「MaaSとはライフスタイルを変革する手段である」京急電鉄とサムライインキュベートが考えるモビリティ×ライフスタイルのこれから

「MaaS(Mobility as a Service)とは手段であり、目的ではないー。」

そう語るのは、京浜急行電鉄株式会社 新規事業企画室の橋本 雄太氏です。

自動運転、ライドシェアなど移動を取り巻く環境が刻々と変化している現在、モビリティ×ライフスタイルのイノベーションに取り組む京急電鉄とサムライインキュベートに、両者が開催する事業立案プログラム「Mobility “AND ON” BootCampについてお話を伺いました。

モビリティ領域における創業前および創業初期のスタートアップ企業、これから起業・事業化を考えている個人や研究機関はぜひご覧ください。

対談者プロフィール

橋本 雄太

京浜急行電鉄株式会社 新規事業企画室 主査

大手新聞社、外資系コンサルティングファームを経て2017年4月、京浜急行電鉄に入社。スタートアップとのオープンイノベーションによる新規事業創出を目指し、「京急アクセラレータープログラム」を立ち上げ、採択企業との事業連携を推進する。2019年7月には、オープンイノベーション拠点「AND ON SHINAGAWA」を立ち上げ、多彩なプレーヤーによるイノベーション・エコシステム形成を目指す。

坪田 拓也

株式会社サムライインキュベート Manager Investment Group

1989年大阪府出身、京都大学卒業。オプトにてWebマーケティングや新規商材企画を経験後、グループ会社で複数のtoCサービスの企画〜運営における事業責任者等を経験。2017年にサムライインキュベート入社。大企業の新規事業立ち上げ支援に従事し、現在では投資先の事業支援・スタートアップへの新規投資を担う。

「モビリティの先にあるコンテンツを仕掛ける」これまでの京急の取り組み

坪田:
橋本さんの自己紹介も兼ね、これまでのオープン・イノベーションの取り組みについて教えてください.

橋本:
当社では、人口減少・高齢化への危機感から、自らのビジネスモデルを変革するため2017年からオープンイノベーションの取り組みを開始しました。ベンチャー・キャピタルへの投資を始めたのは2018年頃からです。

AND ON SHINAGAWAは、2019年7月に立ち上げたオープンイノベーション拠点です。特にモビリティやライフスタイルという領域でイノベーションを起こしていくためには、京急とスタートアップという1:1で取り組むだけでなく、多彩なプレーヤーを巻き込んだイノベーション・エコシステムの形成が重要だと考えています。本拠点では、「デジタル時代のモビリティ×ライフスタイル」というテーマを掲げて、スタートアップさんへのオフィス提供や、ピッチイベントなどを日常的に開催しています。。あえて、京急の名前は入れていないのは、多彩なプレーヤーがフラットに集える場所にしたいからです。

坪田:
AND ON SHINAGAWAはプラットフォームにすぎないということですね。

橋本:
そうですね。モビリティ変革で世界をよくしようという考えのプレイヤーが繋がっていく場にしていきたいですね。

「MaaSは”手段”にすぎない」MaaSの概念とは?

オープン・イノベーション拠点『AND ON SHINAGAWA』

坪田:
そもそも、MaaSとはどのような意味なのでしょうか?

橋本:
MaaSとはMobility as a serviceの略で、「移動のサービス化」という意味です。教科書的には複数の移動モードを一つに統合し、ユーザーの利便性を高めていくものです。ただし、MaaSの本質とは、単に利便性が向上されるというところに留まらず、移動手段自体が自動運転やライドシェア等によってサービス化され、さらに移動データが統合されていくというところにあります。これまでアナログだった鉄道、バス、タクシーといった既存のインフラも含め、モビリティがデジタル化されていくことで、これまでにないマーケットが生まれていくのです。

移動した先にある、不動産、ワークスタイル、リテール、エンターテイメントなど、あらゆる領域・産業がMaaSの影響を受け、その在り方が変わっていくでしょう。

坪田:
なるほど、MaaSの本質はその裾野の広さにあるんですね。これまでの京急におけるMaaSの取り組み事例などはありますか?

橋本:
私の所属する新規事業企画室では、スタートアップさんとのオープンイノベーションでこの領域に挑んでいます。

移動がサービス化される中で、スタートアップさんと、移動周辺のユーザー課題を解決し、真に必要なサービス・コンテンツを生み出していくことは、鉄道会社が直面する”MaaSシフト”の中で、とても重要な取り組みだと考えています。旅行者の移動時の課題となる荷物問題を解決するecboさんや、そこにしかない体験を、アウトドア領域で生み出したYAMAPさんとの協業は良い事例になっています。

特に後者の事例は、一見、MaaSとは関係ないと思われがちですが、人が移動したくなるようなコンテンツを生み出すことこそが、MaaSの世界の中ではキーになると思っています。

Mobility “AND ON” BootCampについて〜アクセレーターとの違い〜

坪田:
今回のMobility “AND ON” BootCampは、京急さんから見て、京急アクセレータープログラムとは設定テーマや募集対象となるスタートアップにどのように違いがあるのでしょうか?京急アクセラレータープログラムについても簡単に紹介しながら教えていただけますか?

橋本:
第1回目となるMobility “AND ON” BootCampの目的は、この領域に関わるプレーヤーを掘り起こし、サムライさんを通して事業立ち上げから支援していくことです。

第1回は〇〇×モビリティで4つのテーマで募集しています!

京急アクセラレータープログラムは、当社とのシナジーを見据えた、主にシリーズA以降の社会実装プログラムですので、立ち位置は全く異なります。

京急アクセラレータープログラムは、京急と採択企業も1対1で向き合いながら、当社の顧客接点やリアルなアセットを活用した社会実装にフォーカスしています。

一方で、モビリティ×ライフスタイルのエコシステムを作ろうとしているAND ON SHINAGAWAとしては、この領域の裾野を広げていきたい。

そのためのプログラムですので、本プログラムにおいて京急とのシナジーが必ずしも前提にあるとは限りません。もちろん鉄道会社ならではの知見を京急がサポートしますし、サムライインキュベートさんが事業立案の面を手助けをしていきますよ。

2日間の短期集中プログラム。ご応募お待ちしています!

京急以外との関係構築もできる!Mobility “AND ON” BootCampはこんな人にオススメ

橋本:
もう少し、具体的に言えば、サムライさんの事業創造のフレームワークを使いながら、短期集中で一気に事業解像度を上げていきます。サムライインキュベートが運営するファンドからの出資検討も含めた事業立ち上げが可能なプログラムですので、これから起業されたい方がメインターゲットですね。

大きな特徴として、プログラム後も一定期間は、AND ON SHINAGAWAのオフィススペースも提供しますので、事業創造に集中してもらえます

また、AND ON SHINAGAWAのエコシステムを活用し、この領域のスタートアップや、航空会社や建設会社といった大手企業とも繋がりを作ることができます

品川という街から、一人でも多くの起業家が生まれてくることを願っています。

坪田:
自分たちの技術や事業アイディアとモビリティとの接点に新たに気づく可能性も十分にあり得ますからね。

気になるMobility “AND ON” BootCampの内容とは?

AND ON SHINAGAWAでは、MaaS関連イベントが活発に開催されています!

橋本:
この短期集中のBootCampという取り組みは別領域で他社さんとも過去実施されていると思いますが、Mobility “AND ON” BootCampの2日間では、実際にどのようなことをするのか具体的に説明してただけますか?

坪田:
京急・サムライ各社から1グループに一人ずつ伴走者がつき、2日間で応募いただいたテーマの中で事業案・協業案を具体化しプレゼン資料に落とし込むまでを実行します。僕たちもアドバイザーのような立ち位置ではなく、参加されるチームの一員として口と頭だけでなく、資料作成や調査含めて手も動かします。僕たちも本気で伴走するので、濃い2日間になることは間違いないです(笑)。特に、事業の初期顧客(ターゲット)をどうやって具体化すれば良いか、どのような競争優位性を考えれば良いか、大手事業会社との協業に向けて何を明確にしないといけないか、というような点について、プログラムを通じて解像度がかなり上がると思います。

「アイデアはあるけれど事業の立ち上げ方がわからない」「モビリティとの掛け合わせ方がわからない」という課題を解決し、形にしていくのがこのプログラムです。

サムライインキュベートは、これまで170社以上に出資・支援してきました。これまでのノウハウから生み出された事業創造のフレームワークがあるので、特に0→1の創業期においてアイデアの創出や具体化、リリース前後の仮説検証やPMF達成までの事業成長における成功確度を高めるご支援ができると考えています。。

しかし、僕らベンチャーキャピタル(以下、VC)だけでは絶対にホームランは打てないんですね。本気で事業に取り組む起業家の熱い想いに僕たちが事業創造フレームワークなども活用しながら本気で伴走支援させていただくことで、起業家の方が成し遂げたい事を達成する可能性を少しでも高められたら、と思っています。

橋本:
そうですね。事業立ち上げのタイミングで、サムライインキュベートや京急と議論できることはこの領域で事業をする上で必ずプラスになると思います。

何より、資金調達の機会があるというのは、このタイミングのスタートアップさんにとっては、またとない機会になること間違いありません。

安心して頂きたいのは、事業については基本的に、京急の担当者は余計な口出しはしません。本気で事業を考えている起業家に、起業経験のないサラリーマンが何か言ったところで、そんなことは考えまくっているでしょうからね。ただし、鉄道会社視点でのアドバイスは惜しみません。こんなことは出来ないか?といった感じでどんどん疑問をぶつけてもらい、使い倒してもらいたいと思います。

Mobility “AND ON” BootCampにかける想い

BootCamp参加者には、年度内こちらのオフィスが無償で利用できます!

坪田:
最後に、Mobility “AND ON” BootCampへの意気込みをお願いします!

橋本:
AND ON SHINAGAWAは、立ち上がったばかりのプロジェクトです。Mobility “AND ON” BootCampで採択させていただいた企業は、このコミュニティの中核になって頂きたいと思っていますので、オフィスを探している方にもおすすめです(笑)。

プログラム後も一緒に様々な活動をしながら、エコシステムを盛り上げていければと思っています。

坪田:
そうですね。少し具体的な話にはなりますが、地方のスタートアップにもぜひ参加していただきたいと考えているため、選考を経て地方から参加いただくチームには、交通費と宿泊費の負担がかからないようにさせていただこうと考えています。

橋本:
地方×MaaSは相性がいいですよね。過疎化の進む地方都市では課題がより強い。そのため、このBootCampを通してAND ONとして地方の起業家とのつながりも作っていきたいですね。

品川は新幹線が通り、空港からのアクセスも抜群ですので、地方のスタートアップさんも、ぜひ東京進出の際のブランチとしてAND ON SHINAGAWAを使っていただきたい。

日本全国の起業家の皆さまのご応募をお待ちしています!

Mobility “AND ON” BootCampへのご応募はこちら

<文・写真=とにー(鳥井美沙)

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