Amazonって、星いらなくないかな

ときどき思います。「人類には、早すぎたんだ……五つ星の評価は……」って。

特に書籍に関しては強く思います。

あれって、難しくないですか。

iTunesにおけるレート

私の人生に「五つ星の評価」が入ってきたのは、iPodとiTunesを導入した大学生時代。カセットテープやMDにはなかった「データベース」感にわくわくしていたことを今でも思い出します。せっせと曲をインポートして、そこに星の評価をつけていました。

でも、その段階でも難しかったのです。だって、「どういうものに星1つを与え、どういうものに星5つを与えるのか」って指示がありません。「いや、そんなのすぐわかるだろう。すごくいいのが星5つで、その反対が星1つだよ」と思うかもしれませんが、「いいもの」だって機微があります。

その当時はB’zにはまりまくっていたので、B’zの曲にはほとんど星4つか5つを与えていました。ビートルズだってそうです。でも、それはそれとしてアニメソングで「これはいいな」というものもあり、じゃあ、それに星5つを与えるかというと、ビートルズと同じレベルにしていいのかな……と悩みも生まれます。

人生に星付けが入ってきた

が、しばらくしてそのような苦悩からは解放されました。ようは、レート(星の数)だって一つのメタ情報に過ぎないのだと気がついたのです。言い換えれば、スマートプレイリストを作るときに使えるフィルタリングの条件の一つに過ぎない、ということです。

どういうことでしょうか。たとえば、ある曲に星4つを与えたとしましょう。それは「星4つ以上の曲を集めたスマートプレイリスト」に引っかかるようになる、ということです。逆に言えば、そのようなプレイリストに乗せたい曲に星4つを与えればいいのです。

だからたとえば「星5つを集めたプレイリスト」が、B’zやビートルズばかりになるのが嫌なら、彼らの個々の楽曲のレートを調整すればいいわけですし、「アニメジャンルの星5つ以上」を集めたプレイリストを作りたいなら、それらにガンガン星5つを割り当てればよいわけです。

Evernote風に言えば、レートは単なるタグでしかありません。それを「曲への絶対的な評価」と考えはじめるとややこしくなります。

幸いiTunesは自分に閉じており、運用の基準も自分さえわかれば問題ありません。ここでの星はそれなりに機能します。

集合知には至らない

では、Amazonの星はどうでしょうか。

ここでも、星の付け方に指示はありません。だから、個々の読者が、自らの基準で星を与えることになります。が、この星は自分には閉じていません。その本の世間的な評価に使われます。

「いや、閉じていないから良いのではないか。一人の偏った知性よりも、集合知の方が信頼できる」

おそらくそんな意見もあるでしょう。ごもっともです。ただし、集合知を機能させるためには、一定サイズの規模と集団の多様性の二つが必要です。で、「ものすごく売れている本」に関しては、これはクリアできるでしょう。たくさんの、そしていろいろな人がその本を手に取るのですから。

が、逆に言えば、それ以外の本では少々怪しいものです。サイズが小さいこともありますし、レビューを書く人たちが大いに偏っていることもありえます。それでは集合知の機能は期待できません。

つまり、ここでは星は(客観的な評価において)ほとんど何の意味も持っていないのです。でも、ぱっと見ただけでは、500人による平均評価としての星4つと、2人による星4つは「同じように」見えます。

が、先ほども書きましたがその二つはまったく違うものです。が、その違いは今の星の表記では私たちには知覚できません。

本は何なのか

「いや、そうやってあんまり売れてない本の評価なんてどうでもいいじゃん」

こんな意見もあるかもしれません。いかにも市場で活躍してそうな方の意見です。でも、そんなに簡単に言い切れるものでしょうか。ここには、「本とは何か」という大きな問題が潜んでいます。

集合知による評価を機能させるためには、「一定サイズの規模と集団の多様性」が必要であると書きました。これを簡単に満たせる商品があります。それが何かわかりますか。

そうです。「コモディティ」です。安価に普及していて、どのメーカーのものでも機能にかわりはなく、誰でもが手に取れる商品。そうした商品であれば、集合知による評価は機能してくれます。

となると、「本はコモディティなのか」という疑問が立ちます。で、おそらくそれはYesでしょう。一部の本に限ったことではありますが、コモディティと呼べる本はあります。が、そうでない本もあります。非常に偏った本、読者が限られる本。むしろこちらの本の方が数は多いかもしれません。また、電子書籍時代ではそういう本が増えてくるでしょう。

「本」の文化はたいへん豊かなもので、ベストセラーだけがそれを占めてきたわけではありません。1000冊しか売れなかった本に、心を救われた人、人生の指針を得た人だっているでしょう。そういう本の評価がどうでもいい、という話にはなりません。それは稚拙な手つきによる文化の否定です。

薄くしてしまう

では、どうすればいいのか。

二つ方向性が考えられます。

一つは、「同じに見えなくする」というもの。先ほども書きましたが、集合知が機能している評価とそうでない評価があり、それが「同じように見える」ことが問題です。だったら、同じように見えなくすればよいでしょう。

具体的には、集まった評価の数で透明度を変えるのです。評価が一つなら、ほとんど透明で星が表示されます。で、評価の数が増えれば増えるほど色をつけていくのです。Amazonがたとえば200を基準と定めたなら、そこまで評価が集まったら標準の色で星が表示されるようになり、それ以上の数が集まるならたとえば色を赤にシフトしていくといった対応も考えられます。

集まり方が「薄い」状態の星
十分に評価が集まった状態の星

この施策であれば、数が少ない評価は「まだ、定まっていない評価」だと「見える」ようになるでしょう。少なくとも、意味合いの異なる星の数が「同じように」は見えないはずです。

また、本を読んだ読者も色が薄い星であれば、そこに色をつけようと意欲的にレビューを書くかもしれません。たとえば、自分が読んだ本が星3つの感触だったとして、Amazonで星3つの評価がついていたら「まあ、いいか」と思うのではないでしょうか。しかし、星の色が薄ければ、「ちょっと書こう」と思うかもしれません。こうしたモチベーションの刺激は地味に大切です。

ただし、このやり方であっても、絨毯爆撃的な高評価(あるいは低評価)によるレビューの歪めは是正できません。それはやはり個別の対処が必要となるでしょう。

星なんかなくても

もう一つの方向は、「だったら、もう星を無くしてしまえばいい」というもの。

Amazonと星評価に慣れている私たちにとって、突飛な意見かもしれませんが、星評価を持たない書籍販売プラットフォームもたしかに存在しています。また、星を無くすだけであって、感想コメントを無くすわけではありません。読者の声はきちんと集まります。

気になるのは、プロモーション的な心配でしょうか。「高い星がついている=売れやすい」という図式が崩れれば、全体の販売数が下がるのではないかという懸念が立ちます。それは否定しきれません。ただし、「低い星がついてしまった=売れなくなった」が消えることでいくらかは衝撃の緩和ができるでしょう。

またランキングとセールが売上げに大きな影響を与えていることを考えると、星消失の衝撃はそれほど大きなものではないかもしれません。

代わりに提示する情報

とは言え、単に星を消すだけではインパクトはありません。注目も集まりません。そこで、新しい情報を書籍の販売ページに提示します。それは何か。

販売数です。

星の表示を消す代わりに、その本が累計何冊売れているのかを表示するのです。

もちろん、問題が多数あることは理解します。業界的な慣習や、数字を公開したくない事情もあるでしょう。が、だからこそ、これはかなり強力な情報の提示になりえます。また、これはリアル書店では実現できない「売り方」でもあります。

ちょっと考えてみると、たとえばYouTubeでは、GoodとBadの評価ボタンはあるものの、検索結果などで表示されるのは「再生回数」だけです。で、私たちは自然とその回数で動画の良さを評価しています。しかし、単純に「再生回数が低い=つまらない」とは考えません。せいぜい「あまり見られていない」と思うくらいでしょう。少なくとも、5段階による単純化された評価ではなく、もっと緩やかな評価を下しているはずです。

YouTubeでの検索結果

それだけではありません。累計販売数は基本的に「減り」ません。星評価の場合は、数が増えて平均値が減ることがあるわけですが、累計販売数は時間とともに増えていくのです。ネガティブさが入り込む余地が小さく、さらに言えばロングテール向きです。

読者側の楽しみもあります。ニコニコ動画では「1コメゲット〜」などと懐かしい書き込みは今でも目にしますし、YouTubeでも人気の動画を早めに(視聴回数が少ないうちに)発見することはウォッチャーの力の証明でもあります。書籍でも、「一番最初に買った人」はなんとなく特別な気分を味わえるでしょうし、著者も「キリ番記念」みたいなプレゼント企画ができるかもしれません。

新しいことはいろいろ考えられそうです。

さいごに

さらに言えば、それが電子書籍であれば、販売数だけではなく「どれだけ読まれたか」の情報すら提示できます。

これは面白い情報の開示ですし、怖い情報の開示でもあります。「10万部突破!」と謳っている本の読了率が5%、ということもあるわけですので。

でも、逆に「同じ人が10回以上再読しています」という情報が提示されたら、それはまた新しい本選びの情報となるかもしれません。この辺りにも、イノベーションは眠っていそうです。

個人的には書籍に関しては(客観的評価を構成するための)星評価は必要ないのではないかと感じます。もちろん、本はコモディティーでしかないという見解であれば話は違ってくるわけですが。


Originally published at rashita.net on May 17, 2016.

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