BID_blog
BID_blog
Jun 27, 2018 · 22 min read

FIS TOKYO report #1 Opening_ 東京が「未来のラボ」になる日

ARS ELECTRONICA SPECIAL ISSUE ART × INDUSTRY

5月25日、東京ミッドタウンで開催された3日間にわたるイベント「Future Innovators Summit TOKYO(フューチャー・イノベーターズ・サミット・トウキョウ)」(以下、FIS TOKYO)が初日を迎えた。

「キックオフデイ」での、ショートスピーチとパネルディスカッションで構成されるオープニングセッションの様子をレポートする。

レジェンド、降臨

セッションの始まりを飾るスピーチを行ったのは東京ミッドタウンマネジメント株式会社代表取締役社長 中村康浩氏。

2017年8月、東京ミッドタウンは、アルスエレクトロニカとコラボレーションし、「未来の学校 powered by アルスエレクトロニカ」を開催している。一般的な学校では教わらない、独創的なデザインやアートを体感できるイベントだ。同イベントには、2017年の「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」での最優秀賞「ゴールデン・ニカ賞」を受賞したアーティスト、デイヴィッド・オライリーによる作品も展示された。

「東京ミッドタウンは、未来を先取りするような“街”でありたいと考えています。私たちはクリエイティビティというコンセプトでこの街の運営を行ってきました。昨年はオーストリア・リンツで開催されたアルスエレクトロニカ・フェスティバルにも足を運び、その内容の素晴らしさに感激しました。今後もアルスエレクトロニカとともに、未来を先取りする街を形にしていきたいと考えています」(中村氏)

続くスピーチを行ったのは、アルスエレクトロニカの創始者であるハネス・レオポルドゼーダー(hannes leopldseder)氏。

「アルスエレクトロニカが生まれたのは、東京とは異なるオーストリアの小都市・リンツでした。以降30年間、毎年リンツには多くの科学者、アーティスト、ジャーナリストが日本からも集まり続けています。私は今日、FIS TOKYOに、アルスエレクトロニカがそうしてきたように、世界中からイノベーターを集めることができたことに喜び、感謝をしています。私たちはこれから、AIやロボティクスをはじめとした、高度なテクノロジーによって複雑化してゆく未来に直面してゆく。アルスエレクトロニカはこれからもアート、テクノロジー、そして社会を結びつけ、新しい考え方を構築し、よりよい暮らしへ貢献してゆくことが求められていきます。このFIS TOKYOが新しく、イノベーティブで、成功裏に終わることを祈っています。ありがとう」(ハネス)

ハネス・レオポルドゼーダー氏。1979年に開催された第1回のフェスティバルとともに、アルスエレクトロニカの歴史が幕を開ける。その中心人物が、当時オーストリア国営放送局のマネージャーを務めていたハネス氏ほか、電子音楽アーティストを含む4人の“イノベーター”たちだった。 Photo by Tsukuru Ozaki / Ars Electronica Tokyo Initiative

会場に拍手が響いた。それはオーストリア・リンツで行われてきたアルスエレクトロニカの歩みに、初の国外開催という新たな1ページが記された瞬間の祝福でもあった。

ラボとは、未来の可能性を探す場所

ゲルフリート・ストッカー氏(写真右)、北風勝(写真中央)。Photo by Tsukuru Ozaki / Ars Electronica Tokyo Initiative

FIS TOKYOのテーマは「Tokyo as a Laboratory for our Future」つまり 「東京は未来のラボである」だ。続くオープニングセッションのパネルディスカッションでは、東京がどのようにして未来のラボとなるのかについて意見が交わされた。

登壇者は、アルスエレクトロニカ アーティスティック・ディレクター ゲルフリート・ストッカー氏、公営財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京 オリンピック・パラリンピック文化戦略担当課 石綿祐子氏、そして株式会社博報堂取締役常務執行役員 北風勝だ。

北風:私たちにとって東京は日常を営む場所だが、世界各国から集ったイノベーターからすれば、非日常であり、社会実験の場として捉えることができる。FIS TOKYOでは、日常の視点を変えて、東京の持つ独特の空気感、可能性を知覚し、東京の人々に発信してほしいと思います。

ストッカー:アルスエレクトロニカが今回行う挑戦は、リアルな都市の中でFIS TOKYOを開催するということです。FISそのものは今回を入れて5回目の開催となりますが、フェスティバルのように計画された場所ではなく、リアリティのある実際の都市で行うことが、これまでと大きく異なる点です。

東京は、世界有数の高度なインフラストラクチャーを持ち、非常に発展したテクノロジーに支えられています。こうした特徴が、未来の都市を再発明する“ラボ”として最適だと考えられます。そしてラボとは、必ずしも答えを出す場所ではなく、人々が答えを探すプロセスがある場所だと私は考えています。世界中から集まった科学者、起業家、社会活動家、アーティストによって生み出されたアイデアを実社会に適用することも視野に入れながら、FIS TOKYOの中で語り合いを深めていきたいと思います。

これら主催者サイドの期待に対し、石綿氏は行政の観点から、2020年の東京オリンピックへ先駆けた、“新しいこと”を起こす契機となることを期待すると述べた。

石綿:アルスエレクトロニカと博報堂の活動は、4年前から見てきたが、非常にユニークで大きなポテンシャルがあると感じています。東京は国際都市を標榜しているが、私としては“井の中の蛙”であることは否めないと感じます。外から見たときに、実際に国際都市としてどのような機能や特徴を持っているのかが分かりにくいことが多いからです。この状況に対し、国内外からイノベーターを集め、東京のために議論を行う場を提供するFIS TOKYOの試みは革新的だといえます。保守的な行政の価値観を刷新する試みとしても、良いチャンスになればと考えています。

アートと産業の交差点

アルスエレクトロニカにとってアートとは、額縁の中にある美術品ではない。社会における「“問い”を投げかけるすべての活動」だ。この考えのもと、アルスエレクトロニカはアートと科学、テクノロジー、そして社会との交差点を生み出し、活動を行ってきた。

そしてFIS TOKYOの使命は、アートと産業の交差点を東京で模索することだ。

ストッカー:私たちはこの社会で、もはやテクノロジーから離れては生きることができません。そんな社会にとって大切なことは、どのようにして産業によって発展するテクノロジーと、人間が享受すべき利益を協調させるかです。その上で、アートはとても役に立つと私は考えています。

そしてテクノロジーと人間との協調を模索するためには、産業に従事する企業、アーティスト、科学者などが集まって議論を重ね、社会をイノベーションする場が必要です。

北風:企業の経営者は産業にとってアートが必要なことを認識しています。しかし問題は、どのように取り入れるべきかが分からない場合が多いということです。

たとえば、アートは問いを求め、産業は答えを求めると考えることができます。そして、産業はひとつの問いに対してひとつの答えを求める。そうした産業から見たとき、アーティストが生み出した問いは、たくさんの答えを生み出し、しばし曖昧なものに見えるのかもしれません。

しかし実際にアーティストが生み出しているものは、問いと答えの間にある「場」なのです。そうしたことを対話の中で感じてもらえる機会にFIS TOKYOがなってゆくといいと感じています。

社会においてアートを機能させるには、行政の支援が欠かせない。石綿氏はアートの支援を、「未知を支援すること」と表現する。

石綿:私が関わっている文化政策の観点から見たとき、アートは人と人をつなぐコミュニケーションツールです。そして社会としてアートを支援することは、いわば“未知への支援”。何が生まれるかは分からない、新しく未知数のものに対し、支援するということ。それが、人々に新しい刺激を与え、都市の新しい価値を見出すことに繋がると感じています。

Photo by Masahiro Oie / Ars Electronica Tokyo Initiative

Don’t be think-tank, be do-tank

ストッカー:アートの役割は、狭義の「芸術作品」や「アートプロジェクト」ではなく、社会に「開かれた場」を生み出すことにあります。そしてアーティストの役割は、この社会でまったく新しいものをつくりだすということです。彼らの思想やクリエイティビティは、この社会へウィルスのように感染し、人々に新しい対話を生み出してゆくことが期待されます。

北風:ストッカーさんが言っていることは、アーティストは思考する人ではなく、実践する人だということですね。広告の制作でもよく言われることですが。鋭い観察眼としての「目」や、表現し説明する「口」、あるいは心意気としての「ハート」はもちろん大切です。しかし何よりも大切なものは、つくりだす「腕」なのです。アーティストは、アートという具体的な形を、自分の腕でつくりだして人に見せることができる。見る人はそのアイデアが良いか悪いかが分かり、対話することができる。そうしたアーティストの実践者としての良さを、人々がうまく使うことができれば、産業も、あるいは都市も、より進んだ形で問題を解決してゆくことができるのではないか。今の産業に必要なものは「Think-tank」ではなく、実践による「Do-tank」なのではないでしょうか?

社会におけるアーティストの重要な役割は、まだ社会に存在していない問題や価値を形にして表現できることだ。3者の話から、「今」をつくる実践者が産業や企業であるとしたとき、アーティストはいわば未来の実践者だと言えるだろう。

「来たる社会」を具現化し、現在に対して問いかけを行い、人々に対話を生み出すことができる。アートはそうした特性上、「今」には役に立たないかもしれない。しかし、企業や産業が未来へ行こうとするとき、アートこそが地図となり、そしてアーティストの思想が追い風となるだろう。

「エラー」こそがイノベーションにとって、最良の友となる。

5月25日、「Future Innovators Summit TOKYO(フューチャー・イノベーターズ・サミット・トウキョウ)」(以下、FIS TOKYO)が開催初日を迎えた。初日の「キックオフデイ」では、ショートスピーチとパネルディスカッションで構成されるオープニングセッションが、東京ミッドタウンで行われた。

オープニングセッションの中のプログラム、「インスピレーショントーク」の様子をレポートする。

FIS TOKYOでは、イノベーターたちが以下のテーマのグループに分かれ、3日間かけて集中的なディスカッションを行う。このトークでは、それぞれのグループのメンターが、ディスカッションの起点となるインスピレーションを与える。

登壇したのは、ゲルフリート・ストッカー氏、東京大学生産技術研究所の山中俊治氏、クライン・ダイサム・アーキテクツ(以下KDa)からアストリッド・クライン氏とマーク・ダイサム氏だ。

DEATH — LIFE in Tokyo
世界一高齢化が進んだ都市で考える未来の生と死とは?
メンター:ゲルフリート・ストッカー氏

TECH — SKIN in Tokyo
先端テクノロジー都市が発信するファッションと身体の未来とは?
メンター:山中俊治氏

PUBLIC — PRIVATE in Tokyo
広場のない大都市で考える未来の個人と公共とは?
メンター:アストリッド・クライン氏、マーク・ダイサム氏

ストッカー:先日、自動運転車による初の死亡事故が発生しました。まだ開発途上とも言えるテクノロジーが人の命を奪うような場合、一体誰が責任をとるべきなのか、まだ答が出ていません。

また東京は、異なる世代に属する人々が過剰に密集している大都市です。それに伴ってさまざまな社会問題が発生しており、お年寄りが孤立しながらこの世を去ってゆくという現実もそのひとつです。

これらの諸問題をどのようにして解決し、社会システムを成り立たせ、高度化するテクノロジーや異なる世代間における共生を模索するべきかを考えることが重要だと感じます。

DEATH — LIFE in Tokyo のグループにおいてインスピレーションとなるものは、高度なテクノロジーと、多様な世代の生活者が重層化し、密集する東京で模索する「人間性」なのだろう。

プロトタイプは実験機ではない。メディアである

山中俊治氏(写真左)。TECH — SKIN in Tokyo のグループのメンターを務める。Photo by Tsukuru Ozaki / Ars Electronica Tokyo Initiative

続いて、山中俊治氏がプレゼンテーションを行った。美しい義足からユニークなロボットまでを手がけるインダストリアルデザイナーとして知られる山中氏はいわゆる「3Dプリンティング」として知られる「Additive Manufacturing」技術の可能性に言及し、「プロトタイピング」の重要性を指摘した。

山中:Additive Manufacturing、現在は「3Dプリンター」として広く知られるようになった技術は、約10年前までは限られた人しか使うことのできない、まさに“夢の機械”でした。

Additive Manufacturingによって、私たちは存在することのなかった素材を“設計”することが可能になりました。たとえば細部の緻密なストラクチャーや、柔軟性、新たな触感を持つ素材すらも、コンピュータによって設計することができるようになったのです。

https://www.youtube.com/watch?v=SSmZ5y4gbjs

2017年のアルスエレクトロニカ・フェスティバルでも展示された「READY TO CRAWL」は、3Dプリンタによって「一体成型」することで生まれている生物型ロボットだ。この世界のほとんどの機械は「アセンブリ」し、組み立てられることで生まれている。しかしREADY TO CRAWLのロボットは、3Dプリンタによって成形し、モーターを取り付けるだけで、ひとつの機械として起動する。山中氏の研究室の学生による「生物は組み立てられた状態で生まれてくる。それが機械にも可能になる」というインスピレーションのもとに生まれているという。

「いずれは自動車も、こうしてひとつの素材からひとつのモノとしてつくり出されるのようになるのかもしれません」と山中氏は語る。

続いて山中氏が推進する、美しく、高性能な義足の開発プロジェクトが紹介された。2009年からロンドンパラリンピック日本代表の高桑早生選手とともに開発が進められている。

義足の開発にAdditive Manufacturing技術を用いたものが「Rami」だ。骨組織が持つような「ネットワーク構造」が義足全体を成り立たせるデザインは、美しい外見と、人体への整合性の両方を合理的に実現している。

https://www.youtube.com/watch?v=z9CUWdscKwQ

山中:FIS TOKYOに参加するイノベーターのみなさんには、ぜひ「プロトタイプ」をつくってほしいと思います。プロトタイプは狭義の「実験機」を意味するものではありません。社会に対し、研究の重要さを訴えるためのメディアであり、マーケットを刺激し、研究資金を手に入れるための経済効果をもたらすツールでもある。プロトタイプは、社会においてテクノロジーが何をもたらすかを確認するためものなのです。

パブリックとプライベートは仕組みではない。感情がつくるものだ

続いて、KDaのアストリッド・クライン氏とマーク・ダイサム氏がプレゼンテーションを行った。

ロイヤル・カレッジ・オブ・アートを修了した両者によって創業されたKDaは、フラッグシップストアやリゾートなどの建築、さらにインテリアからインスタレーションまでを幅広く手がけるクリエイティブ・ファームだ。

アストリッド・クライン氏(写真中央)とマーク・ダイサム氏(写真右)。PUBLIC — PRIVATE in Tokyo のメンターをつとめる。Photo by Tsukuru Ozaki / Ars Electronica Tokyo Initiative

また、2003年には、デザイナーやクリエイターらの交流の場としてのプレゼンテーション・イベント「PechaKucha Night」を企画。現在では世界各国の1000以上もの都市で開催されている。

両者がクリエイションの上で重視しているのが、パブリックスペースとプライベートスペースにおける人間の感情だ。

クライン:私たちがやっていることは建築なのですが、ふたりともバックグラウンドにはアートがある。ただ床、壁、天井をつくるだけではなく、居心地の良さや感情に訴えかけていきたいと思っています。感情には、人が人として生きていく上で、深い意味があると考えているからです。

http://www.klein-dytham.com/gallery-toto-2/

成田国際空港にある「Gallery TOTO」は、デジタルディスプレイによって演出された「非常に美しいトイレ」だ。

空港でフライトを待つ人々は、Gallery TOTOを目にしたら、「トイレの中が透けて見えているのか?」と驚くかもしれない。しかしよく見ていると、影絵のように映し出されたトイレで人々は、ダンスし、飛び跳ねている。

クライン:トイレはあまり行きたくないパブリックスペースですよね? 暗くて、良い匂いもしません。私たちはその先入観を変える挑戦をしました。人々がを見たときに「トイレで何が起きているの?」という驚きの感情に訴えかけるデザインを施すことで、トイレをギャラリーのように感じられるものにしたわけです。

http://www.klein-dytham.com/openhouse/

次はタイの首都バンコク、中央大使館の中にある「OPEN HOUSE」が紹介された。レストラン、バー、ギャラリー、そしてコワーキングスペースほかの商業施設からなる大型公共施設だ。ふたりがOPEN HOUSEのデザインで考えたことは、人が自らのプライベートスペースに対して抱く感情だった。

ダイサム:東京のような大都市であるバンコクでは、人々は目的の場所だけで時間を過ごします。その途中で少しリラックスして、おしゃべりをするような場所やシチュエーションが少ないのです。

クライン:そこで私たちが目指したのは「小さなポケット」のような場所をつくることでした。大きくて広い施設の中で、自分がちっぽけな「アリ」のように感じて不安にならないように、どこか守られているような、快適な気持ちになれるような、小さなポケットのようなスペースをつくろうと考えたのです。

クライン氏とダイサム氏のパブリックスペース、プライベートスペースの捉え方は、日常からの「ヒューマンリサーチ」にある。彼女らは生活者として暮らしながら、人々がどのような場所で何をして過ごし、どんな感情を抱いているかをつぶさに考察している。

ダイサム:たとえばロンドンと東京では、プライベートスペースの広さが異なります。ロンドンの地下鉄では新聞を大きく広げて読んでいても、大して問題にはならない。これが東京だと、ちょっと迷惑に感じますよね?

本にカバーをかけるのも東京ならではの光景です。自分が読んでいる本を隠すのはなぜなのでしょう? ここにも、東京ならではのパブリックとプライベートへの考え方がみてとれます。

議論が展開する中で、山中氏が産業の構造がつくりだした現代のパブリックスペースの価値観に言及し、プロダクトがパーソナルとパブリックの概念に変化を与える未来について語った。

山中:現代のパブリックというのは、「みんな同じ」ということが前提になっています。これは産業構造における「量産」が与えた秩序だと考えられます。たとえばこの会場では全員が同じイスを並べて座っていますよね。多くの人と同じものを使わなければ経済的にならない社会に生きているから、「みんな同じ」であるということがパブリックの前提になる。しかしAdditive Manufacturingのような技術が活用できるようになると、未来では全員が、それぞれに最適なイスに座ってここに集まるようになるかもしれない。そのとき、パブリックとプライベートの考え方が、大きく変わっていくのだろうと思います。

Photo by Tsukuru Ozaki / Ars Electronica Tokyo Initiative

クライン:そのとき、パブリックの考え方はより、ユニークでパーソナルな、アート的なものに近づいていきますよね。

山中:私たちデザイナーもアート的な考え方をします。アートはパーソナルなものですが、必ず共感を求めます。誰にも理解されないアートは成立しない。いろんな人の共感を得てはじめて成立するものです。パーソナルなものが共感を得て、パブリックなものになっていく流れが、きっとこれからのプロダクトでは重要になっていくと考えられますね。

「エラー」不完全性のアート

セッションの終盤には、今年のアルスエレクトロニカ・フェスティバルのテーマである『Error — The Art of Imperfection(エラー・不完全性のアート)』について意見が交わされた。

「エラー」というものは必ずしも、ミステイクや失敗を意味しない。エラーは時として千載一遇のチャンスとなる。サイエンスにおける数多くの発見はエラーによってもたらされたものだ。

ゲルフリート・ストッカー氏(写真右)。エラーとは「人間のエッセンスそのもの。」Photo by Tsukuru Ozaki / Ars Electronica Tokyo Initiative

ストッカー:エラーはミステイクとは異なるものです。エラーとは、“起こり得るもの”。エラーはイノベーションの最良の友であると同時に、人間にとっても友であると言える。人間と、パーフェクトな機械の違いは「不完全さ」にあります。そしてパーフェクトとは「最適化」を意味します。地球の生命の35億年の歴史や、人間の20万年の歴史を振り返ったとき、それらが最適化されたものであるはずがありません。今の私たちを形づくっている生命現象、そして文化ですらも、数多くのエラーの上にこそ、成り立っているのです。

山中:茂木健一郎さんが、「アイデアが浮かぶときって、思い出す感覚に似てる」ってよく言うんだけど、アイデアって記憶を思い出すプロセスとは少し違っていて、つまり、エラーなんだよね。正しいものを思い出すときは記憶で、正しくないものを脳内で繋いでしまったときがアイデアになる。ストッカーが言ったように、進化のためには常にゲノムのエラーも必要だけど、私たちが進歩するのにも脳内のエラーが必要なんだと思う。

ダイサム:建築におけるエラーは仕事上、避けなければいけないものですが(笑)、建物のリユースは考えてみれば良いエラーです。ロンドンでは、ビクトリア朝時代に倉庫として生み出されたものが、今は美しい家としてリユースされている。これもある意味ではエラーであり、建築としては非常に面白いポイントであるわけです。

私たちはパーフェクトをつくろうとする。高度なAIとコンピューティングによる、最適化の秩序をつくりだそうとするように。

しかしこのデジタル・エイジは、これまでに人間が繰り返してきたエラーの終焉を意味しない。エラーはどんなときでも起こる。なぜならエラーこそが、人間の持つもっとも根源的なクリエイティビティだからだ。

TEXT BY AKIHICO MORI

森 旭彦

京都生まれ。主にサイエンス、テクノロジー、アート、その交差点にある世界・社会を捉え表現することに関心がある。様々な研究者やアーティストを取材し、WIRED、ForbesJAPANなど各種メディア、大学に関連したプロジェクトで執筆を行う。

http://www.morry.mobi

博報堂ブランド・イノベーションデザイン
Hakuhodo Brand & Innovation Design
http://h-bid.jp

Ars Electronica Tokyo Initiative
http://aeti.jp/
大家雅広 / 田中れな

BID_blog

BID_blog

わたしたち生活者や企業をとりまく環境は、日々目まぐるしく変化しています。人口動態、経済環境、技術革新、国際動向、複雑な環境変化の中で、これからあるべき未来に対してどのような態度で向き合うべきでしょうか。BID_blogは、未来をデザインしつづけるための視点や問いかけを発信していきます。http://h-bid.jp/

BID_blog

Written by

BID_blog

BID_blog

わたしたち生活者や企業をとりまく環境は、日々目まぐるしく変化しています。人口動態、経済環境、技術革新、国際動向、複雑な環境変化の中で、これからあるべき未来に対してどのような態度で向き合うべきでしょうか。BID_blogは、未来をデザインしつづけるための視点や問いかけを発信していきます。http://h-bid.jp/

Medium is an open platform where 170 million readers come to find insightful and dynamic thinking. Here, expert and undiscovered voices alike dive into the heart of any topic and bring new ideas to the surface. Learn more

Follow the writers, publications, and topics that matter to you, and you’ll see them on your homepage and in your inbox. Explore

If you have a story to tell, knowledge to share, or a perspective to offer — welcome home. It’s easy and free to post your thinking on any topic. Write on Medium

Get the Medium app

A button that says 'Download on the App Store', and if clicked it will lead you to the iOS App store
A button that says 'Get it on, Google Play', and if clicked it will lead you to the Google Play store