スルーするのは難しい

27人の学生にはどのペンに仕掛けがあるかを教え,別の27人には一部のペンは電気ショックを出すとだけ説明した。そのうえで学生を部屋に1人きりにしたところ,どれが電気ショックペンかを知っている学生よりも知らない学生のほうが,多くのペンをノックして多くの電気ショックを食らった。黒板に爪を立てて出す音や嫌われものの昆虫の写真など,電気ショックの代わりに別の嫌悪刺激を用いた実験でも,この効果が再現された。
http://www.nikkei-science.com/?p=50758

この実験は、私には大変に画期的なものと、思える。

そもそも大半の心理実験は、「被験者が得をすると思わなければ、それを率先してやろうとはしない」というアメリカの文化的な価値観の前提、経済学で言う「エコン」が被験者だという暗黙の了解がある。

だからこの実験のように、何の得にもならないのに「電気ショックをくらいにいく」とか「黒板に爪を立てた音を聞く」という行為を主体的に為したという実験は、メッセージに説得力をもたせる。

この実験を通じて述べたいことは要するに、「人は悪臭をかぎたがる」ということである。特に「それが悪臭を発しそうだと思うと、そのことをわざわざ確かめたがる。確かめずにはいられない」のである。

なぜ人は,昔の恋人のいまの交際相手を知りたがり,自分に対するネット上の批判的コメントを読みたがるのか? 心が傷つくに決まっているのに。Psychological Science誌に掲載された最近の研究によると,人間には不確実性を解決したいという心理的欲求が生まれつき備わっているからだ。この欲求は非常に強いので,知ったら自分が傷つくとわかっていても,好奇心を満足させようとする。
http://www.nikkei-science.com/?p=50758

こうした傾向への「マインドハック」はやはり、これは「個人の傾向」と言うより「人間の本能」みたいなものだと知っておくことだ。自分が弱いとか、特別嫉妬深くて、彼氏の家捜しをしたくなるのではなく、災厄を可能性として抱えているよりは、確定した被害として知るほうが、心理的にラクだと「ホモ・サピエンス」は考えがちなのだろう。(結果としてしばしばそうでもない)。

こういう心理はたいてい、もっと原始的な世界で暮らしていた、我々の祖先の「生きる知恵」だった可能性が高い。身の回りの「不確実な災厄の可能性」を放置しておくことは、原始的な世界においては、おそらくリスクが大きい

危険は個体にとってより、集団全体への致命傷につながる可能性があるならば、個体が「我が身の犠牲を顧みず」いちいち危険性を確かめてみた方が、種族として生き延びるのに役立つ

結果としてそういう個体の行動は、例の「利己的な遺伝子」に有利に働きうる。

しかしそうした心理を現代に引き継いで、自分への非難をわざわざエゴサーチでしらみつぶしに探してみても、個体にとっても地域社会にとっても、「利己的な遺伝子」にとってもたいしてメリットをもたらさない。

というふうに考えることで「スルー力」を鍛えることにつながるかもしれない。

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