酒井さん、B Corpってどうですか?―サスカレ特別編―

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ただいま勉強中 VOL.3

ファッション誌などで取り上げられるなど、日本でもB Corpのことが少しずつ知られるようになってきました。しかし取得事例はまだ少なく、コミュニティと呼べるものが確立されていないのが実情。世界的にはスタンダードになりつつあるこの認証制度について、もっと知って欲しい!社会をよくする仲間を増やしたい!そんな想いから、本シリーズでは前編後編にわたり、取得にまつわるリアルな体験談をお送りしてきました。

今回は特別編として、持続可能な社会やビジネスの実践者を対象としたラーニングコミュニティ、Sustainability Collegeのレクチャー、「FERMENSTATION 酒井さんに聞く『B Corp企業の作り方・サスカレ特別編』」のダイジェストを掲載。Sustainability Collegeの運営者であり、グリーンズ共同代表の植原正太郎さんとPUKUPUKU POTAPOTA発起人・酒井の対談をお送りします。

最初の話題は、取得に必要な費用や工数について。

植原(以下、U):B Corp取得にかかる費用ってあるんですか?

酒井(酒井、S):あります。(会社の)売り上げやサイズによるんです。うちの場合は10万円くらいだと思います。(後略)

U:(Bインパクトアセスメントを)申請した後には、コメントが来たりインタビューがあるということでした。どんなことを聞かれるんですか。

S:デューデリのような、審査のような感じです。事前のやりとりで情報が足りない項目を重点的に聞かれます。(アセスメントで)寄付をした、と回答していれば「レシートをつけて」と言われたり、環境面での施策についてのやりとりがあれば「使っている電力のエビデンスをください」と言われたり。エビデンスは日本語でも大丈夫でした。

U:事業性の面での数値も求められる、と。

S:答えていくうちに、そういう思想が自然とわかってくるような質問が多かったです。

B Corp取得のファーストステップは無料のオンラインのアセスメント。誰でも手軽に参加できる仕組みですが、審査の過程では、しっかりとエビデンスを求められます。話題は、審査をスムースに進めるコツに移ります。

U:インパクトアセスメントツールを提出する段階では、自己申告が多いと思うのですが、(その後の)確認の時にエビデンスや追加資料を提出するという認識であっていますか。

S:はい。審査というものはだいたいそうだと思うのですが、聞かれそうなことって大体わかりますよね。だから最初からなるべく質問が来ないように、わかりやすくエビデンスを提出するようにしていました。例えば「会社のパーパスに、事業性と社会性の両立についてのものがあるか。」という質問に対し、ただ「YES」と答えるだけでなく、自社のコミットメントを英訳して添付資料としておく、とか。書類をちゃんと揃えることを早めにやっておくと、後半が楽なんじゃないかな、と思います。

B Corpは200点満点、認定取得のラインは80点です。 ファーメンステーションのスコアは82.2点。実はギリギリでもありました。取得できるのは、申請した組織の5%ほどだという数字もあり、認証としては難関と言えるのかもしれません。話題は、難易度の肌感覚について、へ。

U:80点の難易度って、一般的な視点でいうとどのくらいだと感じますか?

S:(創業時から事業性と社会性を掲げている)うちで80点だったので、結構大変なのかもな、とも思いました。取得にあたって、私たちは(社内の仕組みや事業内容を)ほとんど何も変えていないんです。岩手の製造工場で使っているエネルギーはもともと代替エネルギーだし、水の量を減らす努力もしている。(中略)それからコミュニティ。B Corpには「半径何キロ以内の人と付き合っているとよしとする」みたいな地域の概念があるんです。私たちは岩手にも拠点を置き、そこで原料調達をしていたりするので、地域内の付き合いがあります。アロマのスプレーを障害者施設のみなさんに作っていただいていたりもする。そういう取り組みが一切ない会社が、(イチから)マインドを作ってとっていくのは、まあまあチャレンジングではあると思います。

U:そもそもファーメンステーションの事業や経営がB Corp的なアプローチをしていて、それがB Corpの評価に合わせたら80点を超えたと。

S:そういう感じですね。

U:現時点では、そうではない事業や会社のほうが多いと思います。B Corpの認証取得に合わせてアップデートをしたり改善するというのは、それはそれですごくいいことですよね。

S:とても素敵なことだと思います。

創業時からソーシャルインパクトを意識した事業を展開していたファーメンステーションですが、客観的な指標に照らし合わせることで、学びも多くあったそう。

U:プロセスの中で(今のファーメンステーションに)足りないことも見えてきた、ということです。改善に向かっている領域はどんなところでしょう。

S:全般的に、可視化と第三者の目線が足りないと思っています。例えばゴミを減らすための努力をしているけれど、実際にどのくらい減ったのかが把握できていない、とか。今、どのようなゴミがあって、どういう処理をしていて、(改善するには)どうしたらいいかの現状把握と、数値化をする必要があります。(取引先の選定については)B Corp取得の経験を踏まえて会社のメンバーが考えてくれた制度があります。取引先のスコアリングで、ビジネス面以外にも、地域との関わりや、社会的な活動についてのポイントが高いことを優先するという仕組みです。(中略)ボランティアや地域との付き合い方かたについては、素晴らしい取り組みをしている(B Corpの)先輩企業がたくさんあります。スタートアップと大きい会社にできることは違うので、バランスを見ながら優先順位を社内みんなで考えているところです。

消費者がアクセスできるB Corpについての情報も少しずつ増えてきました。しかし、認知はまだまだ。取得企業としてできることは何か。ディスカッションは続きます。

U:びっくりしたのですが、(取得企業が自社のプロダクトやサービスに)B Corpのマークをつけるのにそんなに大変ではないんです。「どうぞどうぞ」という感じ。それがすごくいいと思いました。だから、マークをつけるのも私たちのミッションだと思うんです。(中略)先月パリとロンドンに行った時に、The Body Shopのオフィスに行ったのですが、オフィスに「B!!」ってめちゃめちゃ大きく書いてありました。Aesopのショップも、入り口に書いてある。(中略)マークを目にすることをきっかけに、こういうものっていいよねって思ってもらえるといいと思っています。

The Body Shopの入口には WE’RE A B CORPの文字が。

企業側の認知を上げることも必要です。B Corpの存在が浸透している欧米はもとより、アジアの国々の中でも日本のビジネス界におけるB Corpの認知度は高いとは言えません。次の話題は、コミュニティを大きくするためのアイデアについて。

S:世界にはB Corp取得企業が約5000社あって、コミュニティが盛り上がっている地域もある。アメリカやヨーロッパは取得している企業も多く、お互いのノウハウの交換をするギャザリングなどがあったりもします。(中略)先日(パリで開催された国際テックカンファレンス「VIVA TECHNOLOGY 2022」に出たときに)知ったYnsect(インセクト)という昆虫食のスタートアップには、チーフインパクトオフィサーという立場の人がいました。(中略)従業員の日々の生活におけるLCAの計算などもしていて、「僕は出張が多いからカーボン出しすぎているんだよね」なんて言っている。そういうのってすごく面白い。(後略)

U:日本でも、スタートアップから大企業まで社会性と事業性を両立している企業がB Corpを取得していくと、コミュニティが立ち上がるでしょうし、お互いの事業を応援しあったり、事業提携するというような流れに自ずとなっていくんだろうなと思います。(中略)。昆虫スタートアップの方とは、B Corpネタで盛り上がったんですか。

S:(前略)外からの出資を受け、事業をがっと伸ばさないといけない。同時に社会性も大事。そんな中で葛藤があるのかという話をしました。彼の答えは「ない」。社会性を持った取り組みをしているということ自体が評価されるし、B Corpだと資金調達しやすいよ、と言っていて。投資家からの評判もすごくいいし、採用の目線でもすごくいい、と。(後略)

U:ファーメンステーションの場合は、海外へ自社のことを説明する時に際にB Corpであることがすごく有用なんだろうなと思いました。国内では具体的なメリットはありますか。

S:まだわからないですね。今年の3月にとったばかり、というのもあります。(中略)でも、B Corpという名前は知らなかったけど、すごくよくできた制度ですね、と興味を持ってくれる方はいます。ファーメンステーションのことが理解しやすくなったとも言われました。(後略)

U:国内でも、いち生活者から投資家にまでB Corpが浸透していけば、「ファーメンステーションめっちゃいいよね!!」と思ってくれる人が増え、資金調達も楽になり、売り上げも伸びる、みたいなことが起こるということですよね。現時点の日本では啓発フェーズということですね。

社会性と事業性を両立させるというファーメンステーションのような会社が、あえて認証を取る意味はどこにあるのか。最後は、コミュニティに期待するものについて。

S:B Corpは賛否両論ある制度です。ソーシャルインパクトを図る手段は他にもいろいろあると思います。(中略)何を使うにしても雰囲気だけではなく、数値化する、理解する、第三者に評価してもらって改善していく、というのを、ビジネスと同じように社会性に対してもやらないといけないんじゃないかな、と思っています。その時にB Corpはいい制度だし、めちゃめちゃ仲間がいそう。同じようなことをしている人と会える喜びをすごく感じています。取っていなくでも(B Corpに共感したり関心を持っている人は)仲間。気持ちの良いビジネスを、みんなとできたらいいなと思います。

Sustainable Collegeは、社会課題解決に特化したPR を行うmorning after cutting my hairと、人・社会・自然の関係性のデザインの実戦や発信を行うNPO法人グリーンズが運営するラーニングコミュニティです。多様なバックグラウンドを持つ講師を迎え、持続可能な社会やビジネスの実践者を対象とした講義やゼミが開かれています。ウェブサイトはこちら

今年6月には、認証取得を目指す組織のバイブルと言われるハンドブック、The B Corp Handbookの日本語版が発売されました。B Corpをもっと知るたは『B Corpハンドブック 良いビジネスの計測・実践・改善』をぜひ、手に取ってみてください。

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