個人の働きが社会とつながるために必要なこととは、クロスフィールズ小沼さんが考える3つの問い

日本企業で働く人たちに対して、自身のスキルや能力を活用して新興国での活動に挑戦する「留職」プログラムを提供し、社会課題解決の機会と企業の人材育成を同時に目指すNPO法人クロスフィールズ。代表である小沼大地さんは青年海外協力隊に参加後、コンサルティング会社を経てNPO法人クロスフィールズを創業しました。小沼さんが考える、これからの社会を生き抜く個人が問うべきクリエイティブクエスチョンとはなにか。

無意識にある「枠」を飛び越えるためのパッションを持っているか?

小沼さんが取り組んでいる留職プログラムは、大企業に勤めている若手を東南アジアなどの新興国に派遣し、自身のスキルを生かして現地のNPOや社会的企業を支援するプログラムです。これまでに110人以上がプログラムに参加しています。

留職プログラムの原点は、小沼さん自身の経験からきています。小沼さんは、かつて青年海外協力隊としてシリアで活動していました。そこでは自ら課題を見つけ、行動し、想いを共感する仲間を集めてプロジェクトを進行してきたそうです。この経験をもとに、それまでの固定概念を取り払い、想いをもって現地の課題解決に向き合い、自身で答えを模索することがいかに大切かを、多くの人に経験してもらうために留職プログラムをスタートさせました。

小沼さんがよく紹介する動画があります。その動画は、ノミは本来30センチほど飛べるのに、瓶のなかに入れてフタをし、時間が経過するとノミはフタまでしか飛べなくなり、さらにフタを外しても瓶の枠から出られなくなってしまうというもの。けれども、普通に飛べるノミを一匹混ぜると飛べないノミも飛べるようになるという、そんな動画です。つまり、本来は飛び越える能力があるにもかかわらず、一度枠が作られたことによって自分自身で枠があると認識し、その範囲内でしか行動しなくなるので、その無意識の枠をいかにして取り払うかを説いている。

慣習の違う国や地域に赴くことは、自身が当たり前だと思っていたものが、そうではないことに驚きや衝撃を受ける機会でもあります。大企業における仕事は、往々にしてすでに設定されたお題に対して成果を出すことが求められます。しかし、慣習の違う場所では、そのお題自体を自らで生み出さなければいけません。だからこそ、社会に対して何かしらの自分なりの意見やアイデアを投げ、そこから次第に形にしていくことが求められます。自分の思考を縛り付けている、固定概念の「枠」を外して考える必要があるのです。

一度「枠」を外してしまえば、次からは「枠」を越えることの恐怖心もなくなっていきます。ただ、その「枠」を飛び越えるためには、自身のリアルな体験に基づいて思考した考えを示さなければいけません。つまり、答えのない事業を自ら作り出そうとする「パッション」が重要だと小沼さんは指摘します。

どんな物事も、パッションを持って行動しなければ既存の成功例を模倣するだけ、与えられたものをこなすだけ、という考えになりがちです。答えを探し求めるのではなく、凝り固まった固定概念の「枠」を超えて物事を捉え、自らのパッションをもとに未来を切り開くこと。現場で求められる課題を認識し、そこに対して自身の情熱と覚悟を持って向き合うことで、自身の「枠」を飛び越えることができるのです。

自分自身にとって大切な「ものさし」を、いかに養うことができるのか?

ひとつの企業に長く勤めていると、その企業内での論理や事業の幅のなかで物事を考えがちです。そのような状況に陥らないためには、前述したパッションを持つだけではなく、自身の「ものさし」を持って常日頃から行動することが重要であると小沼さんは指摘します。

海外の企業の役員層は、会社に勤めるだけでなくNPOの活動にも参加している人が多いそうです。NPOの活動に参加することで社会とのつながりをもち、世界的な社会課題について深く理解するとともに、他の分野の人たちと議論したりしながら自身の思考の幅を広げているのです。企業に勤め、自社の製品のことだけを考えるのではなく、製品やその背景にある社会課題や社会全体の課題に関する俯瞰した視座を持つことが大切だと考えられているからです。

日本でも、兼業や副業に対する社会的な認知が高まってきました。会社員であっても、休日や空いている時間にNPOなどの活動に参加することで、自身の成長や社会にコミットする方法を見出すことができます。そこから次なる自身の働き方を見つけたり、違ったコミュニティのネットワークを会社に活かしたりすることができるのではないでしょうか。

自身が目指す生きがいや働き方を実現させるためには、自分の考える「豊かさのものさし」をどのように持つかを考えることが重要だと、小沼さんは指摘します。普段、企業で働くこと以外に没頭できるものがないと、企業が示す目標が自身の行動の指針になりがちです。年収や役職といったものではなく、家族と過ごす時間や地域コミュニティで過ごすことの大切さなど、自分自身にとって、豊かさを感じる「ものさし」は何かを考えることが重要なのです。

出世や給与だけではなく、定年後も続く生涯に渡る自身にとっての大切な「ものさし」とは何かを常に考え、その「ものさし」を軸に行動すること。「ものさし」に照らし合わせることで、向き合うべきは仕事だけではなく、家族や地域もあるのでは?などと考えることになり、それが個人の幸せにつながっていく。やがてその自身の「ものさし」を軸に行動する人たちが増えることで、社会全体が良くなっていく、そう小沼さんは考えています。

個人の生きがいとソーシャルインパクトをつなげる、これからの働き方は?

自身のものさしを大切にすること。それを実現するためには、会社だけに依存する暮らしをするのではなく、会社外のコミュニティも含めて大切にして暮らす必要があります。仕事の縁だけでなく、家族や地域、個人的な趣味から派生したコミュニティなど、さまざまな社会とつながるポートフォリオを組み、個人としての生きがいや働きがいと照らし合わせることで、立脚する自身のものさしで普段の行動や仕事に結びつけることができます。

昨今の兼業や副業などの働き方改革の流れをうけて、もっと多くの人が幅広い形でNPOに関わるようになってほしいと小沼さんは考えています。前述のように、ビジネスの世界においても、日々の仕事やその成果をいかに社会的な成果と結びつけられるのかが求められるようになってきています。そうした時代背景のなかで、ビジネスパーソンがNPOにかかわる経験を持っていることは大いにキャリア上も役に立つはずだと小沼さんは話します。

大企業で働きながら社内で新たな動きを起こすことは、その会社にとってだけではなく、社会全体にとっても必要なことです。大企業というリソースを活用することで、個人や小規模の団体では実現できないインパクトを与えることができるからです。

大企業で働く人が自身の「ものさし」を軸に社会とつながり、そこから見えてくる課題に向き合うことで、これまでのような企業の経済活動を軸としたエコノミックインパクトだけではなく、社会的課題の解決に貢献するソーシャルインパクトを生むという視点から、事業やプロジェクトを進められるようになっていく。そして、働く個人たちも、自身の生きがいや働きがいとソーシャルインパクトをつなげることができるようになっていくはずだと、小沼さんは話します。

留職プログラムをスタートさせてから5年以上が経った現在、初期に留職を経験した人たちは、いま、自らの意志を持って会社のなかで新しい行動を起こしています。社内外の様々なコミュニティに出入りしていきながら、自身の事業アイデアをもとに社内の新規プロジェクトを立ち上げ、その担当者になるような事例も増えてきました。彼らのようなエコノミックインパクトとソーシャルインパクトの両方の目線を持った人材が、数年後、数十年後にその会社の役員になった時、その企業はより力強く持続的に社会に影響を与え続ける組織に成長することができるはずなのです。

個人の働き方が変われば企業体質が変わる。企業体質が変われば社会が変わる。そうした社会が次なる個人をつくりあげていく。個人から組織やコミュニティ、さらに社会へとつながる円環のなかで、どのように社会へより良い影響を与えていくのか。100年生きる現代において、個人の生き方を規定するのは、会社ではなく働く個人の姿勢です。自分自身がどう働きたいか、どのような価値を社会に提供しようと思うのか。その根底には、既存のビジネスニーズではなく、社会課題に立脚した視点で、自分自身の生き方を捉え直す姿勢が必要なのです。

留職や新たな人材育成の場を通じて、個人の生き方を捉え直すこと。社会とつながり、自身が社会に対して影響を与えることができるのかを考えること。こうした自身の生き方や働き方を捉え直すために、企業という場を活用していくかを考えていくべきなのかもしれません。

記事構成・執筆:江口晋太朗