【読書感想文】デザインはストーリーテリング

「体験」を生み出すためのデザインの道具箱

tamagar
Shibuya design engineering
7 min readJun 27, 2019

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はじめまして。
渋谷の某企業でデザイナーをしているtamagarといいます。
デジタルプロダクトのUIデザインを中心に、わりといろんなことやってきたいわゆる何でも屋系のデザイナーです(不本意ながら)。

現在、社内で「デザイン×エンジニアリング」を軸にいろいろやるという自主活動に参加しているのですが、その中で「もくもく読書会」という、ざっくり言うと「みんなでためになりそうな本読んで感想シェアしようぜ」という取り組みをやっております。

読んだ本

発売日:2018年10月15日
著者:エレン・ラプトン
解説:須永剛司
翻訳:ヤナガワ智予
デザインは人々に感情を、理解を、行動をもたらす。その要となるのが「物語」!展覧会、ビジュアルデザイン、著作など、数多くのプロジェクトを経験してきた著者が教えるデザインの領域が広がった時代に最適なデザイン入門。

なぜこの本を手に取ったか

  • amazonでおすすめに出てくるも、レビューが1件もついていなく、ぐぐってもレビュー記事がほぼ見当たらなかったので逆に興味を持った
  • 非デザイナー(特にビジネスサイドの人)とのコミュニケーションに課題を感じていたので、広義のデザインについて理解を共有できそうなヒントが欲しかった
  • 今現在、携わっている事業がリアルイベント等を開催したりするので、デジタルプロダクトに限らないデザインの話が読めるかなという期待

どんな本だったか

雑にまとめた図(一部語弊があるかも知れん)

タイトルから想像する通り、基本的にはUXデザインと、部分的にブランディングについての話も入っています。

「デザインとは物語ること」という見立てのもとに、

  • 第 1 幕:展開 ̶ Action
    「ストーリー」の基本構造など、「ストーリー」に関する基礎知識と、実際に「ストーリー」を考える手法について
  • 第 2 幕:感情 ̶ Emotion
    デザインによって引き起こされる感情の動きや、それを良い体験にするためにどう設計するかという手法について
  • 第 3 幕:感覚 ̶ Sensation
    知覚と認知、視覚に対し五感がどのように影響するか、それによって人がどのように行動するかなど

という三幕構成になっています。

さらっと「三幕構成」と書きましたが、この本の第 1 幕でも触れる「ストーリーの基本構造」の有名なものに「三幕構成」というものがあって、ハリウッド映画などのシナリオは基本的にこの「三幕構成」になっていると言われています。(このへんの詳しい話は、シナリオライティングのHowto本とか読むと面白いですよ)

この本自体が「三幕構成」、つまり「物語」を意識して構成されているところはニクイですね。

紙面は余白が広く、イラストも多いのでサクッと読了できます。
全体的には、いろんな文献からの引用を集めた本、という感じで、部分部分は既知のものも多かったですが、「入門書」としてひとまず「デザインするということの概念」をインストールしたい人には読みやすくていいんではないかなと思います。

事例とか、行動実験の結果とかが結構あるので、そのへんは興味深いものも多く、面白かったです。

デザインって思ったより影響力あるよね

フレームワーク的なものもいくつか紹介されているのですが、「これ真面目にやろうとしたらしんどいなー」と感じるものが多く、チームに協力者がいないとなかなか実践が難しいなと感じました。

唯一、すぐに実践できそうなものとしては、巻末「幕引きの後で」の中の「文章力を高めるために」という見開き2ページのHowto的なものですかね。デザイン本は多くあれど、「文章」や「単語選び」に言及しているものは案外少ない気がするのでこれはナイスです。

第 1 幕の前の「序幕」「前振り」の部分が、試し読みで一部抜粋されていて、これを読むと著者がどういう「デザイン」を目指している人なのかがわかります。

問題解決という考えが、私の学びたかったデザインの実践のすべてに当てはまるとは思えませんでした。問題解決だけでは納得がいかなかったのです。デザインに、見た目の美しさや感情的なもの、感覚的なものはいらないのでしょうか。ユーモアはどうでしょう。葛藤や受け手の解釈は?

普段、ロジカルに寄りがちなデザインをすることが多い人間としてはちょっとドキッとする言葉ですね。

この本をどう捉えるべきか、という点については巻末の解説がわかりやすいです。

デザイナーがデザインする対象としてのプロジェクトとはなんだろう。本書のなかではいくつものプロジェクトが紹介されているが、著者はこれらをデザインされるひとつの実体ととらえてはいない。そうではなくデザインすべきは、制作される物事とそれを受け取る人々の活動、そこに起きる活動と人々が手にする体験、それらすべてを包含した事象であり、それをプロジェクトと考えるのである。

読み終えて

「モノ」を作るデザインの手法はいろいろ進化してきていると思うのですが、もっと大きな視点で「そもそもどこに向かってるんだっけ」みたいなのはわりとすっ飛びがちな部分だなあという気がしています。
このへんは本来、ビジネスサイドの人としっかり話し合いたい部分ではあるものの、( ゚д゚)ポカーンとされてしまうことも多くて悩ましい状況です。

非デザイナーの中には、「デザイン」というワードにそこはかとなくハードルを感じてそうな層もいるので、「ストーリー」という誰にでも想像しやすいツールに変換することで、「みんなでデザインする」という状況が生まれるといいなあと思うのですが、これについては少し実践してみて、何か思うところがあればまた記事にできればと思います。

この本を読んでいるときに思い出していたのは、昨年4月にUI Crunchに登壇した任天堂の話。

この中の「みまもり Switch」に関する話で、UIをどうするかを決めるのに「親子関係を良くするために」という視点が入っていることに、正直「参りました」という気分になりました。
ユーザー側に起こる「ストーリー」に想像が及んでいないと出てこない発想ですよね。
企業としての哲学が浸透しているからこそ、デザイナーにもこういう視点があるのだなあと。

終わりに

前からグラレコっぽいことやってみたかったのでこの機会に2枚ほど描いてみました。
これをサクッとできるようになると「ストーリーボードでプレゼン」とかのハードルが下がって、「ストーリー」を使った「コミュニケーション」とかに活用できるかも、という訓練も兼ねて。

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