか、という呼びかけです。私達自身、まだまだ試行錯誤の身でもありますし、ぜひ一緒に挑戦しませんか、というお誘いとして受け取っていただけたらと考えています。

ファーメンステーションでは創業時からステークホルダーとの対話を大切にしてきました。写真は、奥州ラボがある岩手で実施されたステークホルダーミーティング。

足りなかったのは「きっかけ」

このレター、シンプルに見えると思うのですが、実はかなり時間をかけて練りに練って完成させました。では、なぜわざわざ手間をかけてこんなことをしようと思ったのか。それは、社会に良い取り組みがきちんと評価され、金銭的にも報われるように、ビジネスと社会性の関係を少しでも変えられたらいいな、と思ったからです。

ファーメンステーションは未利用資源を事業の対象にしているので、どうしても環境面での取り組みが際立ちがちなのです。でも、意識しているのは全方位のインパクト。多角的な「良い会社」でありたい、と思っています。地域や雇用・会社のありかたなどについても、身近にできること、おもしろそうだと思えることから取り組んでいきたい。そんな想いで事業を進めるうちに、共感してくださったり、おもしろい取り組みをされている取引先が自然と増えていきました。

一方で、そういう取り組みって社会一般的にはまだまだ経済的にあまり評価されないという現実も肌で感じています。だから、まずはお互いの活動について知ること。そして褒め合うことから始めてみたいと思ったんです。

私には、忘れられない体験があります。ヨーロッパで、ある大手ビューティーブランドの方と商談したときのことです。目的は、原料を売り込むことだったのですが、結果的に一番盛り上がったのは、地域との付き合い方や、ビジネスや雇用の多様性へのアプローチの話でした。私達の取り組みを紹介すると「いいね!」と言ってすごく喜んでくださった。それがとっても嬉しかったし、日本ではなかなか無いことだったので、すごく印象に残っています。

でも、その商談の後にすぐに気がついたんです。私自身、ビジネスの交渉の場でそのような話をすることが、日本ではあまりなかったんだなって。だから、会社の取り組みを紹介する機会もあまりなかったし、逆に取引先の活動を知る機会も限られていた。それは、話す「きっかけ」がなかったからなのではないか、と。社会的な取り組みへの関心そのものは高まっているんだから、フックさえあれば、会話だって弾むはずだと考えたんです。

ヨーロッパでの商談の際に一番盛り上がったスライドは、ファーメンステーションを取り巻くステークホルダーやエコシステムについてのものでした。

小さなことを「褒め合う」ことからはじめたい

だから今回のレターの最後には、みなさんの取り組みについて具体的に紹介していただく自由記載の欄を設けています。今はまだ、空欄のままで返ってくることが多いのですが、ぜひここは深堀りして聞いてみたいところです。

実際に、取引先の方と会話をしていると「木を植えています」とか、「女性を積極的に採用しています」とか「省エネを意識しています」とか、いろいろな話がでてくる。「地域のお祭りを手伝っています」という方もいらっしゃいました。でも、その取り組みが社内にあまり知られていなかったり、知られていても社会的な取り組みとして評価されるものだという認識がないことが多い。まずは、そういうことに関心を持つ人がいるんだ。それを理由にビジネスが始まることがあるんだ、ということをもっと知っていただきたいと思っていますし、何よりそういう取り組みをしている会社が好きなんです。

倫理規定のようなものへの同意を取引先に求める企業は、今までもたくさんありました。でもそれらの多くは、実質的にはサイン「させる」に近い。サプライヤーのみを対象にしていて、同意しないと商売しない、できない、というようなスタンスがベースなのだと思います。もちろんそれはそれでやるべきですし、今回のレターを作るにあたってもとても参考になりました。

でも、私達がやりたいのは、そのようなネガティブチェックやリスクヘッジとは真逆のこと。お互いの活動を知り、ビジネスや取り組みの可能性を広げることです。だから、サプライヤーだけではなくて、クライアントを含めたすべてのビジネスパートナーに協力をお願いしています。

お客様にまで出すのか、と驚かれることもあるのですが、私としては、その反応そのものがとても意外でした。ビジネスというのは一方的な関係性では成立しない。全方位がステークホルダーなんだという意識が、創業時から強かったからだと思います。

そもそもファーメンステーションは、お客様との取引がパーパスへの共感から始まることが多い会社です。そうでなかったら「こんな事をお願いしたらお客様に煙たがられるんじゃないか、取引がなくなるんじゃないか」という風に躊躇してしまっていたかもしれません。今まであまり意識したことがなかったんですが、ひょっとしたら、こんな大胆なレターを出せるというのは、世の中的には少し特殊なのかもしれないとも思っています。

Mutual Commitmentの取り組みは、昨年末に始まったばかりです。やりかたも、みなさまのご意見をいただきながら、どんどん改善していきたいと思っています。わからない事があったら、質問もウェルカムです。数を集めることが目的ではないので、サラッとサインをして返していただくよりも、どんどん突っ込んでいただいたほうが、嬉しいくらいです。

そして集まった情報は、お互いに活用できるような仕組みを考えたいと思っています。「ここのメーカーさんはこんな取り組みをしていて、よかったらしい」というような事例を、みんなでシェアできるというのが理想です。

未利用資源のハブから、ソーシャルインパクトのハブへ。挑戦は始まったばかりです。

コミットメントの全文はこちら↓!!

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