FIS TOKYO report #9 SKIN-TECH Process_精緻なパーソナライゼーションと、大量生産の終焉、環境問題への眼差し

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Sep 1, 2018 · 7 min read

2日目の朝、チームは東京ミッドタウンのガレリア2階のテーブルに集った。周囲にはきらびやかなショップが並び、最先端の“ファッション”をまとったマネキンが置かれている。まさに東京のトレンドを凝縮したような空間で、ファッションとテクノロジーの未来を探るディスカッションが始まった。

photo by: Tsukuru Ozaki

衣服の“パーソナライゼーション”と大量生産の終焉

初めにディスカッションで話題に挙がったのは、前日のメンタリングで山中教授が語った「Additive Prototyping」についてだ。川崎和也氏が、3Dプリンティングが拓くパーソナライゼーションの可能性を述べる。

川崎氏「『Additive Prototyping』が普及すれば、より個人の身体にフィットする衣服を制作できるようになる。その際に忘れてはいけないのが、ファッション業界におけるオートクチュールの文化です。古くから行われてきた衣服のパーソナライゼーションに、3Dプリンティングのようなテクノロジーが掛け合わさり、第二の“オートクチュール”が生まれていくのではないでしょうか。」

山中氏の紹介した一体造形のロボットのように複雑な構造を表現できれば、まさに“肌”のように機能する衣服も可能になるだろう。川崎氏は、着用者の状況に呼応して形状をコントロールする衣服「Information Corset」の制作に触れ、3Dプリンティングやウェアラブルテクノロジーへの期待を語った。

3Dプリンティングのもたらす変化として、大量生産の終焉にも話題が及んだ。ペクス氏は「3Dプリンティング技術が普及すれば、店舗で洋服を購入する代わりに、個人が洋服を生産するようになるだろう」と予想する。

日本を含む多くの国々において、知らない国の工場で生産された洋服を身につけることも珍しくない。このように衣服の消費者と生産者の距離が遠い状況は、決して当たり前ではなかった。佐藤翔一氏が日本の状況を例に挙げる。

佐藤氏「昔は日本人、とりわけ女性の多くが裁縫を学び、家族の洋服をつくっていました。仮に店で購入する場合も、その服を生産している人の顔は見える状態。消費者と生産者の距離が近く、まさにパーソナライズされた衣服を身につけていた。ある意味、現代の大量生産というビジネスのあり方が異色だったと捉えることもできるかもしれません。」

photo by: Tsukuru Ozaki

アイデンティティの表現ツールとしてのファッション

3Dプリンティングによる衣服の進化、大量生産の終焉といったキーワードが挙がるなか、ラトナ・ジュイタ氏は人間のアイデンティティに言及する。

ジュイタ氏「現代はアイデンティティがより多様化・流動化していると感じる。もはや画一的なトレンドからデザインすることが困難になっている。テクノロジーはこういったニーズにも応えられるのではないでしょうか。」

私たちは環境に適応するためだけでなく、自らの立場や思想を表現するために衣服を身につける。1日目に原宿の街で出会った若者たちはその代表的な例だろう。テクノロジーは彼らにより自由な表現の手段を与え得る。

当日ペクス氏の身につけていたデバイスもその手段の一つかもしれない。ハート型のリュックのようなデバイスは、身体情報をもとに感情の揺れ動きを感知し、光で表現する。ペクス氏が制作の意図を説明する。

ペクス氏「このデバイスは言語以外の方法で感情やアイデンティティを伝えるための実験です。3Dプリンティングによって身につけるものの姿形を今よりも自由に選べるようになります。そこに身体情報を取得するウェアラブルデバイスを組み合わせられたら、ビジュアルを使ったコミュニケーションはより一層拡張されていくと思います。」

photo by: Haruka Mukai

偶然、川崎氏が身につけていた上着も、袖をタッチしてデバイスを操作できる“スマートジャケット”だった。デバイスと一体化した衣服が、言語以外のコミュニケーションを可能にする未来は現実化しつつある。SNSには罵詈雑言が溢れ、フェイクニュースが氾濫する今、イノベーターたちは言葉以外の“コミュニケーション”に期待を寄せているようだ。

ポジティブな未来予想図が見過ごしてきた現実

大量生産から脱却し、個々人が身体やアイデンティティに合わせた衣服、TECH-SKINを獲得する。ディスカッションからはそんな未来へのシナリオが浮かび上がってきた。

しかしドナルーマ氏は、イノベーターの語るシナリオにおいて見逃されやすい論点を投げかける。それは環境破壊による地球の変化だ。

ドナルーマ氏「30年後に環境は大幅に破壊されている。それを考慮せずに未来を語るのは、夢を見ているのと同じなのではないか。」

そう語るドナルーマ氏の意見を受け、ペクス氏は、米国において、まるでティッシュペーパーのように、安価が廃棄される現状を共有、「自らの手で洋服を作るようになれば、より愛着を抱くようになるのでは」と提案する。確かにテクノロジーによる行動の変化が草の根的に広がり、環境破壊を押しとどめる未来も描けるだろう。しかし環境破壊はすでに引き返せないほどの影響を与えてしまっている。マルコ氏は「人類が繁栄できなくなった地球において、ファッションはどのような役割を担うのか」とチームに向けて問いかけた。

photo by: Tsukuru Ozaki

テクノロジーの発達によるコミュニケーションの拡張、その影で進行する環境破壊。2日目のディスカッションでは、人間という存在がもたらした正と負の側面が浮き彫りになった。この両方を踏まえて未来に何を問うべきなのか。それぞれのイノベーターが思いを巡らせながら、買い物客で溢れる建物を後にした。


TEXT BY Haruka Mukai

向 晴香
編集者・ライター。在学中にソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、複数のウェブメディアにライターとして携わる。卒業後は教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後独立。関心領域はメディア全般と海外コメディー、歴史、テクノロジー。
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