メーカーとしてのあるべき姿とは、secca上町達也さんが考える3つの問い

3Dデジタル技術と金沢を中心とした伝統的な工芸技術をかけ合わせながら、新たなものづくりの可能性に挑んでいるsecca。代表である上町達也さんは、大企業のインハウスデザイナーを経て独立。デザイナーとして、そして経営者として、メーカーであることを誇りとしながら日々取り組んでいます。そんな上町さんが考える、現代に必要なクリエイティブクエスチョンとはなんだろうか。

メーカーはなにをメイクするべきなのか

プロダクトを通じて自分なりのユーザー体験を提供したいと考える上町さん。デザイナーとして、モノを生み出したい欲求やそれに費やすための時間や労力が最大限に発揮されるためにも、ユーザーに対してどのような価値を提供しているかを真摯に向き合うことが重要だと話します。

丁寧につくりあげたプロダクトも、1年後には“型落ち”と呼ばれてしまうような消費サイクルの早い現代において、消費的ではなくいかにしてユーザーに永く愛されるモノやコトをつくっていくかという考えが、上町さんの根底にはあります。

上町さんは、メーカーとは「自分たちにしか生み出せない、世の中を“より良く”する価値を造形すること」だと定義します。ユーザー体験の価値をいかに最大化するか、つくったものを自分たちで伝え、ユーザーに届けていくこと。そこで生まれる価値が次なる価値を生む源泉となります。それこそが健全な経済の循環であり、その循環をいかにつくり続けていくかを問いていくべきだと話します。

いまでこそ日本や世界を代表するメーカーも、創業当初は小さなベンチャーだったはずです。はじめはなにもないところから、長い時とたゆまぬ努力を積み重ねて今の姿を築き上げてきました。こうして成長した企業の根底には、プロダクトをつくるだけに留まらず、熱い情熱とそこで生まれた独自の価値、またその軌跡の先に描く更なるビジョンがあります。

だからこそ、未来に対して提供したい価値を描くとき、現在視点のみでものづくりを考えようとするのではなく、過去を丁寧に振り返りながらその過程で生まれた歴史や、独自の経験を重ねる中で見出してきた視点を生かすことこそ、次なる未来をカタチづくるヒントがあると上町さんは話します。

過去をどれだけ分析できるか、過去へのリスペクトと未来への視座を通して、会社にできることはなにかを考えること。メーカーがメーカーとして何をつくりだしていくべきか、その原点につねに立ち戻ることが求められています。

地域のもつ“ゆらぎ”とはなにか

大学時代を金沢で過ごした上町さん。就職で東京に出てきたあと、独立後は活動の拠点を東京ではなく金沢に移してseccaの活動に取り組んでいます。

北陸新幹線の開業により、東京と金沢の移動距離はぐっと近くなりました。他にも、インターネットや交通網の発達により、情報の取得や発信、移動の時間的なコストは激減しています。そうした時代だからこそ、時間と空間を意識しながら、どこで誰が何をするかが重要だと上町さんは話します。

これからの時代は、社会全体が地域や土地の固有性を見出しながら、その土地の個性を資源とした新たな価値づくりが求められてきます。その土地にある文化を自分たちなりに読み解き、その先を描いていくことこそ、ものづくりの未来のヒントがあるはず、と上町さんは考えています。

では、そうしたときにその土地の固有性、つまり「らしさ」はどのようにして生まれてくるのでしょうか。「らしさ」とは、一つの答えがあるわけでも、絶対的な指標があるわけでもありません。明確に「らしさ」の線を引いてしまうことで、可能性の枠を閉ざしてしまうかもしれません。

上町さんは、自身の活動の拠点である「金沢らしさ」を考えるなかで、普段から金沢に身を置いて、空気を吸って、金沢のものを食べて、金沢の人と接するうちに、勝手に「らしさ」が形成されていくはずと語りました。

「らしさ」とは、普段の身体知で経験していることから自然と出て来るもの。それぞれが主観的に感じ、考えている「らしさ」は、10人いれば10通りの「らしさ」の幅が存在します。その幅こそがその地域の固有の価値であり、多様な視点をもとに「らしさ」を考えることで次第に見えてきます。

ときには、産地と産地がつながりながら異業種、異分野、異なる地域同士が協業することで新たな「らしさ」が生まれてくるかもしれません。「らしさ」を一つに定義しようとするのではなく、そこで生まれる多様な解釈こそ健全な「らしさ」の“ゆらぎ”であり、そこで生まれる“ゆらぎ”とその幅によって、その地域の「らしさ」が浮き彫りになってきます。そこから、結果として産地に良いものを残し、そこから次なる「らしさ」が生まれる土壌になってくるのではないでしょうか。

働きのなかに生きる意味をつくれるか

上町さんは、中学生の頃から死に対する意識が強くなったそうです。それ以降、自分の生きる意味を自問自答した結果、自分自身の意味なんて元々存在しない、意味はあるのではなく自分からつくっていくものだ、自分にとって納得のいくアクションをその都度実行することが大切だと考えるようになりました。過去は取り戻せないし、未来はどうなるかわからない。時間は有限だからこそ後悔のしない選択をしていくために、いかにして今を懸命に生きるかが重要だと話します。

組織のなかにいると、時には歪んだ計画や設計に沿ってつくらなければいけません。上町さんは、自分自身や周囲が納得し働ける場を築くために会社を辞め、独立の道を決断しました。

上町さんが運営するseccaでは、経営側からのトップダウンではなく、つくり手がつくりたいものを組織としてバックアップし、一人ひとりのクリエイティビティを尊重しながらいいものをつくりだす環境を設計することを意識しています。クリエーターファースト、ものをつくる人の純粋な想いを淀みなく世に発信できる環境を大切にしたい考えがそこにはあります。

プロダクトありきではなく、つくり手がいかにしてユーザーと向き合い、最大限の価値を提供しようとするか。そのためにも、つくり手と会社経営者が腹を割って話せる場を設けることが重要だと上町さんは話します。

経営者もつくり手も会社という同じ船に乗っている者同士。ビジョンを同じにし、同じ土俵で会社のことを考え議論する。雇用する側、雇用される側ではなく、提供したい価値のために互いの役割を全うすること。そして、そのために何ができるかを皆が自分ごととして考えること。ユーザーと真摯に向き合い、良いものがつくれる環境になっているか、そのために組織全体が働きやすい環境なのかを議論していくことが大切だと話します。

一人ひとりが働く環境に対して存在価値と存在意義を見出すことができるか。働きのなかに生きがいを見出すことで、つくり手としての個人の価値を高め、同時に組織全体の価値も高めることができます。クリエイティビティの高いつくり手を尊重し、同時にそのための評価軸をいかにして体系立てていくか。そこから、働く人一人一人の当事者意識が生まれ、ユーザーに対する価値提供を最大化するための道が見えてきます。

働きがい、生きがいは、個人が向き合うだけでなく、会社組織全体が向き合い、各々のそれを一致させるというよりは、互いに尊重し合える空気をつくるべきなのかもしれません。

記事構成・執筆:江口晋太朗