「どんなライターでも、ライターである限り、“読まれたい”という気持ちは一緒じゃないですか」――カツセマサヒコ × 朽木誠一郎が語る「ライター事情」イベントレポ #どうでもいい二人

Takeshi Nishiyama
sentence
Published in
17 min readMar 28, 2017

ライターって、何なんですかね。

定義が広すぎて、人によってとらえ方が違うというか。ライターと作家の違いとか、直近でも話題になっていたり。

そんな中で、先輩売れっ子ライターのお二方が「ライターって何なの?」的なトークイベントをやられる、ということで。

(アイフォンで撮ってます、画質の悪さはご容赦ください…)

拝聴しに行かない理由がありません(チケットも飛ぶように売れたのだとか)。

それが、今日でした。ので、(あくまで個人的に)イベントの様子と、感想などを備忘録として、まとめておきたいと思います。

“カツセマサヒコ”、“朽木誠一郎”って、何者?

まずは、今回登壇されるお二人のプロフィールを。

カツセマサヒコさんは、プレスラボという編集プロダクションに所属しているライター・編集者さんです。

“カツセマサヒコ:編集プロダクション・プレスラボ所属のライター/編集者。1986年生まれ。7万5000人を超えるTwitterフォロワーへの発信力を活かして、記事広告やコラム、エッセイ等を執筆中。趣味はスマホの充電。”(イベントページより)

カツセさんは「タイムラインの王子様」という通り名で一世を風靡している、敏腕ツイッタラーさんでもあります(※真面目なお仕事もたくさんされています)。

朽木さんも、同じく編プロに所属しているライター・編集者さん(4月からは報道機関に転職されるとのこと)。

“朽木誠一郎:編集プロダクション・ノオト所属のライター/編集者。1986年生まれ。『Mac Fan』で「医療とApple」連載中。紙媒体は『プレジデント』『WIRED』などで執筆。ウェブ媒体は『現代ビジネス』『Yahoo!ニュース個人』などで執筆。趣味は大盛りとお代わり。”(イベントページより)

朽木さんのポートフォリオは、以下にまとめられています(このまとめ方、ライターさんは参考になるかも)。

「これからの“××ライター”と“○○ライター”の話をしよう」

今回のイベントのタイトルは【「実際どうなの?」~××ライターと、○○ライター】。

この××と○○に何が入るのか…という種明かしから、イベントはスタートしました。

その答えは「××ライター=読モライター」で、「○○ライター=職人ライター”」。

今年に入って、編集・ライター業界ではこの「読モライター」という言葉が、話題になったことがありました。きっかけは以下の記事。

また、直近では「ライター」と「作家」の違いが取り上げられたりもしていました。

いろいろと議論を巻き起こした上記の問題に対して、カツセさんが「読モライター」寄りの立場、朽木さんが「職人ライター」よりの立場から、ラフに明るい話をしよう。お互い、傷つけ合うことなく――というのが、今回のイベントの趣旨。

おふたりは両方のタイプのお仕事をこなされているのですが、今回は便宜上、テーマわかりやすくするために、一旦立場を分けて話される……ということでした。

朽木:さっき、カツセくんが電話取材をしてたんですけど、めちゃくちゃサラリーマンっぽい、ちゃんとした受け答えをしていて(笑)。いや、いつもそうなんですよ、彼は。アウトプットの見え方がポップなだけで、取材のフロー自体は、職人的な仕事と変わらなかったりする。一概には言えませんが、本質的にやっていることは、同じじゃないかなと。

カツセ:両方できるけれども、あえて“読モライター”的な仕事、“職人ライター”的な仕事を選んでいるのには、やっぱり理由があるんですよね。今日は、そのあたりの背景の話もできたらいいなと思っています。

~~

そんな冒頭の種明かしから始まった、今回のイベント。

トークの前半では、お二人が考える「職人ライター」「読モライター」それぞれのメリットを語っていただけました。以下、セリフ部分と僕のサマリー部分が混同しちゃってて恐縮ですが、簡単なログです。参考まで。

朽木さんの考える「職人ライター」6つのメリット

①ちゃんとした人だと思ってもらえる

朽木:まずは自意識の話。将来、子どもができたときに、胸張って仕事の話をしたいから。別に、カツセくんのことバカにしてるわけじゃないですよ!(笑)

カツセ:いいよ、子どもに見られたくない仕事、あるもん(笑)

朽木:真面目なテーマを追っていると、取材対象の方が自分のことを調べた時に「まともな人」だと思ってもらえることも大事だったりします。事前に調べられた時のファーストインプレッションで、インタビューがしにくくなったり、逆にしやすくなることもあるので。

②(若手は)意外と競合が少ない

ハードで文化的な内容は、識者と話すのにもある程度の知識が必要なため、書ける人が限られている。一貫したテーマで深堀りしていくためには、職人ライター的な見せ方をしておいた方が、立ち回りやすい。

③すごい編集者さんに出会える

朽木:すごい人に出会えることで、仕事の質が上がる。僕は、今の会社の宮脇に出会えたことで、本当に成長できた。そういう縁は、職人ライターの方が得られやすいかも。

④基礎力が身につく

朽木:「ダサい服を着ている人理論」と呼んでいるものがあって。ダサい服を着ている人は、自分が着ている服をダサいと思っていない。で、「あなたの服、ダサいよね」と指摘すると、ちょっとムッとしたりする。基礎力のない状態って、まさにコレと同じなんじゃないかと。自分も以前は、まさにこの状態でした。職人的な仕事をしっかりこなしていけば、最低限のスキルやリテラシーは養えるはず。

⑤自分のテーマが定まる

②の話とちょっと近い文脈。テーマ性を持ちやすく、それを周りにアピールしやすいから、自分の興味範囲/深堀りしたい領域の仕事が集まりやすくなる。

⑥目立とうとしなくてよくなる

朽木:「自己顕示欲問題」ですよね。職人的な記事の仕事では、「なんとかしてバズらせよう」ということを考えなくて済む場合が多い。昔は、自分が目立つことがメディアの成長につながると思って、アピールしなきゃと焦っていた。でも、それは本質的じゃないなと、今振り返って思います。

カツセさんの考える、読モライター6つのメリット

①オーダーよりもオファーが多い

カツセ:完全に企画が固まった状態じゃなくて、「さあ、カツセさん、何をしましょうか」って仕事の振られ方が多い。いや、ちょっとは考えてきてくださいよ、って思うこともあるけど(笑)。それは「僕を信頼して任せてくれている」ということ。嬉しいし、やりがいがある。

朽木:ある意味では、読モライターは背負うことが多いのかも。“ライター”でありながら、企画の切り口から考える“編集者”的な視点も求められるから。

②新規メディア立ち上げに携わることが多い

カツセ:ローンチし立てのサイトは、メディアに影響力がない。だから、取材対象や書き手に影響力を求めることが多い。なので、新しいメディアからの依頼が、すごく多いです。

朽木:インフルエンサー仕事、と呼ばれるヤツですよね。職人ライターは、こういう「自分の影響力をマーケティング的に捉える仕事」はしにくい。自分が発信する情報の公平性でもって、読者やクライアントの信頼を得ていることが多いので。

③予算が大きい(気がする)

読モライターのポジションは、記事広告の依頼が多い。なぜなら、記事広告は「確実にバズを生み出して多くの読者にリーチしたい≒フォロワーの多い人に仕事をお願いしたい」という、クライアント側の意向が強く出るから。そして広告だと、予算の出方が違う。

④アサインや企画の幅が広い

できる企画の幅が広い。フォロワーにいろんなタイプの方がいる。影響力を活用して、さまざまな企画を実現できる。下記の記事の取材対象は、Twitterで募集して見つかって、すごくいい企画になったと。

⑤リアクションが得られやすい

リアクションが多いと、その原稿について「どれくらい否があって、どれくらいの賛があるのか」、判断しやすい。だから「自分のフォロワー/読者に届きやすい記事」を作るためのPDCAを回しやすい。結果、ファンも増える。

⑥仕事の幅が広がりやすい

職人ライターは「堅実に狭く深く」、読モライターは「手っ取り早く広く」広がるイメージ。自分の興味範囲の仕事ばかりじゃないから、思わぬ出会いもある。それが面白い。

肩書なんてどうでもいい、自分がなりたい自分になれ

後半はフリートーク気味に、以下のテーマについて、ざっくりとディスカッションする時間に。

<後半トークテーマ>
・つまるところ、実際どうなの?
・肩書どうする問題
・個性ってなんだろう?
・ふたりの不安なこと
・賞味期限ってあるのかな
・ずっとこれ続けるの?
・本、出すでしょ?

(リアルタイムログのため)全部は到底追いきれなかったので、刺さったフレーズをいくつか、断片的に紹介させてください。

===

カツセ:いい記事書いて、自分の作っているコンテンツに自負を持っていれば、肩書なんて何でもいいと思うんです。シンプルに、「いいものは広めたい」じゃないですか。

朽木:根本的に、読者は書き手が「読モライターなのか、職人ライターなのか」なんて、どうでもいいはずなんですよね。気にしているのは、おそらく書き手の側だけで。

カツセ:ホントに、このイベントで一番伝えたかったのは「肩書なんてどうでもいいだろ」ってことなんです。

===

カツセ:ライターのいいところは、書くことで次のステップが見えてくること。自分で自分の道を決めて、切り拓いていける。だから、僕はこの仕事が好きです。3年後には、全然違う仕事をしているかも。

朽木:問題なのは、「どういうタイプのライターになりたい」ということじゃなくて。単純に「自分がどうありたいか」だと思っているんです。やりたいことを、やりたい方向で突き詰めていけばいい。「読モライター」とか「職人ライター」とかくくってしまって、可能性を限定してしまうのはもったいないこと。

===

上記のあたりが「今回のイベントで最低限、皆さんに伝えたかったことです」と語ったおふたり。超共感です。

「媒体によって書き分ける」「影響力を持つ」――そのすべてが評価されるべき個性

また、個性についての言及も印象的でした。

===

朽木:「読モライター/職人ライター」って、その人のタイプの問題もあるけれども、「書き分けの問題」でもある。 一線で活躍している書き手の方だったら、媒体のトンマナに合わせて、どっちの書き方もできるんです。
「明確なテーマを持つこと」も個性だし、「ある一定の書き味でブランディングすること」も、「媒体によって自在にアウトプットを変化できること」も個性。人の個性を気にしなくて大丈夫。それぞれの個性を買って、起用してくれる方々がいるから。

カツセ:影響力で仕事に強みを持たせようとするなら、難しくないと思っていて。「○○が好き」「○○が得意」ということを、徹底的に突き詰めて発信していけば、それが“個性”として認識されて、仕事につながるかもしれない。そういう可能性を伸ばせるのが、WebやSNSのメリットだと思います。

朽木:雑誌での仕事で、編集者に「“私はこう思う”という主張を『私はこう思う』と直接的に表現せずに書くことが技術だよ」とアドバイスをもらったことがあって。そういうスキルというか、個性もあるのだなと。紙とかWebとか区切らずに、いろいろな媒体で仕事をやると、自分の世界は広がります。

カツセ:バズフィードの嘉島さんのタイトルワーク、本当に個性的だなと感じてて。あの人のテクストはエモさが滲み出ていて、すぐ分かるんです(笑)。でも、記事に顔出ししているわけじゃない。個性の出し方って、本当に人それぞれだと思うんですよ。

===

いわゆる“読モライター”として認識されることの多いカツセさんは「今回のイベントのために、今日まで諸問題についての言及をしないできた」と語っていました。モノ申したいことがたくさんあった、と。その熱量がひしと伝わってきたのが、以下のフレーズです。

===

カツセ:根本にある「読まれたい」という気持ち――これは、読モとか職人とか関係なく、ライター全員の共通の思いじゃないですか。誰かに、多くの人に、自分が大切だと感じている“何か”を届けたくて、僕らはライターという仕事をやっている。

その中で、今はWebという媒介があって。「Webの力をどう活用したら、よりたくさんの人に届けたい情報が伝わるか」と試行錯誤してきた人たちが、いま「読モライター」と呼ばれている人たちなのかなと。もちろん、そういう志を持っている人だけではないと思います。でも、少なくとも僕は、「たくさんの人たちに伝えたい」と考えた結果、戦略的にTwitterでフォロワーを増やして、発信力を高める道を歩んできました。

===

ほかにも、会場やTwitterなどから質問を拾って答えつつ、広く楽しく振れ幅のあるトークでした。

おそらく、もっとちゃんとしたレポートは後日、ほかの誰かがまとめてくれると信じて…ここらで「現場からは以上です」とさせて頂きたいと思います。

自分の個人的な感想も簡単に綴るつもりだったのですが…ちょっと、ちゃんと咀嚼してから、自分の思うところを書いてみたいと感じています。それくらい“書き手”の当事者として、真摯に考えさせられる/考えていかなければいけないテーマで。“書き手としての矜持”を巡る、尊いお話でした(先輩方、今後もご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い致します)。

イベントの最後には、会場「EDIT TOKYO」の名にちなんで、おふたりが選んだオススメの“東京”本3冊が紹介されました。それらを列挙して、こちらのレポもお開きにしたいと思います。

<朽木さん選書 ~地方から出てきた、僕にとっての東京~>

<カツセさん選書 ~近くて遠く、カッコいい東京~>

ちなみに。

私たちは“書く人たち”のための「sentence」というコミュニティを運営しています。「書くことは手段でしかなくて、書く目的が大切だ」ということを伝えつつ、「目的を達成するための手段」としての技術だったり、考え方だったりを、いろいろな手段でシェアしています。
よろしければ、お見知りおきを。

こちら、sentenceのmediumでは、“書く”にまつわるコラムを、週何本か出しています。お時間あるときに、のぞきに来ていただけたら幸いです。

--

--

Takeshi Nishiyama
sentence

旅は道連れ世は情け、恩は掛け捨て倍返し、残す仕事に身を削る、湯とり世代の創食系。ばっかじゃなかめぐろ、なにゆうてんじ