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首都・東京を“ラボ”化せよ。

Future Innovators Summit Tokyo 2018、始動。

ARS ELECTRONICA SPECIAL ISSUE ART × INDUSTRY

オーストリアの小都市・リンツで毎年開催される世界最大級のメディアアートの祭典『アルスエレクトロニカ・フェスティバル』。フェスティバルでは、アート作品の展示に加え、さまざまなカンファレンスやワークショップが連日行われる。その中でひときわ存在感を放つのが、未来のプロトタイピングを行うサミット「FIS(Future Innovators Summit)」だ。

5月25日から27日にかけて、はじめてオーストリア以外の場所で行われる、「FIS Tokyo 2018」が開催される。そのテーマは、「東京を“ラボ”化する」こと。FIS Tokyo 2018は来る2月28日に参加者の応募を締切る。開催まで残り約3ヶ月となった今、FISでファシリテーターをつとめるVoiceVisionの田中和子へのインタビューを交えながら、FIS Tokyoがどのように東京をラボ化するのか、考察する。

未来をつくるテーブル、のつくり方

昨今、未来洞察ワークショップなどが話題を呼んでいる。企業においても、「2030年の未来像」などが議論のテーブルに上がることが少なくない。AIによる労働の代替、シンギュラリティ、ベーシックインカム、人生100年時代、人口減少社会など、企業の議論のテーブルには、さまざまなイシューが並び、それらの多くが前例のないものばかりだ。「行き先が不透明」というお決まりの台詞で片付ける前に、時にはイシューばかりではなくテーブルそのものに目を向けてみてはどうだろう?
たとえばその「未来をつくるテーブル」に、科学者やアーティスト、さらには哲学者はいるだろうか? FISは、言語や文化やバックグラウンドが全く異なる人々が集まり、未来のプロトタイプを生み出すことがその醍醐味だ。

――FISは、アルスエレクトロニカ・フェスティバルの空間で行われることが大きな魅力だと思われますが、東京で行う意図とは何でしょう?

田中:FIS Tokyoでは、未来において、私たちがよりよく在るためにはどのようなミッションを持つべきかを議論します。つまり「未来はこのようになるだろう」といった、技術動向などに基づいた正確な予測シナリオをつくることを目的とはしていません。「私たちはどのように在るべきか、それはなぜか」、という私たち自身の明日の「ミッション」を考える場にすることを意図しています。そのために東京という環境を最大限活用してゆくことを考えています。

東京は、長い伝統と歴史を持ち、最先端のテクノロジーが集まり、進化し続ける都市です。同時に東京は、数多くの老人が若者とともに暮らす、急速に老化している都市でもある。さらに巨大な高層ビル群が立ち並ぶ、現代的で人工的な都市でありながら、自然を感じられる場所も多い。東京は、課題も魅力も、非常に多くの要素が渾然一体となって成立している。この都市を、挑戦と希望の眼差しで見つめ、自分事として「あなたの実験」を繰り広げてもらおうというのがFIS Tokyoのテーマである「Tokyo as a Laboratory for our Future(未来のラボとしての東京)」の真意です。

――FIS Tokyoの議論のテーブルは、どのようなものになるのでしょうか?

田中:一言でいえば、私たちは「非常に多様性に富んだテーブル」をつくります。世界中からアーティスト、科学者、起業家など、多種多様な人々が集まります。
2014年に始まったFISは今年で開催5年目、通算5回目を迎えますが、アート、テクノロジー、サイエンス、ソサエティのテーマで結ばれたアルスエレクトロニカのコミュニティから、毎年多くの人々に参加していただいています。FIS Tokyoにおいても同様で、日常では出会うことの無い人々と出会いながら、共に生きたい未来を描いてゆきます。

2017年のアルスエレクトロニカ・フェスティバルのFISの様子。人種や国籍を超えた人々が集まる。Credit: Florian Voggeneder

――多様性という言葉が出ましたが、FIS Tokyoの目指す多様性の設計はどのようなものなのでしょうか?

田中:現在の日本企業におけるダイバーシティ経営は、「女性の雇用者数をどのように増やすか」や、「シニア層の再雇用をどうするか」といった、性別や年齢といった属性に重点を置かれた努力をされています。FIS Tokyoでは、これらの属性に加え、国籍や人種など、全く異なるバックグラウンドを持つ人、高い専門性を持つ人、そして何よりも、異なる価値観を持つ人々に集まっていただいています。価値観の異なる人々との議論が、共通言語が少ないことからもっとも難易度が高く、参加者は自らを相対化する必要性が高まることから、より多くの実りがあります。価値観の異なる人々と、「社会をよくしたい」「人々をより豊かにしたい」というビジョンは共有しながら、同じテーマでどれだけ深い議論ができるか――。それを設計に盛り込んでいます。

credit: Florian Voggeneder

田中 和子
株式会社Voice Vision、エグゼグティブコミュニティプロデューサー/マネジメントプラナー。1998年博報堂入社。2005年、2008年、2011年と3回出産。2男1女の母。2012年4月より、はたらく母のネットワーク「リーママ プロジェクト™」を主催。2014年よりFISへ参画。

未来のイノベーターの素質、強い意志とイマジネーション

「プロトタイプ」という言葉の意味は、「まだ量産され、市場で販売される準備が出来ていない、まったく新しいタイプの機械や装置」(※)のことだ。
FISでは、まさにこの意味に沿った、まったく新しいタイプの未来を生み出すことが求められる。そのために、参加者は数日間かけて非常に濃密な議論を繰り返し、最終日に未来のプロトタイプとしてのプレゼンテーションを行う。
そのプロセスには大きく分けて3つのステップがある。

1. Unlock the creative energy. (創造性を開放する)
2. Facilitate the creative process. (創造的なプロセスを促進する)
3. Extract creative question. (創造的な問い「クリエイティブ・クエスチョン」を引き出す)

複数のグループに分けられた参加者の議論のテーブルには、アーティストはもちろん、科学者、エンジニア、起業家、社会活動家、さらには哲学者といった、世界中の異なる文化やバックグラウンドを持つ人々が集う。彼らと出会い、アルスエレクトロニカ・フェスティバルという空間の中で創造性を開放する。
次いで、田中をはじめとしたFISファシリテーターがそれらの創造性を時に導きながら、未来をプロトタイピングするための適切なプロセスを促進。参加者は専属のメンターとアイデアを議論し、プレゼンテーションし、互いにランチミーティングなども楽しんで価値観を交換し、更に議論を深めてゆく。
そして最後に、創造的な問い「クリエイティブ・クエスチョン」をつくり、未来のプロトタイプを発表する。

以下が昨年、『Artificial Intelligence — The Other I(もうひとつの”I”)』をテーマに開催されたアルスエレクトロニカ・フェスティバルで行われたFISで生み出されたクリエイティブ・クエスチョンだ。

Future Humanity Group A:
“How can AI enable us to reach new heights of humanity?”
“人工知能はどのようにして、私たちが新しい人間性の高みに近づくことを可能にするだろうか”

Future Humanity Group B:
“What should AI not decide for us and what should AI decide for us?”
“人工知能は、私たちのために何を判断すべきではなく、また、何を判断すべきか”

Future Work Group:
“How would society progress if basic needs are guaranteed?”
“基本的に必要なものや欲求が保証されたとき、社会はどのように進歩するのだろう?”

Future Home Group:
“How will Artificial Consciousness co-author the future narratives of homes?”
“人工的な意識は未来において、どのようにして家庭の物語を共に生み出せるだろう?”

――FISでは、イノベーターをどのような人々と定義しているのでしょうか?

田中:意志とイマジネーションを持っている人、と私たちは定義しています。FISに参加するアーティスト、社会活動家、科学者は、自分の仕事に対して非常に強いプロ意識と信念を持っています。みな、成し遂げたい何かがあり、つくりたい何かがある。そうした人々を、私はイノベーターと呼びたい。
仕事としてイノベーションを志向するだけではなく、イノベーションを信じている人そのものであること。未来は評論したりするものじゃないと本当に信じ、「未来をつくる者になろう」という強いイマジネーションのある人こそが、本当に未来をつくっていくのだと私は信じています。

――イノベーターとは、特殊な才能に恵まれた人々、なのでしょうか?

田中:いいえ、意志とイマジネーションは誰でも持っているものです。しかし「あなたは何を信じていますか? あなたはこのイシューについてどう思いますか?」と聞かれて自分の意志に従って意見を言える人は少ないですよね? 特に、会社や組織に所属して肩書きを持つ人だと、気づいたら自分の意見ではなくて会社の意見を言っていた、ということが多いと思います。さらには、「意志を持て」ということは、日本の会社や組織の中では時に不快な出来事にもなり得ます。
FISでは、そうした普段の肩書をすべて捨てて、時には不安定で不快な状況にすら自分をさらしながら、意志とイマジネーションを引き出し、日常ではできない判断と着想を促していきます。

――クリエイティブ・クエスチョンはどのように引き出されるのでしょうか?

田中:博報堂とアルスエレクトロニカでは、クリエイティブ・クエスチョンの定義を主に3つの視点で評価しています。まず「本質的であるか」、「挑発的(provocative)であるか」そして「触媒機能を持っているか」です。
社会の常識と全く異なる挑発的な問い、一部のセクターを超えて、多様な人に作用する触媒機能を持つ問いをつくるというところが、参加者のみなさんが苦戦されるポイントですね。

※Collins Free Online Dictionaryの以下の定義による。
A prototype is a new type of machine or device which is not yet ready to be made in large numbers and sold.

東京の未来に必要な「良い時間とファンタジー」

Credit: tom mesic

田中は、今年で5年目を迎えるFISに関わり続けるファシリテーターであると同時に、12歳と6歳の男児、10歳の女児を持つ、2男1女の母でもある。この取材中にもアートの話題とともに子育てのたとえ話が机上を飛び交い、温かな笑いに包まれた。田中の中でFISと子育ては同じものなのだ。中でも、田中の子育て理論のひとつ「子どもには良い時間とファンタジー」は、彼女にとって、FIS Tokyoを支える重要な指針になっている。

田中:映画やアニメーションなど、“与えられた”ファンタジーではなくて、自分でつくるファンタジーです。つまり、安心できる良い時間の中で、「自分で考えろ」ということです(笑)。子どもは、おもちゃがなければ指で遊ぶ。さっきまでビー玉を色別に並べて遊んでいると思ったら、いつの間にか劇が始まっている。何も与えられなくても、行為そのものが遊びになるわけです。
同様にFISでは、その場の議論そのものがアート作品になります。アルスエレクトロニカ・フューチャーラボの所長はFISのことを「ダイアログ・アート」と評していました。アートというものは明確な答えを求めません。FISにおいても、私たちは明確で聡明な答えを求めません。求めているのは、より良い時間としての議論のプロセスであり、ファンタジーとしてのクリエイティブなクエスチョンなのです。

FIS Tokyoでは、定量的なデータをもとにつくられる国家の政策や未来予測とは違う、アートだからできる方法で、東京の未来を議論する場をつくっていきます。ゆくゆくは、FIS Tokyoという場があるということが、東京にとって大切なことになるように、つくっていけたらいいなと感じています。

FIS Tokyo 2018は5月25日から27日に開催される。来る2月28日には参加者の応募を締切る。参加してみたい方はお急ぎを。当日は、くれぐれも「良い時間とファンタジー」をお忘れなく――。

TEXT BY AKIHICO MORI

森 旭彦

京都生まれ。主にサイエンス、テクノロジー、アート、その交差点にある世界・社会を捉え表現することに関心がある。様々な研究者やアーティストを取材し、WIRED、ForbesJAPANなど各種メディア、大学に関連したプロジェクトで執筆を行う。

http://www.morry.mobi

博報堂ブランド・イノベーションデザイン

Hakuhodo Brand & Innovation Design

http://h-bid.jp

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http://aeti.jp/

大家雅広 / 田中れな

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