FIS TOKYO report #2 DEATH-LIFE Introduction_墓石越しに六本木ヒルズ。青山霊園に見たアニミズムと死の現在

photo: Akihico Mori

Introduction:

「DEATH-LIFE TOKYO」チームのディスカッションテーマは、世界でもっとも高齢化が進んだ都市のひとつである東京の、未来の生と死だ。

東京の高齢化率(人口に占める老年人口の割合)は、2020年には23.2パーセント、2060年には33.7パーセントに達すると推測されている(※)。また、医療技術の進歩などにより、2045年には平均寿命が100歳に達するだろうと考える研究者もいる。

東京は世界中から多くの若い人々が流入し、エキサイティングでクリエイティブな文化を発信する国際都市だ。それと同時に、世界有数の自殺者数を持つ国の首都であり、老人の孤独死が社会問題化している。

テクノロジーが私たちの死の在り方を革新するかもしれない。私たちはSNS上などに大量のデジタルデータを残してこの世を去る時代を生きている。これらのデジタルデータがAIのテクノロジーと融合すれば、死後も自分の存在をこの世界に残すことができるかもしれない。この未来は心地よい死を、残された人々に与えることが可能だろうか?

これら諸問題を検討することは、世界のさまざまな大都市が直面する社会問題に対し、一石を投じることができるかもしれない。その思いを共有しながら、イノベーターたちは多岐にわたる議論を繰り広げた。

しかしこの議論は収束を迎えない運命にある。生と死にまつわる議論は、問うほどに問いが増える。それは歴史の中でさまざまな哲学者、科学者、そしてアーティストが証明してきたことだ。チームの中では過酷な議論が生まれては消えていった。

このチームが最後に選択したことは、この非常に難しい問い自体を、自分たちで世に「問う」実践をすることだった。

※ 東京都政策企画局 2060 年までの東京の人口推計 http://www.seisakukikaku.metro.tokyo.jp/actionplan_for_2020/honbun/honbun4_1.pdf


Innovators:

エイミー・カール(US)

自分の生体情報を用いた作品や、3Dプリンターで作られた様々な骨など、人間の身体や機能をテーマとしたバイオアートのプロジェクトを数多く行なう。アートの分野から医学やテクノロジーにアプローチすることで、医療や医学への貢献を目指している。

福原志保 (JP)

人工的に作られた青いカーネーションを遺伝子組み換えによって元の白いカーネーションに戻す「Common Flowers / White Out」や、iPS細胞に初音ミクの特徴を記したDNA配列を組み込んで心筋細胞を作るなど、バイオテクノロジーの技術を使いながら、生命を操作できる時代の人と社会の在り方を問う。

青木竜太 (JP)

人工生命をテーマとしたコミュニティ「ALife Lab.」の設立者の1人であり、ディレクターとして活動の中心を担う。この他にも、「TEDxKids」を日本で初めて開催、アートに特化したハッカソン「Art Hack Day」を立ち上げるなど、アート、サイエンス、カルチャーの領域を横断したプロジェクトの立ち上げ、プロデュースや事業開発を行なう。

バサント・モタウィ (EG)

高齢者に優しい環境作りを目的とした「トゥゲザー・ムーブメント」をエジプト・カイロで展開するアクティビスト。世界保健機構(WHO)のグローバル・エイジ・フレンドリー・シティ・アンド・コミュニティー・ネットワーク(GNAFCC)のファシリテーターとしても活動し、高齢化が進む社会で最も弱者になりがちな人々のための環境づくりを行なう。


青山霊園の“リッチ”な死が語りかけるもの

Input :

ディスカッションは、爽やかな初夏の風が吹くテラスでのランチとともに始まった。しかし話題は、世界における生と死の現在。ヘルシーなサンドイッチの上を行き交う話題にしてはシリアスにすぎる。

「私たちは生きることの再定義が求められる事態を目の当たりにして生きています」と会話を始めたのは、DEATH-LIFE TOKYOチームのメンターを務めるアルスエレクトロニカ アーティスティック・ディレクター ゲルフリート・ストッカー氏だった。

ストッカー:たとえば、人工知能の自動運転によって命を失った人がいる。その責任の所在については議論が続いています。あるいは、ドローン(無人飛行機)による空爆によって命を奪われた人々すらも、すでにこの世界に存在するのです。
また、今年の5月には、104歳のオーストラリアの科学者、デビッド・グドールがスイスで安楽死を行ったニュースは世界中で取り上げられました。生きるとは何か、慎重に再考し、再定義しなければならない社会に私たちは日々直面しているのです。

ランチの後、初日のツアーとして、DEATH-LIFE TOKYOチームは、東京都港区にある広大な墓地「青山霊園」を散策した。港区に立ち並ぶ超高層ビルを借景し、約26万平方メートルもの面積を持つこの霊園は、もっとも「あの世」に近い都心の一等地だ。

東京都心の一等地の事情は墓地でも同じだ。公式の資料によれば青山霊園における2018年度の一般埋蔵施設の利用料は約427万円からとされ、東京都立霊園の中では最高額だ。また、建設局および(公財)東京都公園協会の資料によれば、2017年度の公募受付状況における青山霊園の倍率は14.6倍という高倍率を誇る。まるで都心の“事情”が来世まで続いているかのようだ。


オブザーバーとして議論に参加したラリッサ・ヨルト(Larissa Hjorth)によるFacebookポスト。「デジタルエスノグラファー」を標榜するラリッサらしいハッシュタグの付け方だ。

墓地に見たアニミズム

ストッカー:今の時代において、私は日本の死の“扱い方”を非常に興味深く感じています。「アニミズム(※)」の考え方を用いる日本では、Aiboのようなペットロボットにも魂があると考え、葬儀を行う人々がいるようです。私を含むヨーロッパ圏で生きる人々にとっては、この考え方は非常に戸惑うものがありますが(笑)、そう遠くない未来、私たちは魂のような働きを感じさせる機械と出会うことが予想されます。その時、この考え方は役に立つかもしれません。

ストッカーがランチの時に話していたことにも、青山霊園にヒントがあった。「忠犬ハチ公」は世界的な知名度を誇る秋田犬だが、青山霊園にはハチ公の碑がある。

ハチ公には、飼い主である上野英三郎(東京帝国大教授)の死後約10年間にわたって渋谷駅でその帰りを待ち続けたというエピソードがある。また、2016年5月には妻の八重子さんの遺骨が納められ、青山霊園で家族が揃った。

ハチ公は死んでもなお、私たち日本人に、恩に報いることの美徳や、人と犬が心を通わせる温かな感情を想起させる。私たちはそのとき、ハチ公に魂を感じざるを得ない。そしてその魂は時と場を超えて、世界中の人とつながりを持っている。

上野英三郎の墓石の近くに立つ、忠犬ハチ公の碑。 photo: Akihico Mori

青山霊園を散策するイノベーターたちが「プライバシーはどうなってるの?」とスマートフォンを見つめていた。数多くの著名人が埋葬されている青山霊園では、自由党総裁などを務めたジャーナリスト・政治家である緒方竹虎など、一部の著名人の墓所についてはグーグルマップにも記載がある。

福原:青山霊園は、贅沢なお墓ですね。この都心にあって空が広いし、眺めもいい。自然も豊かだし、まるで公園ですね。思い出すのはフランス領のコルシカ島の埋葬習慣です。コルシカ島では、眺めのいい場所にお墓がある。それは亡くなった人の権利だと言われています。

福原志保氏はフランス・パリにある、歌手のエディット・ピアフや音楽家のショパンなどの著名人が眠る「ペール・ラシェーズ墓地」にも足を伸ばしているほどのいわばプロの“弔い”の研究者だ。

福原氏は、故人のDNAを死後も生き続けさせる方法を提供する「バイオプレゼンス」を開発し、会社も設立している。福原氏らは故人から採取したDNAを樹木の細胞に保存する方法を生み出した。樹木に埋め込まれた故人のDNAは、樹木とともに生き続けることから、いわば「生きた墓標」となる。こうした活動の一貫として、福原氏は弔い方の研究を行うためにさまざまな墓所を訪れているのだ。

福原氏のバイオプレゼンスは、いわば樹木に故人の魂を埋め込むことのようにも感じられる。大切な故人の魂を、葉を茂らせて夏風に泳ぎ、秋が来るたびに紅く染まる樹木に感じながら生きていけたら、残された人の心は幾分癒やされるのかもしれない。

ユニークな形状の墓石を写真におさめる福原氏。 photo: Akihico Mori

静寂を湛えた青山霊園の墓石の背後には六本木ヒルズが見える。この光景は、東京という街に生きる人々の生と死をある意味で象徴している。この都市の中で、私たちは何を温もりと感じ、生きていくのだろうか?

※生物・無生物を問わず、この世界のあらゆるものの中に霊魂の存在を認める考え方。


TEXT BY AKIHICO MORI

森 旭彦

京都生まれ。主にサイエンス、テクノロジー、アート、その交差点にある世界・社会を捉え表現することに関心がある。様々な研究者やアーティストを取材し、WIRED、ForbesJAPANなど各種メディア、大学に関連したプロジェクトで執筆を行う。

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大家雅広 / 田中れな