『ハドソン川の奇跡』という映画を見てきました

佐々木正悟
Sasaki Shogo
Published in
3 min readOct 13, 2016

奥さんと、タイトルの映画を見てきました。いい映画でした。

クリント・イーストウッドという人なのですか。この人の映画を奥さんは好きなようで、ごくたまに映画が見たいと言われて行ってみると、いつも似たような、なんか難しい顔をしたおじさんが、延々と悩む、悩ましい映画を見ている気がします。

2時間があっという間という映画が多い中で、2時間が妙に長く感じる映画です。面白いんですが。

個人的な感想としては、いかにもいい感じのアメリカと、いかにもわけのわからんイヤな気分になったアメリカを、つまり自分の留学生時代を懐かしく思い出しました。

が、一番気になったのは、落ちそうになる飛行機の操縦室と管制塔で、何が行われているかということです。ドナルド・ブロードベントを強烈に思い出しました。

ブロードベントはイギリス出身の心理学者で、「選択的注意」の研究に最高の貢献をした人です。若いころは英軍パイロットでした。

パイロット時代の彼が見たのは、あり得ないほどの数の情報をリアルタイムで伝え続ける機内のディスプレイ。ブロードベントは空軍の経験を、後に米国で心理学を学ぶうちに、新しいアプローチから分析するようになります。

切迫した状況の、非常に限られた時間の中で、高度だとか油圧だとか敵味方の位置だとか、その他いろんな情報を瞬時に読み取って、次にやるべきことをパニックにならないようにやり遂げなければならない。それにはいかにも無理がある。パイロットの置かれている状況は、まさに認知実験心理學者にはのどから手が出るほど欲しい条件とも言えます。

ブロードベントの有名な実験に、二分聴取実験があります。被験者にヘッドセットを装着させて、左右の耳から異なる「物語」などを同時に聞かせる。どちらかの物語に集中してしまうと、どちらかを無視したり、意識できていても切れ切れにしか思い出せなかったりする、というわけです。

目の前でレッドアラートを点滅させ、いろんな警報を鳴らし始めるコックピットの中で、2人の人間が4つの耳だけをもって、管制塔からの指示も同時に検討しなければならない。映画では副機長が「緊急事態マニュアル」の項目か何かを読んで確認しはじめたりするのです。

映画の中でも繰り返し繰り返し「繰り返し繰り返し訓練を受けてきている」という表現を聞かされましたが、それにしてもブロードベントの言葉を思い出させられました。

「2つの声のうち一方が選択され、それに応答されるが、そこでの正確さは問題とされない。もう一方の声は端的に無視される

--

--