「ことば」で社会を彩りたい――「ことばの診療所」を一般社団法人にしました

こんにちは、村田 悠と申します。

一般社団法人ことばの診療所を今年2月に立ち上げ、代表をしています。今回は法人立ち上げの経緯やどんな法人なのかについてコラムを書いてみました。

まず、この法人は「ことばで社会を彩る法人」をテーマに以下の3事業を柱としています。

1)LGBTの発信事業

レズビアン当事者として、同性愛者、トランスジェンダーなどを始めとする「LGBT」や「セクシュアリティ」といった基礎用語の説明から、どう当事者に対応したらいいか、困難事例をセミナーなどで講師として発信しています。

2)本の紹介サイト「ことばの診療所」運営

ホッとしたり、様々な生き方を教えてくれたりする本を、いろんな人が処方箋形式で紹介するサイト「ことばの診療所」を運営しています。※本を「薬」、紹介文を「処方箋」、執筆者を「ドクター」と置き換えています。

3)ワークショップ「ことばの処方箋ワーク」「響ことば探し」などアウトプットのトレーニング

「処方箋」を実際に書いてみるワークショップやお気に入りのフレーズを書き出す写本的なワークショップを運営しています。

「ことばの診療所」を立ち上げたきっかけ

コンセプトを思いついたのは、ライティングコミュニティ「sentence」が主宰するsentence school(現:sentenceゼミ)に参加したことがきっかけです。

当時更新していたブログの書き方をもっと洗練したいという思いで参加したsentence schoolですが、参加した当初は講座がきっかけで法人を立ち上げるなんて、夢にも思っていませんでした。

sentence schoolでは、「何のために書くのか」といった自己の内省や、職業ライターとしての心構えを学びました。スキルの面では、インタビューを行い、その内容を書き起こし、実際に記事にしてみるといった、取材記事をつくる上での一連のフローを勉強させてもらいました。

そして「書くことって面白いな」と思っていた矢先に、思いもよらない課題に遭遇します。

それは、「新規メディアの立ち上げ」です。

sentence schoolの参加者同士で編集部を発足。編集部として挑戦する新しいメディア案を作成しました。メディアを立ち上げるにあたって、メンバーそれぞれで企画書を持ち寄って、コンペをしたんです。

「多様性を伝えるには当事者の声が必要だ」そう思ってブログを書いていた当時の私には「メディア?」「なにそれ??」状態でした。

メディアなんてプロの人が作るものだと考えていたし、仕事で企画書を作ったこともない。とはいえ、課題なので一生懸命考えます。

アイデアを探す中で思い出した、「本」の大切さ

アイデアを探している中で思い出したのが、本のありがたさ。

小中学にわたって3年間いじめられた時に、学校以外の世界があることを本を通じて知っていたから、まだ見ぬ生きやすい環境を夢に描いて生き延びられたこと。

中学校で女の子を好きだと気付いた時に、いろんな生き方や家族のあり方があるって本から教わっていたから、自分を責めることはなかったこと。(気付いた時に自分を責めてしまう当事者もまだいっぱいいます)

他にも多様性を本で学んできたから、世の中の「フツウ」「当たり前」に縛られなかったこと。

いろんなタイミングで本に助けられてきました。

一方で、文化庁が平成26年に実施した調査によると「1か月に本を1冊も『読まない』人は約50%にのぼります。この現状を踏まえて、本を読まない時代に、生きづらさを解消するツールとして本を紹介できるサイトができたらいいな。コンセプトは本=薬だな、と。

その視点で本を紹介するサイトを調べてみると、1人の人が数百冊もの本を紹介をするような個人サイトか、多くの人が匿名で書くコミュニティサイトばかりだったんです。

前者の場合は、その人と感覚が合わなかったら、自分が興味を持てる新しい本と出会いにくい。後者の場合は、匿名ではどんなバックグラウンドの人が紹介しているか分からないことで、共感しにくく、興味を持ちにくい。なので、私に限らず様々なドクターがプロフィールを載せて処方するという今のスタイルをとろうと思いました。

最初は思いつきの企画なのでものすごくふわふわしてました。メンバーでブラッシュアップをして2ヶ月間運用していく中で、もっとこのプロジェクトにきちんと向き合いたいし大きく育てたい。そう思ったんです。

加えて、今は本に特化しているけれど、もう少しレイヤーをあげて、「ことば」にフォーカスすることで、より多様性が伝えられるのではないか、これまで大事にしてきた価値観を反映できるコンテンツになるのではないかと、直感的に思ったんです。

どんなに小さな掘っ立て小屋でも、ことばを大切にする場を1つ作りたかった

色んな人から聞かれます。「どうして法人なの? 個人事業だっていいじゃない?」って。

私がやっているLGBTの発信活動も「ことばの診療所」も、個人としてできる活動です。正直、収益化できるかわからない。法人税もかかるし、実際の商品がなく、先行しているビジネスモデルも殆どないからこそ、どうなるかわからない。彼女さんにも堅実じゃないって怒られます。

でも、どんなに小さな掘っ立て小屋でも、ちゃんと看板を出して、ことばを大切にする場を1つ作りたかったんです。

「ありがとう」「おはよう」そういった些細なことばを大切にする場所。そしてことばを通じて、人と人の心のハードルを下げて多様性を進めていきたい。

これが根幹にありました。

だからこそ、定款の目的に「当法人は、ことばを通じて、個人が性別・年齢・国籍・性的指向・性自認及び家庭環境などの属性でひとくくりに評価されることなく、一人一人の独自性を尊重し合い共存できる社会を作ることを目的とする。」といれています。

つくづく法人作りって出産と同じだとかんじました。どんな子供に育ってほしいかと法人のビジョンは似ているし、どんな名前(法人名)を付けたらよりその子が輝けるか。気分は完全にお母さん。

ただ自分の子供ではあるものの、いろんな人に育ててもらって初めて可能性って広がります。私の目線では全く見えないものが、他の人から見えたりするわけです。

それを無視しては完全なる親バカ。子供がグレてさまよってしまう可能性大です。だからこそ、法人化するときに芯を改めて組み立てましたが、それまでのサイト運用だったり、処方箋やコラムを書くのは色んな人にお願いしたりしています。みんなが育ての親なんです。

「自分の気持ちを伝えること」を大切にしたい

さて、なぜことばにこだわっているのか。

私は、レズビアンだとカミングアウトすることによって、ことばの大切さを痛感してきました。

大学時代にスピーチをしたことから始まり、まずは実際に存在していて、意外と普通の生活を送っているというのをリアルタイムで伝えたかったので、「こんな感じで彼女と付き合っています」「きょうのニュースに対してこう感じています」など、ブログを毎日連続投稿することに挑戦していました。(無事300日投稿達成)

※長くなるのでどんな感じで生きてきたかは、こちらのコラムで。

そして自己紹介の時にセクシュアリティを名乗るたびに、周囲からは「初めてLGBTに出会った」「意外と変わらないんだね」「実は私も(違うマイノリティ)なの…」などと、様々な反応がありました。

いずれも私が伝えたことではじめて返ってきた反応。あとカミングアウトすると、「どう困っているの?」「男になりたいの?」って矢継ぎ早に質問が飛んできます。

その時に自分の感情や、どういう状態なのか(性的指向、性自認など)を客観的にわかり易い言葉で表現しないと「よくわからないもの」と棚に上げられてしまうことも。

「この前出会ったゲイと同じ感じだな」なんてLGBTを一括りにして話を聞いてもらえないこともありました。(実際はレズビアンとゲイ一つとっても困っていること全然違うんですけどね)

もしくは「レズ」と連呼されるので『当事者の中にも様々な意見がありますが、私は『レズビアン』と呼んでほしい派です」って話したり(「レズ」はAVなどで使用される等あまりにマイナスなイメージがあるので。)

こういった経験を繰り返すことで、まずは自分の気持ちを伝えることを大切にしたいと感じたのがきっかけです。

LGBTを切り口に多様性を伝えたい

別にLGBTの権利だけを望んでいる訳ではありません。

同じ日本に暮らしていても、考え方やバックグラウンドはそれぞれ違います。性的指向、性自認だけでなく、家庭環境や病気、生き方によって困難を感じている人もいます。

ただ自分と相手が違うこと、一人ひとりが違うことは、考えや価値観をまず言葉にしないと相手に届きにくい。特に日本では「みんな一緒」が根強いため、「違う人がいる」という前提すら持っていない人もいます。

目についた差異に対して「おかしい」と捉えてしまい、イジメやハラスメントにもつながる。SNSで言っていたから、なんか偉そうな人が言っているから、親にこう言われているから、間違いない。そう鵜呑みにして動く人も増えてきてしまいました。

だからこそ、片/両親がいないことでイジメられてしまう子がまだいますし、障がい者への不理解も多々残っている。最近では「男が子育てをするのはおかしい」という価値観の押しつけから、育児を頑張ろうとしたお父さんに対して「お前の子供は1円にもならない」と暴言をはかれるパタハラ(育児をするお父さんへのハラスメント)まで顕在化してしまっているんです。もう少し身近なところでは、女性の生き方だって20代後半で結婚するのが当然、子育てが女の幸せという”常識”はまだ根強いですよね。

LGBTを切り口に多様性を伝えることで、ほかの人にとっても生きやすい環境につながる。「ダイバーシティ」は決して”変わり者”のための施策ではなく、みんなのためになると思っています。そうやって、自分や他の人たちが感じていることを1つずつ言葉にしていくことで、実は様々な生き方があるのではないかと視野が広がり、将来的にそれぞれが生きやすい社会になればいいと願っています。

「ありがとう」を大切にしたい

そして「ありがとう」「おはよう」を挙げた理由について。

いまここにいるよ、と自分なりのことばをもって生きづらさを伝えようとした時に、一方的に「私をわかって!」と言っても、受け入れられることは稀です。なぜなら、よくわからないものは怖いから。

とりわけマイノリティに対しては、その感覚が顕著になります。「マイノリティがいる」と思った瞬間に、心のシャッターが下りて対話を拒絶してしまう人もいます。

最初手探りでカミングアウトしていたときには、「あー、変わっているんだね」とそのまま話を流されたことも。(私の言い方も下手だったんですが)こんな状態で困っていることだけを言い続けても聞いてもらえません。

そのため、まずは心の準備をしてもらう。「よくわからないものではないんだ」と感じてもらう。その方法の1つが挨拶と感謝の「ありがとう」のことばです。

私は、仕事で営業をしたとき、自分のことを話すとき、まずはしっかりと挨拶をしています。基本中の基本ですが、不思議とコミュニケーションがとりやすくなるんです。最初はにこりともしなかった強面のおじさんが、挨拶をし続けることでにっこりしてくれたり「最近どう?」と少し気を許してくれます。

挨拶も感謝も、相手の存在を認めてはじめて使うものです。第一歩として相手のことを大切にする。そして信頼してもらってから自分のことを話す。マイノリティか否かに関わらず、人には丁寧に接するのが多様性を認める社会への近道だと考えています。

「ことば」を追い風にして前へ進もう!

新しいことを始めたり、チャレンジングな生き方を選ぶのは、一人だけでは難しいこと。道半ばで不安に足がすくむこともあるでしょう。そのときに背中を後押ししてくれるのが「ことば」です。

私の場合は、思い切ってカミングアウトしたことで、「村田は村田だよ。付き合い方は変わらないよ」と励まされました。セクシュアリティに限らず高校/大学進学時、遥か遠い目標であっても「きみならできる」と言ってもらえたことが成功体験につながっています。今回法人化するときもだいぶ周りから後押しをしてもらいました。

たとえ前例がなくても、誰かから励まされたことで「チャレンジしてみよう!」という前向きな気持ちになり、勇気が出てくるんです。それぞれが一歩を踏み出せば今よりもっと生きやすい社会につながる。そう信じてことばを大切にしています。

ことばにするトレーニングをしよう

誰しも自分の考えや感情を端的に伝えるのは難しいことです。嬉しい、楽しいなど喜怒哀楽を感じても、なぜそう感じたのか理由まで話せる人は少ないです。そのため当法人では、自分と向き合うトレーニングとして処方箋作成を位置付けています。

“自分なりのことば”を持つための一歩。

この自分なりの理由をしっかりつかまないと、例え生きづらさを感じていても結果「みんながいいと言っているから」「なんとなく…」と流されてしまいます。自分がどんな判断軸でこれまで生きてきたのか。どんな時に感情が動いたのか。すぐに言えるほうが、きっといいはず。

一気に人生を振り返るのは大変なので、これまで読んだ本を元に、どんなフレーズが心に残っているのか、なぜそう感じたのか、をまずはことばにする。そうやって徐々にアウトプットに慣れていくためのワークショップ「ことばの処方箋ワーク」です。

実際に処方箋を書くことで自分の気持ちを捕まえるトレーニングです。

◆心に残ったフレーズ(200文字以内)

→読む中で一番心に残ったことばはどれでしたか?

面白かった、なるほどと思った、なんとなく好きと感じたなど気持ちに向き合って書き出してみましょう。

◆こんな症状でお困りの方(140文字以内)

→その心に残ったフレーズはどんな人に効きそうですか?

この本を読みながら自分が何を感じたのか、自分の感覚を言語化。さらに紹介したい相手をイメージして具体化してみましょう。

◆飲むとどうなるか/何が得られるか(140文字以内)

→そのフレーズを知った後どんな気持ちになりましたか?またどんな思いつきがあったでしょうか。

どう変わったのか、 読書前/後の自分に向き合ってみましょう。

◆どうしてこの薬を飲んだのか(140文字以内/任意記入)

→なにかきっかけがあればそれを思い出してみて下さい。

本を読むことは、少しエネルギーが必要です。どうしてわざわざ読もうと思ったのか自分の判断/行動軸を言語化してみます。

◆飲み方のコツ(140文字以内)

→あっさり読めましたか?それともゆっくり読みましたか?

どういう風に読み終わったか、読書体験を振り返って次の人に読み方を提案してみましょう。

◆処方箋の裏側(文字数フリー)

私が一番好きな項目です(笑)。「裏側」なので処方項目に縛られず、取り上げた本について思いの丈を自由に書いてください。

こうやってゆっくりと、でも確実に自分のことばにしていくことを目指しています。

「ことばの診療所」の今後

今後の展望は大きく3つ考えています。

◆LGBTについての発信

引き続き「LGBT」という言葉の意味から、当事者が困っていること、カミングアウトを受けた時の対応方法などセミナーや講演を続けていきます。どうも「多様性」という言葉を聞くだけで身構えたり、派手過ぎて対応しづらいと感じている方が多いので、そこまで難しくないし、LGBT当事者の中にも多様性があって派手な人ばかりでもないよというお話をしています。

今知っておきたいLGBT ~実は身近にある多様性~
※直近では6/10(土)10:00~,6/21(水)13:00~に開催予定です。

◆「ことばの処方箋ワーク」「響ことば探し」の継続実施

ワークショップを続けていって、自分のことば/気持ちに向き合える人が増えることが当面の目的です。 「響ことば」の方はちょっと実験的にパソコンでのフレーズ書き出しもOKにしています。

「響ことば探し ~心に響くフレーズを書き出し、価値観を再発見~」

「ことばの処方箋ワーク」
※現在日程を調整中です。またHPで告知します。

◆サイト「ことばの診療所」に処方箋をもっと掲載すること。

4月に処方箋を50枚掲載し、次なる通過点として2017年内に100枚を目指しています。これまで書いてきてもらった方だけでなくて、より多様なバックグラウンドの人が違う角度で処方したら楽しいだろうなと考えています。


さて冒頭で法人を子供と表現しましたが、これはもう1つ意味があって。

今の時代「少子化対策」と位置付け「女の幸せは結婚/出産」とことさらに出産を奨励していますが、その枠組みに入らない人は絶対います。LGBTもそうですし、不妊症の人もいる。家庭環境や暴力などから男性が苦手な女性もいます。私も子供を産む予定はありません。

では「そんな存在は少子化に繋がる、不毛だ。」で終わってしまうのでしょうか。そうではなくて視点を変えて。産まないでも少子化対策に貢献できると思っています。


たとえば、いじめを減らすこと。

学校でのいじめの件数は昨年約22万件あると言われています。しかも、いつどこで被害にあうかはわかりません。私自身イジメられた経験を振り返った時に、加害者の根底にあったのはフラストレーションだと感じています。

自分の居場所自体を見つけられないから、なんか息苦しいからとストレスのはけ口として「よくわからないもの」へふるう暴力。しかもターゲットにする理由ってなんでもよくて、転校してきたから、生意気だから、なんてこじつけばかり。そんな中で次の世代を産むのはかなり勇気が必要です。自分の子がイジメられたらどうしようと怖くなってしまいます。

みんなそれぞれが感じている「フツウ」が実はそんな当たり前ではない、と伝え続けることによって「よくわからないもの」が実はいっぱいいるんだと気付いて徐々にいじめが減ればいいなって。


たとえば、生き方の多様性を提案すること。

「女性が産み育てる」と一択になってしまったら息苦しくなるのは当たり前。もっとキャリアを積みたい女性は産むのをためらってしまいます。専業主婦もいるし、キャリアウーマンもいる。両親が揃っている家庭もあればシングルマザーもいる。

様々な生き方があることを知ることで、はじめて前向きな気持ちで自分なりの人生を選びとれます。(カップルによっては男性より女性の方がビジネスセンスあったりすることもありますしね。)

自分の生き方が広がることによって気持ちが楽になりますし、ほかの人の困っていることにも目を向けられます。

いろんな人がいていろんな考え方が有って、尊重/共存しあえて、初めて安心して働いたり子育てできると思っています。

だからこそ私は法人を作り、言葉を使って多様性を進めることで、これからのお母さんや子供たちが生きやすい社会づくりに貢献する。

これが私なりの少子化対策なんです。


ここまで思いつくままに書いてきました。こんなほやほやの法人です。私自身も読んで頂いてわかる通り(全く)言葉のプロではありません。でも逃げずに言葉と向き合っていきたい、そういう思いから法人名に「ことば」と入れました。

これから一歩ずつ、こつこつ踏み出していきますが、面白いなと少しでも興味を持っていただいたり、賛同していただけたらとてもうれしいです。どうぞよろしくお願いします。

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