FIS TOKYO report #7 PUBLIC-PRIVATE Output_しなやかに心の境界を越えていこう、街の中で猫と出会った時のように。
2018年5月27日夕方に、Future Innovators Summit TOKYO(FIS Tokyo)の会場である東京ミッドタウンアトリウムにてFIS Tokyoのファイナルプレゼンテーションが行われた。3日間の議論を経て、PUBLIC-PRIVATE in Tokyoのチームが導き出したクリエイティブ・クエスチョンは、「How can we layout the “blank” that inspires the public to accept each other like a cat?(猫と一緒に過ごすようにお互いを受け入れられる、公共の“空白”をどうやって生み出せるか?)」というものであった。
冒頭ではハカン・リドボ氏がマイクをとり、次のように会場に問いかけた。
「これから私たちから皆さんに質問をしていきたいと思います。まず、この地図を見ながら、自分はどこから来たのか、あるいは出身地はどこかを、指で指し示していただけますか?同じ出身地の方が、もしかしたら近くにいらっしゃるかもしれません」。
PUBLIC-PRIVATEのチームによるプレゼンテーションは、クリエイティブ・クエスチョンを、このような形で来場者という小さな公共向けて開きながらスタートした。
ハカン氏のナビゲーションは続く。
「次に、今のお気持ちをお聞きしたいと思います。まずこの会場をマトリックスに分けます。皆さんから見て左手が“幸せ”、右手が“面白い”、皆さんの後ろの右手が“悲しい”、そして皆さんの後ろの左手が“つまらない”になります。自分の今の感情に一番近い方角を指で差してください」。
参加しているイノベーター、メンター、スタッフ、そして来場者たちの顔に自然と笑顔が浮かび始めた。おどけた動作をしながら両手で2つの気持ちを示している人も見られた。私たちはどこから来たのか、そして今はどんな気持ちなのか。これらを共有することで、人と人との距離はぐっと近くなる。会場内は孤立した個人の集合から、場を共有する仲間へとなりつつあった。
次に全員で目を閉じるように促される。動的な時間から静的な時間へと切り替わり、自分が今なぜここにいるのかという問いに立ち返る。
「風の音もしくは雨の音を想像しながら考えてみてください。今のこの時間は、自分にとってプライベートな時間でしょうか?」
次にマイクを取ったのは、喫茶ランドリーの田中元子氏
「私たちが公共について考えた時、すべてがコントロールされた便利な状態よりも、ちょっと人と話さなきゃいけなかったり、回り道をしたり、面倒くさいことがある状態の方が、実はより良い公共のあり方なのではないか?という議論をしました」。
喫茶ランドリーのコミュニティ作りに関心を寄せたのは、カイル・マクドナルド氏。
「例えば、お金さえ投入すれば洗濯機が自動的に動くのではなく、人にお金を渡して会話をするというプロセスを経て利用することで、コミュニティの生成をうながすということです。まさに喫茶ランドリーがそうであるように」とコメントした。
2日目のディスカッションの中で共有された三原聡一郎氏の体験談は、クリエイティブ・クエスチョンのキーワードのひとつ“blank”にフォーカスするきっかけを作った。
「僕たちがプライベートとパブリックについて考えていくなかで、場のイメージを共有したかったんです。それで、最終的に“blank”がキーワードになったんですね。blankは何か重要なものを構成する時、その間に存在するもので、さらにその広がりの可能性があることもイメージしています」。
最後にPUBLIC-PRIVATEチームのプレゼンテーションを締めたのは、西部沙緒里氏。彼女はおそらく会場に集う多くの人たちが抱いていたであろう疑問について言及した。
「きっと皆さんにとって不思議だったと思います、なぜ“cat(猫)”なのか?と。ここで言う猫はメアファーです。想像してみてください。この都会の、例えば六本木の街中を、皆さんが一人で歩いています。その時、突如として目の前に猫が紛れ込んできました。どうなるでしょう?ある人は猫を撫でに行く、写真を撮りに行く、あるいは、かわいい!と言って寄っていく、その猫の周りに集まった人同士で会話が生まれるかもしれません。たった1匹の猫の存在で、互いが無関心で秩序だっていた場の関係性が一瞬にして変わることがあります。私たちは、そういう存在を“blank(空白)”あるいは“soft obstacles(ゆるやかな障壁)”と定義をしました。そういうものが、渇いた日常の中に新しいコミュニケーションを生んだり、個人と公共の間にある境を一瞬にして飛び越える力を持つと私たちは考えました」。
プレゼンテーションが終わり、メンターたちからコメントが寄せられた。
山中俊治氏:一番最初、皆さんに指を差させる行為は、このプレゼンテーションを象徴していたと思います。すぐそばにいても何のコミュニケーションもない人たちに、ちょっとしたきっかけを与えるだけで、「ああそうか、みんなこう思っているんだ」とか「これで“つまらない”は指差せないよな…」とか、色々なことを共感し合うわけです。その瞬間を作ることが、このプレゼンテーションのメインだと最初のリードでわかった感じがして、良いプレゼンテーションだなと思いました。
ゲルフリート・ストッカー氏:TECH-SKINのプレゼンテーションにも通じる内容だったと思います。今の時代はテクノロジーの発達によって、公共から個に移りつつあるものの、皆さんは共存の重要性と公共のシステムに対して目を向けられていました。そのような点で、このプレゼンテーションはとても面白かったと感じます。
アストリッド・クライン氏:すごく便利な世の中が必ずしも良いわけではないという所に共感いたしました。やはり、人生には潤いが必要だと思うんです。まさにそれが“blank”、つまり空白の中から生まれるものではないかと思います。私自身、非常にアナログな人間なので、とても共感しました。最初に指を差したことに象徴されるように、ちょっとしたことで会話が生まれたり、公共の空間の中でプライベートな関係が生まれる。そういう所に可能性を感じます。
マーク・ダイサム氏:私の娘がロンドンにいた時、色々な人が娘に話しかけてきたことがありました。まさにあの時、娘の存在によってお互いに共有できるプライベートな空間ができました。皆さんが伝えたかったことは、そういうことですよね。猫を比喩に使われたことは、すごく良かったと思います。言葉やサインではなく、そのようなメアファーを使っていく所が非常に魅力的だったと思います。私は建築に関わっていますが、建築もそうだと思うんです。物理的なものだけではなく、空間的、あるいは想像的なものでもあります。猫にメタファーされる抽象的なものを作っていくとでもあると思いますので、そのあたりがとても良かったです。
TEXT BY Mirei Takahashi
高橋 ミレイ
合同会社CuePoint代表。編集者、ライター。人工知能など技術系を中心に書籍の企画・編集に携わる。雑誌・Web媒体でテック、サイエンス、ゲーム、デジタルカルチャーなどの分野を横断的に取材・執筆。2017年からゲーム研究読書会を主催。
博報堂ブランド・イノベーションデザイン
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Ars Electronica Tokyo Initiative
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大家雅広 / 田中れな
