「問う」ことにはじまった、2つの実践
DEATH-LIFE TOKYOチームは、短い会期中においても小さな一歩を踏み出すために2つの実践を行った。ひとつはこの問いを、FIS会場内にいるメンターやイノベーターにインタビューを行うことで問い、ビデオにまとめるということ。そしてもうひとつは、この問いをオープン・クエスチョンとして世界に問うためのウェブサイトをつくったことだった。
福原:私たちは未来において、「思いやり」などの人間ならではの温かな感情を保ちながら、どのようにして生を共創してゆくことができるのか。時間が限られた中で、ここにいるチーム、メンター、そしてスタッフの方に対してインタビューを行いました。
Amy: 生と死というものを考えたとき、答よりも、より多くの問が見つかったというのが現状でした。人間誰しも生と死について考えることがあると思いますが、人生や死のミステリーを突き詰めると、問いばかりが生まれてくるのです。そこで私たちはウェブサイトを立ち上げ、それらの問いを紹介していこうと思っています。
Jaz:命のあるもの全体の問題だととらえ、みなさんといっしょに問いを深め、共につくっていきたいと思っています。
Amy: 私たちは今、「デジタルの死」にまつわる問題に直面しています。仮に身体がなくなっても、自分の存在はソーシャルメディアなど、デジタル空間にアーカイブされた情報によって保持され、さらにはAIによって再生されることもあるかもしれない。私たちはますます死の線引きが難しい状況の中を生きてゆくということも考えければなりません。
バサント:私のテーマは「死後の世界」。奇妙に聞こえるかもしれませんが、私は死んでそこで終わりだとは思えない。死後の世界というものがあるのではないかと感じているんです。人間とAIが非常に近い存在になってくる未来、こうして自らの死の定義を考えておくことも必要だと感じます。
青木:人は死ぬと記憶がなくなるのでそこで終わりといえばそうかもしれない。しかし、残された人々にとっては、その人の死をどのようにして新しい行動につなげていくかが大切になる。たとえばお墓もそうした機能を持つ、ある種のVR装置と考えられる。お墓に行くことでその人の記憶が蘇り、再生されてゆく。今後、こうしたことがデジタル世界のいろんな場面に出てくる可能性があるだろう。
インタビュー動画。FIS終了後も改良と調整が進められ、現在は英語字幕付きで公開されている。
人の温もりを知ることから始めよう
プレゼンテーションのフィナーレを飾ったのは福原氏の即興のパフォーマンスだった。このパフォーマンスはもちろん計画されたものではなかった。
福原:生の反対は死なのか、死の反対は生なのか。そもそも、そんなふうに分け隔てられるものなのか。私たちは、答えを出すものではなく、考え続けるものであってほしいということを、クリエイティブクエスチョンとして提示しました。ここでみなさんに15秒だけ目を閉じて、となりの人の手を握ってほしいと思います。
それはイノベーターたち、そして会場の人々の心が、互いに重なり合った15秒間だった。私たちがこの東京で生と死を考える前に、この大都市の中に生きる隣人の、人の温もりを知ることから始めるべきではないか。福原氏のパフォーマンスはそんなことを意味していたのかもしれない。
ストッカー:“care-fully”と“co-craft”の間にハイフンがあることが重要であり魅力的だったと思う。“care-fully”とは思いやりですね。思いやりがあるゆえによい社会ができあがるということもあるだろう。そして“craft”のという言葉は日本語に訳すと「つくる」、「創造する」という意味だ。努力は要するけれども手のとどかないものではない、いっしょにつくることができるという希望を感じさせる、良い言葉だ。
私もインタビューに答えたが、その質問は「あなたは永遠の命がほしいですか?」そして「永遠の命はあなたにとって何ですか」だった。私が永遠の命をほしいかは別にして、人間の行く末を見届けてみたいという気持ちはありますね。
山中:ネット上にはたくさんの死という言葉が飛び交っています。訃報もすぐに知ることができる。「死ね」というひどい言葉を投げかける人もいる。そうした中で、きちんと死について考える場所が、案外なかったと思います。
このクリエイティブ・クエスチョンは「どうすればお互いを思いやりながら、死、そして生きることについて考えることができるのか」というものだろう。“DEATH-LIFE”は最初から答えがないことは分かっていた問題だ。しかし真摯に考え続ける場所をつくったということが、このクリエイティブ・クエスチョンの真意だとするならば、この短い時間の中で素敵な提案ができたのではないでしょうか。
DEATH-LIFE TOKYOのメンバーはその後もミーティングを継続して行っており、このクリエイティブ・クエスチョンを今後はプロジェクトとして展開してゆく。作成したビデオも、ウェブサイトへアップロードされ、世界中からの意見を求めてゆく。今後はコラボレーションプロジェクトも展開する予定だ。
TEXT BY AKIHICO MORI
森 旭彦
京都生まれ。主にサイエンス、テクノロジー、アート、その交差点にある世界・社会を捉え表現することに関心がある。様々な研究者やアーティストを取材し、WIRED、ForbesJAPANなど各種メディア、大学に関連したプロジェクトで執筆を行う。
博報堂ブランド・イノベーションデザイン
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Ars Electronica Tokyo Initiative
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大家雅広 / 田中れな