「味方のフリをして、敵だったこともある。だから、本気で、味方になってやろうと思った」不登校の息子さんと5年間を歩んできた、斎藤益子さんの思い【受講生課題記事】

Takako Horikoshi
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30 min readOct 30, 2016

※こちらはsentence schoolの受講生が、課題として作成したインタビュー記事です

「私がムスコを一人の人として見た時、とっても素敵な人だと思う」

朗らかな笑顔で、そう語ってくれた一人のお母さんがいます。

彼女の名前は、斎藤益子さん。

Facebookのタイムラインに「明るい不登校のムスコ」と題して、息子さんである健太くん(仮名)のことを書き続けています。

彼女の文章には、健太くんの生き方を尊重する姿勢が一貫しています。

その強さと、「不登校のムスコ」さんをお持ちでありながら明るく話す益子さんに、私は心を打たれました。

同時に、「どうして明るく、一途に、不登校のお子さんのことを信じられるんだろう」という思いも、生まれてきました。

そこで今回、「とっても素敵な人だと思う」と言えるまで、益子さんと健太くんが一緒に歩いてきた不登校の5年間のお話を、聴かせてもらうことにしました。

「学校に行きたくない」を受け止めるまで

たかこ(聞き手):今日は益子さんが、健太くんが学校に行かなくなってから、どんな風に一緒に歩んでこられたのかを、色々と聞いていきたいと思います。健太くんが不登校になったきっかけから、教えてもらってもいいでしょうか?

益子さん:はい。健太が学校に行かなくなったのは、小学校1年生の時でした。保育園にいる時は学校に行くことをすごく楽しみにしていたんですよ。ただ、「小学校は合わないかもしれないなあ」と思ってましたね。

たかこ:どうしてですか?

益子さん:健太はすごく貴重面で、物事を全て理解しないと、納得して行動できない子なんです。ドッヂボールをやる時も、1回目はどんなことをするのか見て、2回目でルールを理解して、3回目で自分のポジションを見て、4回目でやっとみんなと一緒にやる。
だから、小学校の集団行動は難しいんじゃないかなって思っていたんです。

たかこ:実際に学校に行かなくなったのは、集団行動が苦手なことが原因だったんでしょうか。

益子さん:それもあると思うんだけど、当時父親がね、怒ると大きい声を出すことがあったの。健太はその声に敏感で、震えるくらいこわがっていて。
だからかな、小学校で先生が「廊下走るな!」とか「早く並べ!」って集会でこどもたちに言うと、その声がこわくて教室で落ち着けなかったみたいなんです。

たかこ:そっか・・・それは、他の子が感じる以上のこわさだったんだろうな。

益子さん:1年生の時の担任の先生にはそのことをお伝えしてたんですよ。その先生は私に「不安があったら、無理に教室にいなくても大丈夫なので、健太くんのペースで学校に慣らしていきましょう」と言ってくれましたね。

たかこ:わあ、心強いですね。

益子さん:でも、途中で担任の先生が変わってしまったんです。新しい担任の先生にも健太のことを説明したんですけど、その先生には「みんな状況は一緒なんですから、健太くんだけ特別扱いはできません」って言われてしまいました。

たかこ:そんな・・・先生の立場はわかるけど、お父さんのこともご説明しているのに、突き放されたような感覚になっちゃう。

益子さん:そうなんです。新しい担任の先生になってから、健太は「大きい声がこわい」って。自分の気持ちを学校の中で、どこに吐きだしたらいいのかわからなくなっちゃったみたいで。

たかこ:小学校1年生っていうと、まだ、自分の気持ちを言葉にすることも難しい時ですよね・・・。唯一の救いだった先生がいなくなってしまったのは、辛い・・・。

益子さん:当時、健太には防犯用の携帯電話を持たせていたんですけど、ある日ね、学校の階段裏から、「もう無理」って泣きながら電話をかけてきたこともあったんです。

たかこ:そんなに・・・本当に、限界だったんでしょうね。

益子さん:小学校に入学してから、健太は自分の気持ちの吐きだし口がなくなってしまったんですよね。だから、1年生の冬休みから親子向けのセミナーに参加していました。

たかこ:どんなセミナーですか?

益子さん:苦しい時に、ちゃんと言葉にして伝えられるようになるための、気持ちを整えるセミナーかな? 私も、当時は父親の怒鳴り声とかに悩んでいたので。

たかこ:受けてみて、健太くんかわりました?

益子さん:そうですね・・・「自分の心が苦しくなったら、嫌なものは嫌って言っていいんだよ」って、セミナーではずっと伝え続けてくれました。それを受けて健太が一番最初に言ったのが「学校に行きたくない」だったんです。

たかこ:学校に行きたくない、が、言いたくて、言えなかったことだったんだ・・・。

益子さん:やっと出せた言葉が、伝えたかった気持ちが、「学校に行きたくない」だったんだ…と思って。私は「そうだよね。わかったよ。行くの、やめようか」って健太に言いました。

「家で勉強、時々学校」生活の始まり

たかこ:健太くんが「学校に行きたくない」って言ってからは、どんな生活をしてたんですか?

益子さん:小学校には、行ける時は行くけど、基本は家にいるって感じですね。

たかこ:お、すごい! 登校することもあったんですね。

益子さん:4月に入学した時の担任の先生が冬くらいから戻ってきてくれて、カウンセラーの先生も「週1回、好きなことやりにきていいよ」って言ってくれていたんですよ。お二人とも女性だったから、健太も男性の先生よりかは安心できたのかな。健太が行ける時は、私も一緒に登校して、学校を探検したりしていました。

たかこ:先生方とは連絡はとっていたんですね。授業にも参加してたんですか?

益子さん:参加してません。勉強は、基本的に家でしていたんです。

たかこ:それって、健太くんが自分から?それとも、益子さんも当時は「勉強はさせないと」って思ってたんでしょうか。

益子さん:どっちもあったかな(笑)。でも、健太は勉強は好きだったんです。漢字の練習帳つくったり、辞典読んだり、教科書で算数の掛け算したりしてましたね~。

たかこ:自分からっていうのがすごい・・・!

益子さん:小学校1年生の時とかって、周りの子が「あいうえおを書けるようになるのが楽しい」って言ってる時期だったからなんじゃないかな。

たかこ:学校で授業を受けないことに対する、後ろめたさのようなものは、益子さんはなかったんですか?

益子さん:なかったかな。「家でなるべく一歩進んだ勉強をして、学校で答えあわせをしよう」っていうつもりだったんです。

たかこ:その考え方を持てるって、「学校で勉強しなきゃいけない」って考えにしばられてると難しいかなって思うんですけど、なんでですか?

益子さん:健太が週に1回学校に行って、授業を受けた時に、「家でママから教えてもらうやり方」と「学校で先生が教えてくれるやり方」が違うって、混乱しちゃったことがあったんです。

たかこ:久々に学校に行って授業を受けたら、同じことをしているのに、自分はママのやり方でやってるから、先生のやり方じゃなかったんだ、っていう混乱、でしょうか。

益子さん:そうそう。結局は、同じことをやってるんですけどね。健太は「ママのやり方で勉強してる自分は、先生のやり方はわからないんだ」って思いこんでいたみたいで。大泣きしたことがあったんです。

たかこ:健太くん、完璧主義というか、1つのことへのこだわりが、強いんですかね。

益子さん:そうなんですよ。だから、当時家にいる時間が長い状態で、学校の先生の授業をベースにしても、健太を混乱させることになってしまうと思ったんですよ。だから、後ろめたさとかはなくて、「家の勉強を、学校で答えあわせしようね」ってスタンスでいました。

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そして、小学校2年生の9月に家のご都合で新しい学校に転校した、健太くんと、益子さん。そこでは、なかなか理解が得られない難しさが待っていました。

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転校先で、不登校自体を否定されるように

たかこ:転校先の小学校では、健太くんどうでしたか?

益子さん:実は、転校先の今の学校では、健太も私もカウンセラーの先生方とは上手くいかなくて。不登校自体を否定するような感じに言われてしまったんです。

たかこ:不登校を、否定する・・・?

益子さん:転校したばかりの頃は、健太も頑張って通っていたんですけど、やっぱり段々と行けなくなってしまって。

たかこ:最初は健太くん、頑張って通ってたんですね。

益子さん:そうなんです。それで、転校先の担任の先生にお願いして、カウンセラーの先生とお話する機会をつくったんです。おじいちゃんの、年配の先生でした。

たかこ:前の小学校は女性のカウンセラーの方って言ってましたけど、今度は男性だったんですね。お父さんのこともあるし、益子さんも健太くんも、なじみやすくはなかったのかなあって思います。

益子さん:そうそう。担任の先生には、「そういえば、カウンセラーの先生男性ですけど、大丈夫ですよね?」って面談の当日に言われちゃって(笑)。でも、本当に直前だから仕方ないって思って、面談は受けることにしたんです。

たかこ:心の準備があんまりできてない状態での、初面談だったんですね。

益子さん:で、相談室入って、カウンセラーの先生に挨拶したんです。そしたら、カウンセラーの先生が健太に「君、何年生?」って聞いて。健太は「2年生」って答えて、「へえ~」って、そっけなく言われて。

たかこ:本当にそっけない…。

益子さん:で、その先生「君、何で学校行かないの?」って健太に聞いたんですよね。私、「いきなりそんなこと聞くの?」ってびっくりしちゃって。で、健太は聞かれても、言葉で上手く説明できる状態じゃないから、黙っちゃうわけです。

たかこ:なんかこう、準備も防御もはってない状態で、いきなり心の扉をこじ開けられた感じがします。

益子さん:うん。で、健太はずっと黙っているから、その先生、「もうすぐ11月でさ、12月、1月、2月、3月、5か月あるよね。君、5か月も学校に来ないつもりなの?こどものやることは、学校に行くことでしょ。今まで通用してたのかもしれないけど、世の中そんなに甘くないから。2年生だからって、自分の思い通りになると思ったら大間違いだよ」って、小学校2年生の健太に言ったんです。

たかこ:そんな・・・、いきなり責めるような言葉を…。

益子さん:健太は顔を背けてしまって。私もその時点で帰ればよかったんだけど、相談をしにきてるからちゃんと聞いてほしくて、カウンセラーの先生に伝えたんです。「前の学校みたいに、健太のペースで通えるようなサポートをしてもらえるとありがたいんですけど」って。でも、「お母さんが連れてくればいいだけでしょ。連れてきちゃえば、こどもたちは勝手に騒いでわからなくなる状態なのに、あなたがそれをしないで、何で学校に頼るんですか」って言われてしまって。

たかこ:益子さんの気持ち、その先生には全然届いていないように聞こえます。

益子さん:その後、校長先生に話をしたいと伝えたけれど、その日は会ってもらえなくて帰ることになりました。そしたら、健太は学校からばーって、走って逃げだしちゃいました。それからは、3年生の半ばになるまで、行かなかったです。

たかこ:その時まで、相談室にいるってことができた、健太くんがとてもすごいと思います。カウンセラーの先生の機嫌が良くなかったのか、あえてそうしたのかはわからないけど、益子さんにとっても、健太くんにとっても、心がきゅってなる苦しい時間だったんだろうなって感じます。前の学校から、引き継ぎとか情報共有はされてなかったんでしょうか。

益子さん:前の学校の先生には、転校先の校長先生と担任の先生に引き継ぎをやってもらっていたんです。「健太はこういう子で、こういう事情があるけれど、これはできます。これは、できません」っていうことを。それをしてもらった上で、転校の手続きをとっていました。でも、新しい学校の先生方には伝わっていなかったから、前の学校の先生に「あまり協力してもらえそうにないので、これからどうしていこうか、相談させてください」ってその日に電話をしました。

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転校先の小学校で、「健太のペースで学校と関わっていきたい」という思いを真っ向から否定されてしまった益子さん。健太くんは、再び家で学習する生活に戻ります。

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親としての責任を、果たしていないんじゃないか、と思っていた

たかこ:3年生の半ばまでは、また家で勉強する生活をしていたんでしょうか。

益子さん:それがね、3年生になった時に健太が勉強嫌になっちゃった時期があったんです。「私だから、勉強が嫌なのかな?」と思ったから、一時期家庭教師をつけたんですよ。

たかこ:家庭教師をつけるって、今までのお話聞いていると意外です。なんというか、「こうしなきゃ」って必死感を、今のお話からは感じます。

益子さん:私ね、「何もしてない」って感じちゃったんです。「健太のためって言って、学校に行かせていない。でも、家で私が一緒に勉強したり遊んでるんじゃ、親としての責任を果たしていないんじゃないか」って当時思ってたの。だから、その時は「家庭教師嫌なら、通信で勉強しなよ」とか「ドリルやりなよ」って言っちゃってました。

たかこ:益子さんも、そう感じられた時期があったんですね。健太くんには、家庭教師はどうでしたか?

益子さん:「家庭教師は嫌だ」って言われてね(笑)。よくよく聞いてみたら、健太は「ママと勉強したい」って言うんです。

たかこ:健太くんに「ママと勉強したい」って言われた時に、どう感じましたか?

益子さん:「ママと勉強したい」って言われた時に、「親と勉強したり遊ぶんじゃなくて、家庭教師をつける」っていうのは、私がやってきた「正しい」と思ったことであって、健太にとっての正しさじゃなかったんだって、気づいたんです。

「私は、自分が気が済むために、この子をコントロールしてたんだ」って気づいた時、「私の世界でこの子を生かしちゃいけない。この子の生きてる世界は、全く別物として考えなきゃいけないんだ」って思えて、そこから意識が変わりましたね。

健太は、一人の人として見なきゃいけない

たかこ:今は健太くんと益子さんは、お互いに一人の人として尊敬し合っているように見えます。このことがあったからかな?と思うんですけど、他になにかあったんでしょうか。

益子さん:私、もともとすごい心配性なんですよ。ちょうどね、3年生の時に、健太が一人でお留守番できるようになってきたんだけど、不安でしょうがなくて「大丈夫?」ってずっと言っていたんです。

でもその時も、健太が気づかせてくれたんですよ。「ママ、心配して『大丈夫?大丈夫?』って言うことは、僕のこと信頼していないことなんだよ。もう少し、信頼してくれてもいいんじゃない」って。

健太くん:そんなこと言ってないよ

益子さん:言いました~

健太くん:言ってないよ

たかこ:覚えてないのかな。笑

益子さん:もう(笑)。で、それまでは「健太は私の所有物」って思ってるところがあったんだと思います。でもそれからは、ちゃんと一人の人として見なきゃいけないんだなって思って。そう思うと、関係も変わってきました。親とか子どもとかに関係なく、悪いことしちゃったら「ごめんなさい」ってこどもに言うし。健太が見つけてきてくれることを、純粋に、一緒に楽しんだりしています。

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健太くんを一人の人として尊重する益子さんの眼差しは、学校に通っていない、家で過ごす当時の時間の中から生まれていました。お母さんとの関係が安定してきた健太くんは、小学校3年生から、意識が少しずつ学校に向き始めます。

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息子が先生にちょっとだけ、安心を持てた時

たかこ:お母さんと信頼関係を築けるって、すごく素敵です。健太くんの心が、家庭の中では安定してきたころなんじゃないかと思うんですけど、学校との関わりに何か変化はあったんでしょうか。

益子さん:今まで健太は、最初の小学校で担任の先生が変わったり、転校したり、1年間同じ先生に見てもらうことがなかったんです。でも、3年生になって、初めて担任の先生が変わることなく、1年間担当してくれる経験をしました。

たかこ:そっか、そうですね。健太くんにとっては、一つ大きなことかもしれない、って思います。

益子さん:3年生の2月にはやっと、「1年間同じ先生が担任してくれると、いつも同じ先生が連絡くれて、自分の話を聞いてくれるんだ」って理解できたみたいです。

たかこ:それは、大きな一歩ですね。誰かがちゃんと自分に耳を傾けてくれることは、安心感にもつながるし。

益子さん:なので、「来年も、できれば同じ先生にしてください」っていう要望は学校に伝えてみたんです。そしたら、幸運にも同じ先生が4年生でも担任になってくれました。でも、だからと言ってすぐに学校に行けるようになるわけじゃなく・・・健太の中では、学校に行きたいという気持ちと、行けないって気持ちが葛藤していたみたいです。

「学校に行きたい」と「学校に行けない」の葛藤で疲れていく息子

たかこ:4年生になってからの健太くんは、どうでしたか?

益子さん:実は、4年生の時はお金周り以外の連絡は、学校と全くしていなかったんです。「健太はどうしたい?」と聞いたら、「ママと一緒にいたい」って、言ったんですよね。だから、無理に行かせませんでした。

たかこ:「行きたい」と「行けない」で葛藤してて、疲れちゃったのかな。

益子さん:そうかもしれません。それまでは、運動会とか行事の連絡をしていたんですけど、そういうのも一切やめて健太と過ごしていました。そしたら、5年生になる前に、「5年生になったら、学校に行く!」って健太が言い始めて(笑)。

たかこ:なんて唐突な(笑)。自分で、決めて言ったのがすごいです。5年生の4月から行き始めたんですか?

益子さん:4月と5月は、週1くらいで頑張って通っていました。ただ、段々と、健太が疲れてきてしまって・・・。

たかこ:何かあったんですか?

益子さん:健太にとっては、学校に行くってものすごくエネルギーを振り絞って、頑張ってやっていることなんです。でも先生からしてみたら、めったに学校に来ない健太が来ているから、登校した日に色々やらせたかったみたいで。身体検査、スポーツテスト、教科のテストとか、色々やらせていたみたいなんですよ。

たかこ:休んでいる間にやっていなかったことで、学校としてはやらせないといけないことを、詰め込まれちゃったような感じだったんですね。先生の、「何とかして、クラスの子と一緒にしてあげたい」って気持ちもあるような気がします。

益子さん:その時は本当に、健太は学校行く度にぐったりして疲れ切っていて。夏休み前にはギブアップ状態でした。「明日は行くよ」と言うけれど、行けない日が続いていました。

たかこ:担任の先生に、相談されたりはしたんでしょうか。

益子さん:しなかったんです。ちょうど夏休み前に個人面談があったんだけど、この先生には伝わらないなってその時に思っちゃったんです。

たかこ:どうしてですか?

益子さん:健太がいる前でね、「健太くんは、嫌いな授業は受けてないけど、それは逃げてるんですよ」って言われてしまって。

たかこ:「行こう」って思っていても、行けなかったことは健太くんにとって苦しいことだと思うけど・・・それを、「逃げてる」って言われちゃったら、益子さんも、悔しい思いをされたんじゃないかと思います。

益子さん:そうなんです。この先生は、私が「健太の気持ちを尊重してください」って伝えても「健太くんは逃げてる」っていう認識でしかないんだな、って思いました。だから、健太を何かの枠に整えるように、学校に来た時に色々検査とかやらせるんだろうなって。私も、話す気持ちになれなくて。

たかこ:それは、話そうって気持ちには、ならないですよね・・・。夏休み明けてからは、健太くんどうでしたか?

益子さん:夏休み明けに健太は「行きたいけど、行けないんだ」って私に言いました。「どうしたの?」って聞くと、「気持ちが重い。なんか、疲れるんだよ」って。

たかこ:気持ちが重い・・・。

益子さん:健太には「無理しなくていいから、少し休んでれば?」と伝えました。その後9月の半ばに、校長先生と、副校長先生と、新しい専任の先生にお話させてもらう場をつくってもらいました。

益子さんも、健太くんも受け容れられたと感じた、専任の先生との出会い

たかこ:専任の先生というのは、新しく来た先生のことですか?

益子さん:もともと、5年生と6年生の担任をされていた先生なんですけど、その先生が専任になってくれたんです。その先生が担任だと、こどもたちから歓声があがるくらい人気の先生でした。

たかこ:本当に、人気の先生なんですね。

益子さん:私はあまり話したことなかったんですけど、健太とキャンプで一緒だったことを覚えていて、「あ、健太くんね。彼、とてもいい感性持ってますよね」と言ってくれたんです。「この先生は大丈夫そうだな」と思えたので、私も、伝えたんです。

「小学校1年・2年と全く学校に行けてなかったのに、今学校に来たからといって5年生の教科書を開かれても、できません。それくらいは、どんな人が考えたってできないって理解できることなのに。そういうことをさせるために、学校に行かせてるわけじゃなくて、今、私は、健太にとって学校って場所を安心できる場にしたいんです。この先生に話したら安心だって、思ってほしいんです。でも、今まではずっとそれができなくて、健太も私も苦しんでいて、どうしたらいいのか、わかりませんでした」って。

たかこ:益子さんにとって、ずっと言いたくて、言えなかったことですよね、きっと。

益子さん:そしたら、その専任の先生は、「健太くんに合わせていきましょう。空いてる時間は、健太くんは僕が見ます。それ以外の時間は、他の先生が見るようにして、先生全員が共通の認識の中で、健太くんを見ていきましょう」って言ってくださったんです。

たかこ:すごい、心強い。

益子さん:その次の日から、健太、すぐ学校いったよね。

健太くん:うん。

益子さん:他の先生に見てもらった時は、5年生の教科書やプリントを目の前に出されたりしたこともあったけど、専任の先生は誠実に対応してくれたんです。「僕がいなかった時に、教科書を出したことを把握していなくて、申し訳なかったです。僕も、学校を健太くんが来たいと思える場所にしたいと思っているので、再度、他の教員と話し合います」って。

たかこ:益子さんも、健太くんも、安心できますね。健太くんは、その先生に対してはどんな感じでしたか?

益子さん:その先生は健太に興味を持って接してくれるので、健太もそれが嬉しいのか、「行ってくる!」って言って週に2回くらい学校に行くようになりました。その先生に会いたくて。新しい何かを見つければ、それを知らせたくて。

たかこ:すごい!健太くんが、やっと巡り会えた、学校の中の安心できる存在みたいに感じます。

益子さん:健太は好きなことにはとことんハマる子なので、仮面ライダーが好きだと俳優さんの話とか脚本の話とかマニアックなこと話すんですよ。先生は、それを一緒に聞いてくれて、遊んでくれるんです。

たかこ:その先生は、どんなふうに、健太くんと関わっているんですか?言葉がけとか。

益子さん:「健太、先生が悪役やるから、仮面ライダーやってよ!!」って、まず先生が遊びモードに入ってくれるんですよね。そうすると健太も、「仕方ないなあ」とか、少し照れながら、その先生と仮面ライダーごっこをしたりしています(笑)。

たかこ:先生が最初にやってくれるから、やりやすいんでしょうね(笑)。

益子さん:本当、そうだと思います。健太はずっと、警戒心の中で生きてきたけど、一緒に楽しんでくれる人ができてから、ちょっとずつ、ちょっとずつ、変わっていったんです。

たかこ:健太くんにとっても、益子さんにとっても、大きな出会いだったんですね。

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5年生になって、専任の先生との出会いで学校の中に「安心できる存在」を見つけた健太くんと、益子さん。そんな健太くんも、今は6年生。今の健太君は、学校についてどう感じているのかを、聞いてみました。

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今はもう、「学校休みなの、嫌だ」と言えるまでに

たかこ:健太くん、今はどれくらい学校に行ってるの?

健太くん:週4くらい

たかこ:すごい。ほとんど毎日じゃん。

益子さん:朝起きて、自分でいけるように、ようやくなってきたんです。たかこ:6年生になってから、担任の先生は変わられたんですか?

益子さん:変わりましたね。でも、今の担任の先生は、専任の先生と健太の関わりを見ていたり、話しを聞いていたみたいで。

たかこ:見てくださってたなら、比較的理解はあるのかなあ・・・。

益子さん:先生の中で、健太に対する意識が変わったみたいです。この間の個人面談の時に、「健太くんはもっと問題を起こす子だと思っていたけど、良い意味での、予想外のお子さんでした。なんだかんだ、小学校のクラスはみんな一緒が良いって思っていたんですけど、そうじゃないんだなって学びました。不登校って、ちゃんとわかっていなかったんだと思います、わたし」って言ってくださったんですよね。

たかこ:すごい。人の認識を変えるって、なかなかできないです。

益子さん:健太は日本史が大好きで、日本史の授業はテスト受けてるんです。そのテストも字を間違えて×だっただけで、それ以外は全部〇だったんです。不登校だからって何も興味もやる気もないわけじゃなくて、興味のあること、好きなことには全力だってことを、今の担任の先生は理解してくれたみたいですね。

たかこ:健太くんをきっかけに、先生の不登校に対する印象や、こどもへの眼差しが優しくなっている気がします。なんだか、嬉しいですね。

益子さん:健太も、今では教室で給食を食べられるようにもなりました。

たかこ:すごい!!・・・健太くん、学校いる時、楽しいって思うことある?

健太くん:教室にいる時が楽しい。休み時間とか。

たかこ:そっか。それもすごいなあ。・・・もう、「学校行きたくない」って思うことは、あんまりないのかな。今でも、あったりするのかな。

健太くん:あんまりない。

益子さん:この間、夏休み入った時に、初めて、「学校休みなの、嫌だ」って言ったんですよ。6年生になって、やっと、やっと、学校が楽しいって思えるようになったみたいです。

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健太くんは、初対面の私がたずねることに、一つひとつ言葉を返してくれました。

「教室にいる時が楽しい。休み時間とか。」と言葉にしたときの健太くんは、なんだか気恥ずかしそうでした。でも、頭の中では友達を思い浮かべているかのように、楽しそうな表情だったのがとても印象に残っています。

一時は、「もう無理」と泣きながらお母さんに電話をかけるほどの「学校に行けない」状態を経験していた健太くんが、「学校が楽しい」という感覚を知ることができたこと。これは、とても大きなことだと思うんです。

私は健太くんが言う「学校が楽しい」には、そういえるようになるまでの色んな思いや経験が詰まっているんだと感じました。

今は健太くんは、「不登校」とはいえないくらいに学校になじめているのかもしれません。不登校だったときのことが、嘘のように感じられる瞬間も、今はあるのかもしれません。

最後に益子さんに、「学校に行きたくない」から始まった不登校の5年間を振り返っていただきました。

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健太には、5年間という時間が必要だった

たかこ:健太くん今はもう、ほとんど毎日学校に通えるようになっていて、友達もいて、大好きな日本史にも出会えて・・・。小学校1年生の「学校に行きたくない」といったときから、とても大きく成長しているように感じます。健太くんとの5年間を思い返してみて、益子さんはどんなこと感じますか。

益子さん:もっと健太の声を素直に聴いてあげられたら、不登校期間は短かったのかもしれないなって思います。

たかこ:素直に・・・、聴く?

益子さん:「勉強が嫌だ」「学校が嫌だ」って、大人だったら「こういう理由で嫌だから、行きたくない」って説明できますよね。でも、こどもは、特に健太の場合は小学校1年生で小さかったから、伝えたくても言葉が足りなくて、言葉にできなかったんですよね。それを、私がどこまでくみ取れていたかなって振り返ると、あまりできていない時もあって。

たかこ:くみ取れていなかった・・・って感じたことも、あったんでしょうか。

益子さん:健太が「ママと一緒にいたい」って短い言葉で伝えてくれた時、「何でそう思うようになったの?」って、すぐに理由を求めてしまったこともありました

たかこ:一旦受け容れる、というよりも、「何で?」「何で?」と焦ってしまう、ということでしょうか。

益子さん:そうです。健太には今の状況をどうにか解決したい気持ちはあった。でもすぐにできるわけじゃなくって、必死で、必死の思いを言葉にしてくれていたんです。私は頭では、理由を話してくれるまでに時間がかかることを理解しているはずなのに、答えを求めてしまっていました・・・。それが、なかったら、もう少し不登校期間は短かったのかもしれません。

たかこ:・・・5年間という時間は、長かったんでしょうか。

益子さん:どうかな。長い、短いというより、必要な時間でした。自分で気持ちを言葉にできるようになってきて、それを態度で表して、周りの人に伝えらえるようになるのに、健太には、5年間が必要だったんだと思っています。

色んな人に出会って、色んな世界を知って、欲張りに生きてほしい

たかこ:これからも、中学、高校って、学校と呼ばれる場所に通うことは続いていくと思います。益子さんは、「また不登校になるんじゃないか」という不安をお持ちだったり、何か思うことはありますか。

益子さん:考えることはあります。でも、学校に行くことを選ぶのは、健太なので。私は、今の専任の先生に、進学する中学校に健太の引き継ぎをしてもらって、その話を聞いた中学校がどう動くのかにしか興味がないです。それで、その環境にいられないのであればまた考えるし、友達といたいならそこにいてくれればいいし、どこに行くかは健太が決めることだと思ってます。

たかこ:かっこいい…。「どこに行くかは健太が決める」って、学校以外の場所であっても、という意味が含まれているように感じました。

益子さん:学校以外の場所も、もちろん入ってます。さっき、健太は日本史が好きって話したんですけど、この間考古学の専攻をされている方と出会って一緒に遺跡巡りをさせてもらったりしたんです。学校って場所以外にいる人と、健太が自分でメールのやりとりをして、実現させていったことなんです。

たかこ:すごい、すごいよ、健太くん。

益子さん:まだまだ、こどもだけれど、大人の中で「知るってこういうことなんだな」「学校だけじゃないんだな」「仕事って色々あるんだな」ってことを、今の健太にはたくさん感じてほしいと思っています。

色んな人に会って、色んな世界を知って、欲張りに生きてほしい。やりたいことも、好きなことも決めれば、それに必要なものはきっとこの子には集まってくるから、私は、そのきっかけをしっかりキャッチしよう、っていう気持ちでいます。

これまで、味方でいるフリをして、敵だったこともあったんです。だから、本気で味方になってやろうって、思ってるんです。

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「味方でいるフリをして、敵だったこともあったんです。だから、本気で味方になってやろうって、思ってるんです。」

益子さんは最後に、力強く優しい口調で、そう私に語ってくれました。

5年間の中で気づき、育んだ「言葉を素直に受け入れる勇気」と「本気で味方になる覚悟」が、益子さんの健太くんに対する尊重の根源にある、と思いました。

それは、学校の先生方にも少しずつ伝わって、今の健太くんは「一人ひとりの育みを尊重する大人」の中で生きているように感じました。

私が、今回の益子さんと健太くんのお話を聞いて、また、これまでの教育NPOや不登校に関する活動を通じて、感じたことがあります。

意識をしていないと、人は、はやく、はやく、と答えを求めがちになってしまうことがあります。特に、すぐに答えや言葉を出せないこどもに対して、大人が焦ってしまうことは、少なくないと思うのです。そんな時は、もしかすると、「味方でいるフリをして、敵」になってしまっているのかもしれません。

でも、その答えが言えないから、こどもたちは他の方法で「助けてほしい」と、ちゃんと伝えてくれている。

それを受け止めることなく、答えを求めるのって、違う。今出してくれているサインを正面から受け容れること、その勇気を持つことが、大事なんだなと、改めて感じました。

私も、益子さんのように、「本気で味方になる」という強い意思と、言葉を素直に受け入れる勇気を持って、これからもこどもたちと関わっていきたいです。

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長いインタビュー記事、読んでくださりありがとうございます。皆さんはどう感じられたでしょうか。

こどもへの接し方に、正解はないと思っています。でも、「こんな関係を築いていけたら、いんじゃないかな」ってかかわりは、確かにあると私は思うんです。

私にとって、益子さんの、健太くんに対する関わりはまさにそうでした。

「私以外の誰かにとっても、きっと救いになる」と確信して綴った益子さんの言葉。

皆さんにもちゃんと届いているといいなと心より願っています。

とても大切なお話を語ってくださった、益子さんと健太くん。

改めて、お礼申し上げます。本当にありがとうございました。

これからも、よろしくお願いします^^*

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