他者へのやさしさから、働くこと生きることを考えるきっかけに。&Co.横石さんが考える3つの問い

働き方の未来をつくる7日間「Tokyo Work Design Week(以下、TWDW)」を、毎年11月にオーガナイズしている横石崇さん。企業のブランディングなどのコンサルティングを手がけながら、「働く」のこれからについて考える、さまざまな活動を取り組んでいます。横石さんが考える、「働く」を問うための3つのクリエイティブクエスチョンとはなにか。

組織が自由自在に、自立して動くには?

学生時代、多摩美術大学でキュレーションを学んでいた横石さん。「アートとはなにか」という問いを考える中で、いままでの常識や枠組みをいかにして変えていくかということに意識を向けてきました。2013年からスタートしたTWDWにおいても同様の意識で取り組み、「働く」を軸としながらもその常識や枠組みを変えるような、多様なテーマを織り交ぜることを意識してきました。「働く」に関する、何かの答えを提供するのではなく、「働くとはなにか」「なぜ働くのか」を考えるための、いくつもの出会いやきっかけをつくることを意図しています。

その根底にある考えとして、横石さんは建築家・青木淳さんの『原っぱと遊園地―建築にとってその場の質とは何か』(王国社/2004年)を引用しながら、場づくりの考えについて話してくれました。

「遊園地は計画され、完成されたもの。対して、原っぱは空地に土管があるだけ。みんなで『一緒に何して遊ぶ?』を考えることから遊びが発生します。つまり、原っぱだからこその『問い』が生まれるんです。
ビジネスの領域で考えると、従来のPDCAサイクルはまさに遊園地のようなもの。先に計画ありきで物事を進めていきます。しかし、仕事の仕方はそれだけでは融通がききません。これからはOODAという考えのもと、観察や状況を把握しながら、機敏で柔軟に物事を進めていくという違った発想も必要なのです」

OODAとはObserve(観察)、Orient(方向付け)、Decide(決心)、Act(実行)の頭文字を取ったもので、米軍パイロットの思考回路ループとして研究されています。OODAでは、まず目の前に現れた状況に対して視野を広くもった上で観察・把握し、その観察によって状況判断し、自分の進むべき道ややるべきことを方向づけます。自らの判断によって自身の行動を意思決定し、決心した行動を実行に移すというプロセスです。自身が実行したことによって状況がまた変化すれば、そこからまた観察に戻り、次の方向付けや決心へと移っていきながら、「観察・方向付け・決心・実行」を繰り返すのがOODAループです。

OODAを行うためには、視野の広さと状況に応じた柔軟さが求められます。これは、事前の計画よりも事後的な臨機応変に対応したり、相手の観察に重きを置いたりすることで、計画中心、トップダウンなPDCAから、現場が中心となって意思決定をしていく能動性や自発性が求められることを意味しています。

変化の早い時代、先が見えづらい時代において、PDCAだけでなくOODAの考えにシフトできるか。そこには、組織全体が完成された計画を実行し改善するのではなく、観察し状況判断しながら実行していく柔軟性が必要で、それはまさに組織全体の体質を改善する働き方の変革に対する問いでもあるのです。

働くことは、生きることそのものか?

横石さんは、TWDWを始めたことで働き方の根底には「個人のストーリー」や「モチベーション」が大事になると考えました。それは「アイデンティティ」と言ってもいいかもしれません。OODAを支える根底には、個々人の判断や自発性が求められることからも、現場で働く人それぞれがいかにして「働く」こと「生きる」ことに向き合うかが必要なのです。

「働き方」と聞くと、ついつい「どのようにして」働くか、と考えがちです。しかしそれは、Howという課題解決をしようとしているだけにすぎず、「なぜ」働くかというものではない、と横石さんは話します。

「Howの解決ではなく、Whyへの問いと向き合うことで、仕事を通じて自分自身の生き方や暮らし方と次第に向き合うようになってくるんです」

横石さんは、大規模な広告キャンペーンなどでアピールする課題解決を“外科的”と捉え、一方で内部の組織のオーガナイズやコミュニケーションの仕組みを変えることを、“内科的”と捉えています。そのなかで、横石さんは外科と内科の中間、「例えで言うなれば、漢方薬的なものに取り組みたい」と表現してくれました。それは身体の自然治癒力が高まるように、個々人が自らの意思によって自然と動き出すことで組織全体が有機的につながり、自ずから進むべき方向へと自然と歩きだしていくような組織づくりだと考えています。

「バスキュール×PARTYで企画した学校『BAPA』やイメージソース社との『UX Wednesday』など、デザインとプログラミングの両方のスキルを持った次世代クリエーターを支援するプロジェクトを手がけました。社員が講師やメンターとなって受講生たちに混ざりながら教えることで、自分たちにとっても内省し、スキルを見直したり自身のスキルに自信を持つ機会になったりしています。対外的なブランディングと社内外の組織づくりによって、自走する組織になるきっかけになっているのではないでしょうか」

自社の採用に力をいれたいという相談がきっかけであっても、採用に限らずに企業ブランディングを高めるための提案をしているという。こうした取り組みは広告的発想を越え、経営的視点をもとにさまざまな人たちとコラボレーションしていくことに価値が宿ると横石さんは言います。

「経営者とお話をすればするほど、会社のビジョンに立ち返ることが多いんです。その根底には、その会社で働く意義や働く人一人ひとりの自主的な活動とどうリンクさせていくかを考えなければいけません」

横石さんが関わるものは学校や空間、オンライン、場づくりとさまざまだが、はじめは個別の課題解決だったものが、次第に企業のブランディングやビジョンへ拡張し変化していきます。

これまでは組織としてのあり方と個人のあり方が切り離されていましたが、これからは個人と組織のそれぞれが相互に重なり合ったり相互作用したりすることが大切です。個人の生き方自体が変われば、おのずと組織も変化していく。まさに個人という組織の細胞そのものが変化していく漢方薬のようなものです。

「働くことに対するものさしは、自分で持っていてほしいですね。自身の生き方そのものを考えるためには、人と人との関係が重要になってきます。だからこそ、TWDWでは登壇者自身の個々人の生き方、働き方のWhyの部分を重視し、それらを参加者に投げかけることで、そこから自身への問いが生まれてきます。問いが問いを生み出していくんです」

社会全体が問いと向き合うことで、自身の問いが生まれ、そこから次なるアクションが導かれ、働き方だけでなく自身の日々の暮らし方、生き方へと次第に問いが移っていく。HowではなくWhyを組織や個人全体が考えることで働くことと生きることがつながり、どう個人がそれらを思考していくかにつながっていくのです。

生き方にP2P(Peer to Peer)の関係を作れるか?

生き方、働き方に問いを生み出すことで個人が主体的に行動し、自走するための創造性や生産性をいかにして養っていくか。自分自身のものさしを持ち、それぞれが座標軸をもって行動しなければいけません。

そうした個人を増やすために、横石さんは客観的ではなく、主観的な尺度を持って行動することの大切さを説きます。そのヒントは英国のとある学校でした。

「雑誌『WIRED』日本版に、アデルやエイミー・ワインハウスを輩出したThe Brit Schoolという学校が紹介されていました。その学校で最も大事している指標は『Be KINDNESS(優しくあれ)』です。そこでは、歌や楽器がうまいことそれ自体では評価されない。これからのアーティストには、他領域とコラボレーションする能力が必要とされています。シンガーであってもエンジニアと話すこともありますし、経営者と話すこともあるかもしれません。大事なのは互いに分かち合い、優しくあることです。これからますます多様な人種や言語の人と対話しなければいけない時代です。だからこそ、そこには優しさが必要なのです」

優しくあること。それは人と人とが対等に並び、ときに共創しあうこと。それぞれに違った背景や考えをもった個々人同士が、互いに良い関係を築こうとすること。他者と対話し、他者の振る舞いから、自身への内省と自身への問いを立てる人物であること。優しさを持ち続けるためには、常に問いをもち、その問いから次なる興味関心や問題意識を向けなければいけません。人と人とが相互に自律し助け合うP2P(Peer to Peer)による関係を持ち、他者からさまざまな学びや問いを導いていくことこそ、これからの時代に必要なことだと横石さんは指摘します。

常に観察をもとに判断するOODAや、HowではなくWhyを持って自己や他者と対話し続けることは、まさに、問いを持ち続けることでもあります。

「答えを求めるのではなく、常に問いを持ち続けること、それは、わからないものをわからないものとして捉え、受容する力が必要なんです」

横石さんは、働き方や生き方を踏まえ、個人が問いを生み出し続けていくための学び方が大事だと気づいたとのこと。横石さんが主催するNew Schoolと名付けた学び方を学ぶ場は、先のアデルらを輩出した学校と同様に、優しさを軸にした学校づくりに現在取り組んでいます。正解のない学校、個人の問い、主観のものさしを導くための学校プロジェクト。そこには、P2Pの関係をもとに、他者への優しさと常に問いを生み出し続ける場でもあります。

「生き方は他者から学ぶことが多くあります。だからこそ、P2Pで個々人の関係を紡ぎ、問いから新たな問いが持続的に生まれるような仕掛けをしていきたいんです」

TWDWのような問いを生み出すイベント内のプログラムを一緒に作るのも、一種の共創だと横石さんは言います。ただのイベントではなく、参加者とともに問いを生み出すために、登壇者の組み合わせやテーマ設定、イベント内でのワークショップの仕掛けなど、さまざまなデザインが施されています。

会社や組織といった枠ではなく、個人と個人がつながり、そこから互いの生き方について対話する関係によって新たな問いを生み出し続ける。私たちの生き方そのものが、改めて個人のあり方と向き合うことを必要とするいま、生き方そのものにP2Pの関係を作り出すことが問われているのです。

記事構成・執筆:江口晋太朗(TOKYObeta Ltd.)