【読書感想文】ユーザビリティエンジニアリング

sugam
Shibuya design engineering
9 min readFeb 4, 2020

どんな本?

発売日:2014年02月
著者:樽本 徹也

著者はUXリサーチャ/ユーザビリティエンジニアで、ユーザビリティ工学を専門としている方です。

内容は、最近聞く機会が多い「UX」についてと、そのUXを実現するための設計手法としてユーザー中心設計という手法が中心となっています。ユーザ中心設計の具体的な実践方法が「調査・分析」「設計」「評価」という軸から紹介されています。

この本を選んだ理由は?

プロダクト開発において「ユーザビリティをあげよう」「UXをあげよう」「満足度をあげよう」なんて言葉は良く出てくるのですが、機械的に取得している何らかのKPIを元に追加機能を考えたり、アンケートをとって満足度から改善策を考えたり・・・といった対応かつ振り返りがゆるふわな状態だったことが過去に何度もありました。

本当にそれでいいのかな?プロダクトをもっと根本から成長させるためには?と考えていたことがきっかけでした。

優れたUXを実現するためには?

UXについて調べるとよく出てくるモデルとして Jesse James Garrett氏が提唱した5段階モデルというものがあります。

  • 表層(Surface)
  • 骨格(Skelton)
  • 構造(Structure)
  • 要件(Scope)
  • 戦略(Strategy)

というものなのですが、表層はビジュアルデザイン、骨格はインタラクションデザインとユーザーが実際に触れる部分になっており、要件や戦略などはそのプロダクトが作られることになった背景、解決したいこと、狙いなどを満たすための要件定義など設計にあたります。

表面的なデザインやインタラクションは、実際にユーザーに触れるところなので重視されていますが、それらは構造や要件や戦略など下の階層のものを具体化されてできているわけで、より良いユーザー体験を目指すのであれば表面的なこと以外への理解が不可欠といったものです。

自分はデザイナーではないので、こんな複雑なことを普段からやっているデザイナーの方って改めてすごいなと思います。

ユーザー中心設計?

本書では優れたUXを実現するため5段階のモデルに沿って、どのように戦略を立て、要件を定義して、構造・骨格を設計し、表層のデザインにつなげていけばよいのか?の問いにユーザー中心設計を用いるとあり、それを行うために必要なステップとステップ毎の具体的な方法を教えてくれています。

ユーザー中心設計とは?ということはここでは割愛させて頂き、本書から学んだユーザー中心設計の原則やプロセスを紹介します。

ユーザー中心設計の原則

  1. 設計はユーザー、仕事、環境の明確な理解に基づいている
  2. ユーザーは設計から開発に至るまで関与を続けている
  3. 設計はユーザー中心評価によって駆動され洗練される
  4. プロセスは反復的である
  5. 設計はユーザーエクスペリエンス全体を取り扱う
  6. 設計チームは多様なスキルや視点を含む

エンジニアの世界にはドメイン駆動設計(Domain-Driven Design)という言葉がありますが、これを例えるならユーザー評価駆動設計ってことになるのでしょうか。

設計の中心にいるのは常にユーザーであり、そのユーザーを取り巻く環境を理解するところから始まり、設計したものを評価してもらい、その評価を受けてブラッシュアップしていく・・・というところでしょうか。

ユーザー中心設計のプロセス

  1. 調査:ユーザーの利用状況を把握する
  2. 分析:利用状況からユーザーニーズを探索する
  3. 設計:ユーザーニーズを満たすような解決案を作る
  4. 評価:解決案を評価する
  5. 改善:評価結果をフィードバックして、解決案を改善する
  6. 反復:評価と改善を繰り返す

本書をもとにプロセスについて軽く解説すると・・・

まずはユーザーを知るところから始めるわけですが、実際にユーザーインタビューやユーザーテストを行い、利用状況の理解や潜在的なニーズが隠れていないか探ります。

次に、探索できたユーザーニーズを満たす解決策を設計します。設計にはブレインストーミングや発話法、プロトタイプなどを使い設計していきます。

最後に評価ですが、ここでは専門家の分析やヒューリスティック評価や人間の認知モデルに基づいて評価する「認知的ウォークスルー」という手法を使って評価していくとあります。

ユーザーのことを常に考えて設計しよう!といったことはよく聞きますが、具体的な方法まで落とし込んで浸透しているチーム、会社はどれくらいあるでしょうか。本書はそれを考えるきっかけ、具体的な方法を詰める時にとても参考になる内容となっています。

ユーザー中心設計を網羅的に知るための入門書としては以下の本がありますのでもしこれを機に読んでみようと思った方は是非。

学びになったことを絞って2つ紹介

長くなってきたので、ユーザー中心設計のこと以外にとても学びになったことを2つに絞って紹介します。

インタビューの準備

インタビューは準備なしのアドリブでできるようなものではない、綿密な準備が必要とあり、その準備を以下のステップで説明されていました。

  1. 聞きたいことを挙げる
  2. 質問をまとめる
  3. 聞き方を工夫する
  4. 順番を工夫する
  5. インタビューガイドを作る
  6. そのとおりやらない

です。
この中で特に学びになったことは、3の「聞き方を工夫する」と6の「そのとおりやらない」です。

それぞれ紹介すると、聞き方を工夫するでは、

「結婚されていますか?」「お子さんは何人?」といった質問は “クローズド” 質問です。ユーザーは聞かれたことにしか回答してくれませんし、ほとんどの回答は「はい/いいえ」レベルで済んでしまいます。

そこで質問を “オープン” にします。例えば家族構成について知りたいならば「あなたのご家族を紹介してください」と質問します。こう聞かれるとユーザーは「はい/いいえ」で答えるのではなく、自らストーリーを語り始めます。

と説明があり、これにはハッとさせられました。
普段、発生した課題や障害を明確にするために対象を絞っていくような対話をすることが多々あるので、インタビューというか普段の会話からクローズドになっていないか心配になったので、普段から意識してみようと思いました。

もう一つ、そのとおりやらないでは、

せっかく作ったインタビューガイドですが、絶対に、そのとおりインタビューしては行けません。あくまで会話のきっかけを掴むために用意しているだけです。

インタビューガイドは横目で見ながら、ユーザーと対話する中で内容や順序を変えながら臨機応変に質問します。文脈を無視して、用意した質問を順番に読み上げているようでは弟子入りできるはずがありません。相手を深く理解しようとしない限り有効な質問は生まれません。

これはまさにそのとおりだなと思いました。
1on1や面談でも文脈を無視して聞きたいことを聞いてしまう失敗をしたことがあります。不安だったり有意義なものにしようと準備するわけですが、メモに頼りすぎてその場の雰囲気を考えずに質問してしまうことをやらかしたことがあります。

ここで紹介した準備含めインタビューの部分については、UX関係なく普段の仕事に活かせるので是非読んでもらいたいです。

認知的ウォークスルー

これ何?って真っ先に思いましたが、

人間の認知モデルに基づいて評価を行う手法

とのことですが、まだよく分かりませんね。。

Webサービスでいうと画面遷移図などに沿って分析していくとして、その際にユーザーの認知モデルの1つである「探査学習理論」に基づいて問題点を発見していこうという手法と紹介されています。

どういうことかざっくり説明すると、テスターにはやってもらいたいこと(目標)を伝えて、操作方法やマニュアルをを伝えずにいきなりやってもらいます。

テスターがシステムからのフィードバックを受けて、どのような操作をすれば目標にたどり着くか(探査)、適切な操作なのか(選択)を判断していく様子を観察します。

そこから設計者が推測したとおりに進んでいるか?、進んでいないとしたらどこで詰まってしまったのか?を分析していくというものです。

この手法でのテストを見学したことがあるのですが、このような名前がついていたのか!と今更ながらの学びがありました。

本書では、

ユーザーインターフェース上の問題点を詳細に検討するだけでなく、ユーザーのとりうる行動を推測することで新たな要求開発にもつながります。
つまり、設計の初期段階で用いると有効な手法といえます。

とありました。
設計段階でフィードバックを得てそこから試行錯誤を繰り返すということは、プロダクト開発にとても役に立つとので是非取り入れていきたいです。

評価方法としては様々な方法がありますが、ヒューリスティック評価で「根拠」に基づき評価し、この認知ウォークスルーで実際の「操作」に基づき評価するという併せ技でが良いのではないか?といった印象です。

まとめ

本書は、より良いUXを実現するための手法としてのユーザー中心設計と、それの実践方法が具体的に紹介されているとても学びの多い本でした。

プロダクトをより良いものにしていくための動きがデザイナー、エンジニア、ビジネスなど職種関係なく広がってきています。実際に自分はサーバーサイドエンジニアではありますが、ユーザーテストの場に参加する機会が増えています。

専門家ではないですが、どういった背景からテストが行われているのか?どういう評価を行うのか?など有意義な参加になるよう今後もインプットしていきます。

ここまで読んでくれた方ありがとうございます。

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