FIS TOKYO report #8 Introduction_衣服と人間、テクノロジーの関係を結び直す。東京が駆り立てる“TECH-SKIN”への想像力
Introduction:未来の人間は何を身につけ、世界と繋がりを獲得するのか
TECH-SKINチームが扱うテーマは、先端テクノロジー都市、東京におけるファッションと身体の未来だ。人間が身につける衣服の役割は、テクノロジーによってどのように変容を遂げるのか。イノベーターはファッションブランドが軒を連ねる東京ミッドタウンのなかで3日間に渡り思考を巡らせる。
「衣・食・住」という言葉の示す通り、人間は生存のために衣服を身にまとう。同時に衣服を身にまとう行為は、社会や文化、あるいは宗教的なアイデンティティを主張する手段でもある。私たちは絶えず「何を着ているのか」にもとづいて、相手の社会的な立場や思想を判断している。衣服は私たちが自身を表現し、他者に伝達するためのツールでもあるのだ。
しかしテクノロジーの発達によって、私たちと衣服を取り巻く環境は大きく変わりつつある。例えば3Dプリンターを用いれば、裁縫技術がなくとも、誰もが自由に衣服を生産できるようになるかもしれない。また、オフラインとオンラインの境界が曖昧になりつつある今、私たちは物理的な衣服を介さずとも、オンライン上で好きなように自らの見た目を操作できる。こうした変化のなかで、人間は一体どのような衣服をまとい、自己を表現し、他者との繋がりを構築していくだろうのか。
ファッションとテクノロジー、そしてアイデンティティーをめぐる議論の先に、チームは「テクノロジーの発展」という“人間主体”の考え方から脱却することを選ぶ。技術発展の歴史ではなく、地球における生物の進化という広大な流れに、人間とファッション、テクノロジーの関係性を位置付けようと試みたのだ。それはファッションという枠組みを超えて、私たち人間の存在そのものを問い直す作業でもあった。
東京の真ん中で遭遇した“TECH-SKIN”への手がかり
1日目に5人のイノベーターは、東京のファッションを体感するため、ハイブランドのショップが並ぶ表参道、日本独自のポップカルチャーの発信地、原宿をめぐった。
原宿の路上でイノベーターの目を引いたのはファッションの専門学校に通う学生だ。古着とハイブランドをミックスした、未来的な服装に目を奪われる。彼は「ファッションは自分のアイデンティティーであり、自分そのものだ」と話す。卒業しても、ずっとそのスタイルを貫くのかとイノベーターが問うと、スーツを身につけるのではなく「ひとひねりあるものを選びたい」と強く主張していた。
その後は東京ミッドタウンに戻り、各テーマのメンターが繰り広げるトークセッション「Inspiration Talk」に参加した。「TECH–SKIN」のメンタリングを担当した東京大学生産技術研究所の山中俊治氏は、イノベーターに向けて『Additive Prototyping』という手法を紹介した。
『Additive Prototyping』とは、3Dプリンティングによって、柔らかさや強さを細部まで作り出す技術や、それを駆使したプロトタイピングの手法を指す。従来の義肢のように部品の集積ではなく、1つの素材から成る“美しい義肢”や、たった1つの素材と1つの部品からなる“一体造形”のロボットなどを、多様なプロトタイプが次々とスライドに映し出された。
なめらかに1つの身体のように機能する義肢やロボットの姿は、布を裁断し、各パーツを縫い合わせて作る衣服の違和感を私たちに意識させる。『Additive Prototyping』によって生み出される服はいったいどのような形をしているのだろうか。
ファッションによって自己表現をする原宿の若者たち、テクノロジーが可能にした新たな素材、そして3Dプリンティングを用いた生産手法。1日目にイノベーターがインプットしたこれら3つの要素は、2日目以降のチームの議論の起点となっていく。
Innovators:
TECH-SKINチームにはテクノロジーとファッションの未来を探求する5人のイノベーターが集った。
マルコ・ドナルーマ
様々なセンサーや独自のデバイスと身体を使ったパフォーマンスで新しい音表現を探究するアーティストとも知られ、研究者として、身体と音楽、テクノロジーとパフォーマンスに関する文章も多く執筆している。
ラトナ・ジュイタ
ジョグジャカルタで結成されたXX Lab.のメンバーとして、環境汚染の原因となっていた大豆製品を作る際に出る廃棄物を再生利用し、バクテリアや組織培養を用いて新素材を開発する”SOYA C(O)U(L)TURE”のプロジェクトなど、持続可能性のある素材・燃料・食品作りを行なう。また、PARD、BEHAVIORといったファッションラインを立ち上げ、アーティストと科学者が出会う場も創出している。
川崎和也
ウェアラブルテクノロジーやバイオテクノロジーを駆使した思索的な衣服を作り、先端技術を用いたファッションが社会に与えるインパクトについて研究している。
サラ・ペクス
キネティックな作品、イラストレーション、ロボット制作を通じて、人間と技術の境界および関係性を考察し、人間性そのものを見つめ直している。
佐藤翔一
東京大学山中研究室在籍中からAM(3Dプリント)技術を使った新しいものづくり創出を研究テーマとして陸上競技用AM義足”Rami”の開発に携わり、数々の国際的な賞を受賞した電動ロボット膝継手”Suknee”のデザインを担当するなど、先端技術を用いたデザイン領域で活動している。
TEXT BY Haruka Mukai
向 晴香
編集者・ライター。在学中にソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、複数のウェブメディアにライターとして携わる。卒業後は教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後独立。関心領域はメディア全般と海外コメディー、歴史、テクノロジー。
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大家雅広 / 田中れな
