2022年度 メディアアート実践最終課題
本記事は、2022年秋学期に慶應義塾大学SFCにて開講された講義「メディアアート実践」の最終レポートを兼ねたものである。
ここでは、メディアアート実践で最終成果物として制作した作品についての紹介、そして制作を経ての考察を述べていく。
最終作品(ANBIRI/UNREAL MEMORY)
ANBIRI
ANBIRIは、画像生成AIモデルの発展に伴い、画像生成モデルが検索ツールとして利用されるようになった未来において、データセットプラットフォームを提案するビジネスモデルである。このビジネスでは、生成モデルにおけるデータセットの枯渇問題からの脱却、そしてフリー素材モデルと画像生成モデルの作成者の需要と供給をつなぎ合わせることを目的とし、画像とお金を循環させる。
本作品では、Stable Diffusionが社会的に普及し、画像検索ツールとして使用される未来をスペキュラティブに表現した。AIがさまざまな画像を生成できるようになったとしても、人間の未だ見ぬものへの欲は永続し、こうしたビジネスとしてクリエイティビティを拡張させていく方向に向かうのではないだろうか。
UNREAL MEMORY
本作品は、Stable Diffusionによって作られた「偽物の思い出写真」のアルバムである。記憶は曖昧なもので、時間というノイズによって記憶は覚えのない過去に変化していく。そして私たちは写真や動画を見ることで失ったはずの記憶を補完し、過去を認知する。近年のテクノロジーの発展によってメディア自体の真実性が薄れてきている中、私たちはどこまで過去の描かれたアルバムを信用できるのだろうか。
制作を経た考察
本講義において、最終作品を制作していく中での考察として、さまざまな生成モデルが高性能になっていく未来において、人間とAIでは作るものの棲み分けがなされるのではないかと感じた。
AIモデルは学習によって生成物の精度は人間以上であり時間的にも短時間でアウトプットをすることができる。しかしながら、もちろん学習データにないもの、つまりこの世にないものは生成することができない。これは現状の無機質な学習-生成を繰り返すモデルを使用する限り、当てはまってしまう。私たち人間は、無機質なAIを効率的に使う一方、この世に存在しない未知のものに対する創造は人間の行為となるであろうと予測している。
また現時点で人工知能を用いて表現していく意味は、やはり人間の創造性とは何であるかという根源的な問いに対して思考していくためであると私は考える。人工知能というある種の他者に人間を模倣させることで、客体として人間を認識するというプロセスは必要不可欠であると感じる。
私は今後も人工知能やコンピュータプログラミングなどを用いて表現を行なっていく所存である。今回の制作を通して得た知見や考察を今後の活動に生かしていきたい。