テクノロジーを活用した事業で産業変革を起こすには 〜事業機会、難しさ、進め方をそれぞれの視点から語る〜
【2019年11月8日開催 イベントレポート】
未だIT化が進んでいない既存産業にテクノロジーを活用することで、業界の抱える課題を解決し変革を起こすーー。
今回のイベントでは、物流業界にどのようにイノベーションを起こしていくのか、イノベーションをすすめる難しさについて、大手物流会社とテクノロジースタートアップのゲスト3名にお話を伺いました。
・物流業界でこれからどのようなテクノロジーが使われるか
・レガシー産業で事業を行う上で大切なこと
・物流業界でいまイノベーションを起こす意義
など、レガシー産業での事業を考える上で重要なことがたくさんあるので、ぜひ事業のタネを磨くための参考にしてもらえたら嬉しいです。
【目次】
- 大手物流のセイノーHDがイノベーションを起こし続ける理由
- 物流×テクノロジーの可能性に挑戦するスタートアップ
- 物流業界で事業を行う理由とは
- 非効率のようで一番大切な「現場に足を運ぶ」ということ
- AIやロボットが活躍する時代で人間の役割とは
大手物流のセイノーHDがイノベーションを起こし続ける理由
セイノーホールディングス株式会社 オープンイノベーション推進室 課長 加藤 徳人 氏
1975年生まれ。1998年西濃運輸株式会社入社。トラックドライバー経験を経て、首都圏営業専門職として7年間従事し、大手新規顧客開発を担当。
セイノーグループ管理者層に対する米国式マネジメント経営システムの導入およびハンズオン業務改善支援を行う等幅広い現場経験を持つ。2016年より現職、自社アセット活用による価値創造を目的としたインキュベーションや新規事業構築に従事。既存事業の枠を超えた他社との共創による社会課題解決を目指す。
オープンイノベーション推進室の取り組み▼
①物流じゃない物流の創造
②省人化、無人化、効率化
③ゼロイチ価値創造
主力のトラック輸送事業の価値を最大化すべく、自社のもつアセットを利用して社会的課題を解決するために始まった、セイノーHDのオープンイノベーションの取り組み。
セイノーHDの取り組む新規事業▼
・トラックターミナルの2階部分を使った植物工場事業
・インドネシアでのコールドチェーン事業
・パレットリユース事業 など
このように、物流にとらわれない事業に挑戦するセイノーHDですが、もちろん70年以上続く物流の知見を活かした新たな物流の創造に取り組んでいます。
物流じゃない物流の創造▼
現状:納品されたものを出荷、配送、配達をする
↓
制作データを転送して、現地の配送センターで出力・製品化をして配達する「運ばない物流」の実現
セイノーHDは既存事業のアセットを活かしつつ、自社での価値創造や業務効率化、さらには協業事業やベンチャー企業への出資を行なっています。
物流×テクノロジーの可能性に挑戦するスタートアップ
RFルーカス株式会社 取締役COO 浅野 友行 氏
1982年、大阪生まれ。京都大学法学部卒。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBA取得。
丸紅株式会社にて石油・天然ガスのトレードや海外の事業投資、グループCEO室で戦略立案に従事。4年間のカタール駐在経験あり。2017年7月に株式会社トライステージに入社し、株式会社日本ヘルスケアアドバイザーズやメールカスタマーセンター株式会社の取締役として子会社を経営。2018年11月よりRFルーカス社に参画。
RFIDx位置特定の特許技術で、あらゆるアイテムの位置を可視化するロケーションテックのパイオニア。
RFルーカスが取り組むのは、人手不足の中、店舗・倉庫・工場などで探し物をする1人年間150時間以上もの非生産的な時間という課題です。
RFIDとは離れた場所から複数のタグを一括で直接バーコードを読み取らなくてても、瞬時にタグを検知できる技術です。RFIDは店舗・倉庫の入出荷・棚卸や、ユニクロのセルフレジのような決済で利用されています。
Rapyuta Robotics株式会社 執行役員 Director of Business 森 亮 氏
Rapyuta Roboticsのビジネス部門を統括。クラウドロボティクス・プラットフォーム「rapyuta.io」及び「rapyuta.io」から生み出されたロボットソリューションの普及に尽力中。
前職では、GoogleにてAPAC地域を対象としたマーケティングプログラムの一つを統括。それ以前は、モルガン・スタンレーにてM&Aアドバイザリー業務に従事。UCLAにてMBA、ノースカロライナ大学にてBAを取得。
倉庫や工場でのロボットアームの複合ソリューションを提供しています。
複数の種類のロボットを統合的に制御できることや、カタログからデバイスを選んでシュミレーションを行えるところがポイント。日本郵便やマイクロソフトのイノベーションプログラムや事業提携など勢いのある会社です。
(モデレーター:株式会社サムライインキュベート Manager Investment Group 坪田 拓也)
物流業界で事業を行う理由とは
坪田(MC):みなさんがこの領域で事業をやろうと思った理由を教えてください。
森:私が物流に特化したビジネスを行うのは3つの理由があります。
①物流の慢性的な人手不足
②倉庫の環境が安定しているのでロボットと相性がいい
③複数のロボットを賢く連携させるニーズがある
特に物流はテクノロジーで解決できることが多くて、相性がよかったんです。
坪田(MC):浅野さんはもともと別業界の人でしたが、なぜ別の業界に挑戦しようと思ったんでしょうか?
浅野:僕は前々職の丸紅時代から、ずっと新規事業をやってみたいとは思っていました。
中でも店舗や工場・倉庫は非効率なところも多く、ビジネスチャンスがある分野だと思っていて。ICタグが普及してくる時にRFIDという面白い技術があるのを知って、この領域に挑戦してみたいと思ったのがきっかけです。
ただ、僕が入った時はビジネスサイドが会社にいなかったので、ほとんどエンジニアでエンジニアをマネジメントをしていくのかがかなり新しいチャレンジでした。
加藤:僕は昔からの「トラックへの憧れ」と「リアルなものが届く嬉しさ」に惹かれて物流業界に入りました。
ここ数年、物流のイノベーションを取り上げて頂く機会が多くなりました。物流は生活に密着していますがまだ課題が多い業界なので、その業界でオープンイノベーションを行い、新しいイノベーションを業界全体に入れていきたいなと思っています。
私たちの部署はそういう課題をロボティクスで効率化したりして改善していますが、私たちの会社だけがやっていても変わらないので、日本の業界全体が変わるようにお客さんやベンチャー企業を巻き込んで一緒に取り組んでいければと思います。
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3人とも非効率や人材不足など、物流業界に多くの課題を感じて物流業界でのイノベーションに挑戦しています。特に物流はテクノロジーで解決できる問題もあるので、外の業界からも新しい知見を取り入れていくことが重要になってきます。
非効率のようで一番大切な「現場に足を運ぶ」ということ
坪田(MC):この業界で事業をすすめる難しさや壁はありますか?
浅野:IT化していない業界は減っていますが、倉庫や店舗など現場の方はまだITリテラシーが追いついていないのが現状です。
実際に使うのは現場の方なので、どれだけ現場の方々の視点を持ってプロダクトを作れるかが大事だと痛感しています。
上層部の方とだけ話をすすめるよりも、まずは現場の人に使ってもらってからの方が導入に繋がることが多いんです。だから、実際の物流の管理など現場を見させていただくようにしていますね。
森:私も同じく現場は大事だと思います。物流会社の経営層は「変わらなきゃいけない」という気持ちあって新しい取り組みには前向きなのですが、現場は保守的だとなかなか進まないこともあるんですよね。
スタートアップって最初の印象は怪しそうじゃないですか(笑)だからやりとりの中で現場の方々の気持ちを理解して、少しずつ信頼を勝ち得ることが重要だと思います。
坪田(MC):やっぱりIT業界やスタートアップと物流の現場では文化も全く違う世界ですよね。
そんな違いの中で、物流業界側のセイノーさんはどのようにスタートアップと組んでるのですか?
加藤:私たちの部署では若い人も多く、多様性のある人材で構成するようにしています。
会社全体としての安心安全の物流構築も然る事ながら、私たちの部署がアクセル踏んでいく役目をしたり、スタートアップと本社の間に入った繋ぎ役のような役割を担っています。
坪田(MC):ここで会場からの質問になります。
プロダクトを作るときは現場を知っている(足を運ぶ)必要はあるのでしょうか?また、エンジニアも現場の見学行きますか?とのご質問がありました。いかがでしょうか?
浅野:必要あると思います。
特に弊社みたいなテックベンチャーでは、技術的な部分が絡んでくるのでエンジニアも一緒に現場に行っていますね。そもそも、技術的な話の中にニーズやオペレーションの話も入ってくるので、ビジネスサイドとエンジニアが綺麗に分かれていないので、エンジニアも巻き込みながら進めています。
森:私もこれはマストだと思っています。最大のメリットは、より課題を自分ごと化できることです。
現場に行くのと行かないのでは思い入れが全く違うので、そこがクオリティに繋がります。「現場に行って、理解して、作っていく」それが良いものを作る道ですね。ただ、定型的な作業としての現場見学なら時間の無駄なので、代表やエンジニアが行く必要はないと思います。
加藤:現場には是非足を運んで見にきて欲しいと思います。
想像と実際の現場にはギャップがあることや、業界の人間だとわからない気づきをみなさんの新鮮な目で見ていただければ、新たな発見があるんじゃないかなと思います。
AIやロボットが活躍する時代で人間の役割とは
坪田(MC):最後に参加者から「AIやロボットが活躍する時代で人間の役割は何だと思いますか?」という質問がありました。
森:「人間らしさ」ですかね。
単なる作業がロボットの仕事になる中で、人間の強みになる想像力や柔軟性が人間らしさを磨いていくのがが一番大事だと思います。
浅野:「何かを生み出すこと」かなと。
分析をするのはAIの仕事になるので、テクノロジーを活かしながら常に新しいものを創造し続けるのが人間の役割になると思います。
加藤:やっぱり「愛」かな。
例えば、食事は介護ロボットよりも人に食べさせてほしいと思うんです。ぬくもりやあたたかさは人にしかできないことなので。
物流現場でもラストワンマイルがロボットでいいのか?という疑問があります。やっぱり荷物や食品を渡すところは人でもいいのかもしれません。
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レガシー領域でイノベーションを起こすために「現場の方々の視点を持ってプロダクトを作れるか」「現場を知り、課題を自分ごと化できるか」という話が印象的でした。現場の業務や気持ちを理解し、より顧客目線で解像度の高い事業を生み出すためにも、積極的に現場に足を運ぶことの重要性を再認識しました。
一方でテクノロジーが得意なところもあれば、 人がやるからこそ価値が出るところもある。テクノロジーを推進する人たちも実感している「人間らしさ」がこれからのビジネスでは重要になってくるのかもしれません。
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<文・写真=えるも(石橋 萌)>