Sakaba Game Report: Web3カードゲーム”Splinterlands”のDAOとは?ガバナンス提案などの実例を用いて説明

Hametaro
[日本公式]SAKABA_JP
Oct 19, 2023

Web3ゲームに触れていると「DAO」や「ガバナンス」という言葉を目にすることが多いです。しかし、これらを実践しているゲームはほとんどなく、とりあえずホワイトペーパーに記載しているだけのように感じています。トークンもとりあえず「ガバナンストークン」と名付けているのではないかと。

本記事では、5年以上続いている老舗トレーディングカードゲーム「Splinterlands」が実践しているDAO、ガバナンスに関して調査してみました。

<筆者の紹介>
Sakabaリサーチ担当の@hametaro_bcgです。2019年からWeb3ゲームに触れて以降、ブロックチェーン・NFTだからこそできる体験に喜びを感じながら毎日ゲームを楽しんでいます。

目次

  • DAOの定義
  • SplinterlandsのFT(ファンジブルトークン)
  • Splinterlandsのトレジャリーウォレット
  • Splinterlandsのガバナンス提案/投票
  • さいごに:トークン発行し終えた世界

DAOの定義

私自身は別にブロックチェーン、DAOの専門家ではなく、常日頃からWeb3ゲームを通じてDAOに触れているゲーマーに過ぎません。よって「DAOとは何か?」という定義に関しては、Kanemitsu Midori氏のブログから引用することにしました。

1. 共通のFT(ファンジブルトークン、いわゆる普通のトークン)またはNFTをWalletに持っている人たち(以後「DAOメンバー」)で構成され

2. ブロックチェーン上に誰でも見れる形でDAOに所属するTreasury Walletがあり
※会社の銀行口座がいつでも誰でも見れるような状況

3. 個々のDAOメンバーがTreasury Wallet内の資金の用途として何かを提案し、この提案DAO内の投票で可決されるとTreasury Walletから自動的に資金が移動する

引用:https://note.com/midolix/n/nbe6c30ea7589

本記事では、SplinterlandsのDAOを読み解くにあたり、

  • FT(ファンジブルトークン)
  • トレジャリーウォレット
  • ガバナンス提案/投票

について深堀りしていきたいと思います。

SplinterlandsのFT(ファンジブルトークン)

まずはじめにSplinterlandsは2つのトークンを発行していますが、DAOで使われるのが”SPS”です。

  • DEC:ユーティリティトークン
  • SPS;ガバナンストークン

SPSのトークンアロケーションは、以下グラフの通りです。

引用:SPSホワイトペーパー

総供給量の10%である3億枚がDAO Foundation(コミュニティ)に割り当てられます。5,000万枚が初日に発行され、残りは64 か月間にわたって均等にリリースされます(毎月390万枚)。

上記だけではなく、これまではゲームアイテム販売収益をDAO Foundationに分配することで財源が確保されています。

Splinterlandsのトレジャリーウォレット

Splinterlandsのコミュニティ資産が入っているトレジャリーウォレットは、ブロックチェーン上に誰でも見れる形で公開されています。半期に一度報告されるSPS DAO Treasury Reportの通り、4つのアドレスを見れば所有財産やトランザクション履歴をいつでも閲覧できます。

2023年10月8日時点、453万ドル相当の資産を有していました。流動性を提供していたり、ステーキングされています。ガバナンストークン保有者による投票を通じて、これらの資産の用途を決めることになっています。

Splinterlandsのガバナンス提案/投票

これからSplinterlandsで行われているガバナンス提案内容を見ていきましょう。

ゲーム運営自身が提案していることも多いですが、日々熱心に議論しているプレイヤーも積極的に提案しています。とても先進的な案ばかりで、ガバナンストークン保有者が意思決定に携われることに私は驚きました。
※ステーキングされているガバナンストークン1枚につき、1票を獲得します。賛成数が3分の2を超えたら可決されます。

姉妹ゲームへのガバナンストークン割当

毎月DAO Foundationに割り当てられるガバナンストークン390万枚のうち、姉妹ゲームであるタワーディフェンスゲームに100万枚を割り当てるという提案。Splinterlandsカードに更に実用性を与え、ユーティリティートークンの価値向上にも繋がる恩恵から可決されました。

姉妹ゲームとは言え異なるゲームにガバナンストークンを注ぎ込むのもコミュニティによって判断されました。もし否決されていたら、タワーディフェンスゲームの報酬はどうなっていたのでしょうか?割り当て額を調整しながら、何かしらの形で可決されるようにリトライしていたことでしょう。

姉妹ゲームのカードパック保有者へのガバナンストークン配布

上記提案で割り当てられた月100万枚のガバナンストークンの用途に関して提案がありました。タワーディフェンスゲームが未リリース時においては、ゲームアセット保有者に分配されることで可決されました。報酬面までコミュニティで意思決定できるのは、なかなかチャレンジングかと思います。

カードレベルに基づく報酬設計

カードのレベルが高いほど報酬が多くもらえるようにデザイン変更したいという運営からの提案がありました。このようなゲームデザイン・報酬設計変更に関しては、ゲーム運営が独断で意思決定することが多いですよね。

Bot使用禁止を利用規約に追記

高性能Botを利用できるサードパーティツールの登場により、人間が全然勝てなくなった時期がありました。人間同士のバトルを実現するためにBot使用禁止を利用規約に記載することで可決されました。こちらもゲーム運営が独断で意思決定することが多いですよね。

マーケット手数料の値上げ

手数料率を5%から6%へ引き上げることで合意されました。

ゲーム内マーケットもしくはサードパーティマーケットが受け取る手数料率が5%から4%へ下げられ、2%分のユーティリティトークンをバーンすることになりました。

売れ残りのカードパックを毎日バーン

予測していたパック販売数が多く、市場と乖離があり、売れ残っていたカードパック。これらが売れるのを待ち続けるのではなく、毎日少しずつ減らすようにバーンしていくことが可決されました。

DAO収入を増やすためにステーキング追加

DAO Foundationがステーキング報酬を得て資産を増やすため、保有している大量のガバナンストークンをステークすべきであるという提案がありました。コミュニティの財布が潤った方が良さそうに見えますが、大量にステーキングするとプレイヤー個々の利回りが下がることや、ステーキング量が増えるとDAO Foundation自体が多くの投票権を手にするため、元も子もないという意見がありました。

ユーティリティトークンの買い支え

約28万ドル分のガバナンストークンを用いてユーティリティトークンを買い支えるべきだという提案がありましたが、否決されています。

暗号資産取引所(CEX)上場のための支出

トークンの認知度や流動性向上、エコシステムへの新規流入を目指し、CEX上場のために最大3,000万枚(投票当時のレートで約67万ドル)を支出することが可決されました。

トークンステーキング量に応じたPromoカードエアドロップ

引用:Splinterlands

ステーキングされているガバナンストークン1,000枚につき、プロモーションカード1枚を配布することが可決されました。トークンのステーキング促進だけでなく、トークン発行後はDAOが報酬を提供することを意識付けるキッカケになりました。

新カードパック開発・販売をゲーム運営会社に委託

これまではゲーム運営であるSteem Monsters Corp.がカードパックを開発・運営してきましたが、今後はDAOが中心になろうとしています。「DAOがSteem Monsters Corp.へ新カードパックの開発・運営を委託するために、25万ドルの支払い、パック販売の50%の収益を分配する」かどうか投票され、可決されました。
これによってSplinterlandsはより自律的なゲームに近づくことでしょう。

さいごに:トークン発行し終えた世界

多くのWeb3ゲームはトークン発行後の姿が語られていません。様々なWeb3ゲームのホワイトペーパーを読んでいて、「トークン発行した後の報酬はどうするの?」と疑問に感じています。トークン発行の過程では発行したトークンをプレイヤーに直接配布していけば良いわけですが、全て流通した場合は誰がプレイヤーに報酬を支払っていくのでしょうか。

Splinterlandsの場合はDAO foundationに資金が蓄積されており、トークン発行後(5年後)はDAO foundationが”Play to Earnエコシステム”を支えることになります。

正直なところ、うまくまわるかは未知数です。そもそもゲーム運営にDAOは必要なのか分かりません。私はSplinterlandsのゲーム性はもちろんですが、コミュニティが中心となってゲームを運営していくチャレンジに大きな関心を持っており、これからもコミュニティメンバーとして楽しんでいきたいです。

ゲーム概要

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