Code for Japan関治之さんとともに考える、テクノロジーを生かした地域課題の解決の形

誕生から20年以上が経過したインターネットは、いまや私たちの生活のありとあらゆる分野に使われるようになりました。多くの人たちが、普段から当たり前のようにスマートフォンを使って写真を撮ったり買い物をしたり、SNSを使いながらコミュニケーションしたりする時代。つまりそれは、誰もが気がつかないうちにテクノロジーを日常的に使う時代にいると言えます。そうしたなか、テクノロジーを活用して地域課題を解決する「シビックテック」という動きが出てきました。このシビックテックの考えを日本で広めたのが、Code for Japanです。

博報堂ソーシャルデザインは、一般社団法人Code for Japanの関治之さんをお招きし、 Code for Japanの活動やそれらを取り巻くシビックテックという新たな動き、それがもたらす意味についてディスカッションしました。

コミュニティとテクノロジーが生み出す新たな価値の可能性

関さんは、もともとシステムインテグレーターやスポーツのポータルサイトの立ち上げ、携帯電話向けの位置連動広告を展開する企業に勤務していました。2011年3月の東日本大震災がきっかけとなり、エンジニアたちが技術を使っていかにして社会に貢献するかを考えるようになったそうです。

「震災の時、エンジニアたちが自分たちは何もできない、という無力感がありました。しかし、エンジニアでも何か小さなことでもできるはずと思い、オープンソースコミュニティで活動していたことから、震災情報を地図上にマッピングし、見える化する『sinsai.info』というサイトを立ち上げました」(関さん)

各地のエンジニアたちと、Skypeなどを通じてコミュニケーションしながらサイトを構築。SNSでの呼びかけを通じて、被災地の情報を集めるボランティアに主婦など一般市民もオンライン上で参加してくれました。何かの人の役に立ちたいと思う純粋な気持ちで参加した人たちの行動力に、関さんは「誰もがちょっとした参加を通じて、社会を良くする活動ができるのでは」と考えるようになりました。

「普通の人たちのアクションとテクノロジーの力で何かできるのではないか。同時に、行政がITをきちんと活用できていないことも見えてきました。テクノロジーを活用して、新しい行政や地域のあり方を模索しようと考えていたとき、Code for Americaという団体を知りました。市民や地域コミュニティとデザイナーやエンジニア、行政職員らが地域課題解決という同じ目標に向かって活動している様子を知り、彼らのような活動を日本でもできないかと考え、現地まで足を運びました。そこから、Code for Americaと協力しながらコミュニティとテクノロジーの力で地域の課題解決を促すCode for Japanを立ち上げることにしたんです」(関さん)

地域課題を市民とエンジニアのコミュニティが解決する

Code for Japanは、「地域コミュニティづくり」と「組織の壁を超えて働ける越境人材づくり」の二つの事業を柱にしています。「地域コミュニティづくり」では、デザイナーやエンジニア、一般市民らが集まり、各地の「Code for ◯◯」と名付けられた市民団体やコミュニティが主体となって、アプリ開発や勉強会などを行っています。その背景には「地域の課題はその地にいる人たちでしか解決できない」という考えがあります。「地域のことを自分ごととして考え、行動する人たちの背中を押すきっかけとして、テクノロジーを活用すべきだ」と関さんは話します。

「例えば、Code for Kanazawaが開発したゴミの分別をビジュアライズした『5374.jp』というサービスがあります。これは、金沢市のゴミ出しにまつわる問題がきっかけでスタートしました。誰もが使えるようにサービスをオープンソース化しているので、今では全国各地でそれぞれの地域にいる人自身で自分たちの地域の『5374.jp』を立ち上げています。Code for Sapporoは、子育て問題を解決するために行政が持っている公共データを使って保育園を地図から探せるマップを開発しました。他にも、地元のお祭りをテーマにしたサービスなど、身近な課題を解決しようとする動きが起き始めました。今では、全国に39ものCode for ◯◯が活動しています」(関さん)

ただアプリを開発するだけでなく、実際に街中を歩きながら課題を見つけるためのフィールドワークを行うためのイベントや、多世代、他分野の人たちが協力して取り組むためのコミュニティ活動にも力を入れるなど、広く市民を巻き込んだ活動がなされているのも特徴です。また、開発されたサービスの多くが、オープンソースとして広く多くの人たちに使ってもらえる設計にしています。エンジニアたちのコミュニティが生まれ、そこから次々と新たなサービスが生まれてくる。それらのサービスが、地域を横断して利用されることで、少しずつ地域課題も解決されはじめていくのです。

二つ目の「組織の壁を超えて働ける越境人材づくり」では、企業で働いているエンジニアやデザイナーらが自治体職員として一定期間働き、公共サービスの開発やデザイン、オープンデータの活用を通じたシティプロモーションなどを行いながら、プロジェクトラーニングを行う「フェローシップ」プログラムを展開。これまでに、神戸市や横浜市、鯖江市などの自治体に対して、Yahoo、富士通、NECなどの企業らが参加しています。

被災した地域の絆をテクノロジーで取り戻す

Code for Japanが実施している「フェローシップ」プログラムのきっかけは、東日本大震災で避難生活を余儀なくされた福島県浪江町の課題解決でした。2万人以上が避難生活をしている浪江町の人たち。全国各地に分散避難したことで、浪江町からのお知らせが届きにくく、また自治体にとっても町民がどのような生活を送っているのかを知る術がなく、ご近所の地縁が薄れる心配もあります。そこで、町民にタブレットを配布し、町民同士がコミュニケーションできるためのサービス開発を行うことに。フェローとしてITに理解のある人材が浪江町の職員として派遣され、関さん含めたCode for Japanのメンバーらと市民が一緒になった住民参加型のワークショップが行われました。

「どんなものがいいか、どういうシーンで使われるか。HCD(Human Centered Design)というデザイン手法をもとに、浪江町民の方々ととともに考えともにつくりながら進めてきました。 6回のアイデアソンで420名が参加し、770以上のアイデアが集まりました。そこからパターンを導き出し、プロトタイプを作っていきました。プロトタイプだけでなく、実際にタブレットで触りながら、アイデアが実現されているか、アプリが具体的に役に立ちそうかなどの改善点を探していきました」(関さん)

こうした導入ワークショップは、ユーザーである市民に使ってもらうことを意識するだけでなく、職員のITに関する理解を促す効果もあります。ハッカソンで得たプロトタイプをもとにしてアプリの仕様書を記述。仕様書の内容やベンダー募集の提案プレゼンのすべてをインターネット上で公開するなど、あらゆる様子をオープンにすることで透明性を高め、町民にとっても安心感や信頼性を高めることも意識しています。

こうして、なみえ新聞、なみえ写真投稿、なみえタブレット道場、なみえ放射線情報などのサービスが誕生。アプリの利用率も80%と高く、タブレット投稿を町民同士が互いに教えあうなかで新しい友人関係が生まれ、そこから積極的にITを使う人たちも増えてきました。写真投稿では毎日数十件もの浪江町の桜並木が投稿されるなど、地域の様子を知れるツールとして町民に愛用されています。

オープンな技術は、課題解決を促進する要となる

テクノロジーを活用し、市民主導で地域の課題解決に取り組むことを「シビックテック」と呼ばれています。日本だけでなく世界でもシビックテックという潮流は次第に大きくなっています。例えば、道路や壁面の落書きの様子をスマホで撮影し、その投稿された写真をもとに行政が修繕対応するSee ClickFixや、生活保護の申請漏れを防ぐ申請フードスタンプのGetCalFreshなど、さまざまなサービスが生まれています。

こうしたシビックテックの領域は、世界では一つの市場としても注目されています。その背景には、政府や行政機能を私たちの生活をこれまで以上に密接したものにアップデートするために、行政だけに頼るのでなく民間や市民の力も活用することが求められているからです。市民のアイデアを生かしながら行政課題を解決し、それをビジネスにする。社会課題や地域課題を解決するためにテクノロジーを活用することに対して、社会的投資の意義を感じる投資家も増えてきました。

アメリカでは、大統領選などを筆頭にITの活用を政府行政も力をいれています。ソフトウェア共有サービスのGithubを積極的に活用するなど、行政がASPサービスを使うのも一般的になりつつあります。市民側の意識や行動だけでなく、行政側も時代に合ったツールを活用するためのマインドシフトや、オープンデータを促進するための仕組みづくりが今後ますます求められています。

ありとあらゆるものにテクノロジーが活用される時代。誰もがテクノロジーに触れる時代、それはつまり、それらのツールをどう活用していくかが問われる時代とも言えます。テクノロジーは日進月歩で進化していくもの。技術を囲い込むのではなく、オープンにし、広く多くの人たちと共創することで新たなイノベーションが生まれると関さんは考えています。

「自分のルーツは技術者。だからこそ、オープンな技術で社会を良くしていきたいと考えています。オープンソースは誰もが使えるもので、使った人が自分の好きに利用できます。代わりに、オープンソースを使った人はそれを公開しないといけません。それによってコミュニティ全体が自然と良い方向へと動いていく。

振り返ると、インターネットの歴史はオープンソースがプロダクトを打ち負かした歴史でもありました。かつては高価だったウェブサーバーも、いまでは安価なものになりました。まさに『伽藍とバザール』という考え方です。

オープンな技術が活用されれば、一つの行政だけでなく別の行政に横展開しやすい。そこに、市民のアイデアや行動力が加わることで、社会全体の課題解決が促進されるはず。そのきっかけをつくっていきたいですね」(関さん)

テクノロジーが発達している時代に、行政のあり方も変化が求められています。けれども、あくまでテクノロジーはツールでしかありません。それらを使う私たち自身の姿勢も求められています。シビックテックを通じ、市民が参画できるきっかけをつくること。社会や地域に役に立つ”優しいテクノロジー”が、これからの時代をデザインするきっかけとなるのかもしれません。

記事構成・執筆:江口晋太朗