画像生成AIが人にもたらすもの

Miho Takahashi
SFC Media Art 2022
Published in
Feb 3, 2023

はじめに

メディアアート実践の最終課題としてグループで作品制作を行った。ここでは制作を行う上で考えていたことや実際に自分がやったことを文章化しながら、AIと人のコラボレーションについて言及したい。

制作①AIデータセットビジネス「ANBIRI」

まずは、今回用いた画像生成AIである Stable Diffusion (以下SD)についてわかっていることを整理し、私の中での印象について述べる。

単語の連なりや文章などの言葉(プロンプト)から画像を生成できるツールであり、言葉の順番や生成の際の設定によって結果は変化する。生成画像の元となる学習データには偏りがあり、現実社会における人種・性別・職業などのバイアスが強く反映されたアウトプットになってしまうことがある。また、人間が撮影したり描いたものを学習しているため、この世にない画像の生成については得意としない。

こうした特徴を持つSDは、アファンタジアのように頭の中で言葉にはできるが画像として想像できない人々にとって、思考補助ツールとしての役割を持つ。こうした背景がある中で私たち人間は、画像生成AIに対し、①単純な創作活動の高速化=プロンプト文に忠実な画像を作り出すこと ②言語を画像に変換するツール ③人間が生み出せない何かを作り出すこと この3点を期待しているのではないかと私は考えている。

その上で、「高精度なSDが普及した未来においてどのようなことが起こるか」というのが私たちの作品制作の原点となった。

まず第一に、高精度SDが画像検索ツールの代替手段になりうると考えた。

技術の進化によって人は何らかの能力を失ったり置き換えられたりしている。例えば私たちは、パソコンやスマートフォンの普及によって予測変換機能に頼るようになったため、自らの手で漢字を正確に書くことが難しくなった。このように、テクノロジーによって人間は何かを失っているのではないか、そしてAIによって何を失うのかという指摘である。厳密には画像生成AIによって起こっている現象は、文字が「辞書で探す行為」から「パソコンなどの予測変換を使うようになった」のに対し、画像や絵については「画像検索」が「文字による画像生成」に代わり、「人の手で絵を描く行為」に新しく「言語から絵を描くという行為」が加わったという表現のほうが正しいと思われる。そのため、完全に同じであるとは言えないが、同様の議論が行えると考えた。

第二に、フリー素材の利用機会がなくなること、そしてそれによる新しい職業の誕生について考えた。

SDによる画像生成で、欲しい画像を著作権フリーの状態でその都度生成できるため、現存のフリー素材はいずれ使われなくなる可能性がある。同時に、高精度な画像生成AIを実現するためには、高品質で大量のデータセットを人間が用意する必要があるが、AIの学習速度の方が人間が画像を用意するよりもはるかに早く、供給が間に合っていないのが現状である。なぜなら、一度学習したものは蓄積されるため、常に新しく高品質なデータセットが必要とされるのに対し、人間が生み出すことのできる画像には限りがあり、いずれ枯渇してしまうと予測できるからである。そこで私たちは、SDの表現力を向上させるための新しいデータセットを生み出す職業がフリー素材のモデルに代わって誕生するのではないかと考えた。

こうした背景から、高精度SDが画像検索ツールとして普及した未来において、新しいデータセットビジネスが誕生すると考え、そのビジネスの提案を行うことを作品テーマとして設けた。この制作を通じて、高精度なSDが普及した未来においても、人間がデータセットをはじめとする素材を提供する構図は変わらず、SDの高性能化と並行して、人間はさらに創造力や新規性、奇抜性を求められていくようになるということが考察された。あくまでAIは、人間の創造的活動において補助ツールであると私は考える。

実際に制作したサイトがこちらである(https://unbelievable.studio.site/)

自分の担当した部分については以下の通りである:コンセプト/画像撮影と生成

制作②架空の写真を混ぜることで記憶の改ざんをねらう思い出アルバム

制作背景としては、SDによって実在の人物の画像を高精度に模倣することができることを利用し、もしそうして作られた写真が思い出のアルバムに含まれていたら、人は気づくのか、そしてないはずの記憶を頭の中で補填してしまうのだろかという興味にある。また同時に、写真という記録媒体に含まれる背景や季節、一緒にいた人などについて、人間は鮮明に記憶することはできないという、記憶のあいまいさについても言及することを目的とした。

自分の担当した部分については以下の通りである:コンセプト/アルバム制作

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