公益資本主義的でありたい

shinozw
Shinozawa’s Good Read
6 min readOct 15, 2017

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『「公益」資本主義』(文春新書)の感想

原丈人さんの本を読みました。原丈人さんは自身もベンチャー起業して売却後、デフタパートナーズというベンチャー投資機関を立ち上げた経験を持っている方で、現在は「公益資本主義」という新しい資本主義の考え方を啓蒙されている方です。

「公益資本主義」ノートでのまとめ

公益資本主義は、株主資本主義への代替案

「公益資本主義」の考え方は、従来と「利益」の定義を幅広く、時間軸的にもグググッと広げるところにポイントがあります

公益資本主義における「利益」は、従業員には「給与」「教育」「福祉」、株主には「配当」「株価上昇」、顧客には「安全性」「品質」、仕入れ先には「適正価格での購買」、地域社会には「貢献」、地球全体には「環境」、そして会社自身には「内部留保」という形で分配されます

「株主利益の最大化」を目指す株主資本主義へのアンチテーゼになっています。株主と従業員その他が利益を取り合っているってどういうこと?とピンときていませんでしたが、例えば内部留保と自社株買いという仕組みで衝突していること具体例を用いて熱く章を割いて説明していました。

マイクロソフトを例にわかりやすく言えば、「当期総利益に対する株式配当と自社株買いの総額の比率」が119%とは、税引き後の利益が100億円あったとすると、その他に19億円の内部留保を崩すか、外部から借入をして、119億円を株主に配っていることを意味します。

思うに、内部留保といえばベンチャーであったり研究開発企業であれば内部留保は喉から手が出るほど確保したい。そういうものだと思うんです。不測の事態に備え、給与ストップを一度も起こさないための内部留保であったり、次の事業への再投資の元手になる内部留保です。これを「自社株買い」の原資にあてさせることで、株主の利益のために切り崩させる仕組みになっているのが問題です。そもそも上場前は積みたくても積み上げられない内部留保ですが、やっとの思いで確保した内部留保を株主のために切り崩せと。地獄か。これで中長期の研究開発投資活動がやりにくい、というのが原丈人さんの主張です。

上場後の中長期投資について、しっかりと株主と握り合わないとそういう投資を許してもらえず、自社株買いを迫られたりするわけです。辛い。

さらには短い時間で利益を増やすのが、株主利益を最大化しますから、1年で達成した利益を次は1ヶ月で出せ!その次は1秒でだせ!とだんだんエスカレートしていきます。これにより長期の研究開発を止めるようになり、M&Aで後付する作戦に代わり、イギリスやアメリカから製造業は大きく後退しました。

マネーマネージャーに成り下がったVCはいらない

著者の原丈人さんがデフタパートナーズの経験を通じて書かれた「ベンチャーキャピタリスト」論も、ベンチャー発掘育成を手がける身としては響くものがありました。

(ベンチャー投資とは)マネーの再分配を人間の知性でもって行なおうとすること

目利きには信念や哲学が必要で、市場原理では選ばれにくい長期的な変化をもたらすベンチャーを助けることだと解きます。

本来のベンチャーキャピタルは、技術を元にして新しい価値を生み出す製造業に近い存在です。ところが、現在のベンチャーキャピタリストは、モノづくりの過程にそこまで関わりません。見ているのは数字だけ、興味があるのはすぐに儲かるかだけです。いまや彼らの9割は、元金融マンや元経営コンサルタントです。こんな人たちに新しい企業など育てられないのです

数字だけをみて、お金でお金を生むようなサラリーマンVCは不要で、むしろ害悪だとも取れるような過激な文が並んでいて、首肯しすぎてムチ打ちになりそうでした。

ベンチャーキャピタルが研究開発型製造業

また、リバネスの知識製造業に通じるコンセプトも登場しました。

シリコンバレーのベンチャーキャピタルは、「何業か?」と聞かれたら、「研究開発型製造業」と答えます。科学や技術を事業化し、無から有を創る仕事は、まさにメーカーです。ただ、技術だけを製品化するのではなく、「モノ」を「コト」化することで、技術が世界や人類をどう変えていくのかといったエコシステムまで発想し、実現する点は、通常のメーカーと異なります。

これはベンチャー経験者がベンチャーに投資をしているから言えることだと思います。自らもテクノロジーを通じて実現したい世界観を持っていて、それに相通じるベンチャーを見つけて投資する、というシンプルな原則に従っていれば「研究開発型製造業」になれると思うからです。前述のとおりIRR20%とかそういうことを目標にすると全く製造業的ではなくなります。

知識を集めるホールディングス的経営

リバネスもホールディングス的経営をしています。科学教育や人材育成、戦略開発以外にも、関連会社で板金の町工場から研究のデータビジュアリゼーション、飲食店、農産物のグローバルサプライチェーンなどを手がけています。それについても一言、

私は、ベンチャーキャピタルを「新規事業を起こす事業持ち株会社」と位置付けるのが正確ではないかと考えています。新しい技術の価値を見極め、出資を行なうだけでなく、資本政策や人事、営業活動の支援にまで携わるからです

このように書かれていました。もはや従来のベンチャーキャピタリストにはなかなかないですし、リバネスそのものはベンチャーキャピタルじゃないですが、自己資金による新規事業を起こす持株会社的であると思います。

本書が投げかけるもの

この本は個々の企業が中長期投資できるように頑張れ!という話をする一方、日本の法制度、商制度への提言を丹念にまとめています。

こうした株主資本主義の呪縛から企業を解放し、企業の本当の力を引き出すには、短期投資家や投機家向けに作られている現在の制度を、根本的に改革する必要があります。整理すると、次の7項目です。

①税制、

②会計基準、

③企業統治と法令順守、

④企業価値標準基準、

⑤規制緩和、

⑥金融証券制度、

⑦会社法

それぞれとても興味深い内容でした。特にリバネス、リアルテックファンドの立場で取り上げて変化を起こせそうなのは⑥の内容にあたるものでした。未公開株と上場株で一見異なってしまう利害関係をシームレスにつなぎ、ずっと中長期投資が可能な株式を発行する、そんな具体案を考えられるようになりたい、と思わされました。

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放て心に刻んだ夢を未来さえ置き去りにして