野中郁次郎「知的機動力の本質」

21世紀の知識社会で、新しい知識をつくり続ける組織に必須の「知的機動力」についての解説した本

shinozw
Shinozawa’s Good Read
7 min readJun 11, 2017

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この本『知的機動力の本質』を読むまで、野中郁次郎さんのことは『知識創造企業』の方だと思っていた。『知識創造企業』は、僕が入りたてのころのリバネスのインターンシップの勉強会では「ナレッジシェア研修」と呼ばれていた枠組みで大いに下敷きにされていた。

研修としてやっていたのは8–9年前で、当時は形式知と暗黙知という言葉が目新しかったのをよく覚えている。論文や報告書のように、形になっていて回し読みできるもので伝達すれば「形式知」を扱ったことになり、そこから納得して腹落ちしたものや体験に紐づく個人ごとの知識が「暗黙知」。暗黙知は他人からみて活用しにくいから、なるべく形式知にして周囲に発信しよう!というのが当時の捉え方だった。(これが読み進めるとだいぶ裏切られることになった、当時は浅かった)

アメリカ海兵隊の研究や、「失敗の本質」

野中郁次郎の新刊ということで書棚で見つけて手に取ったのが本書「知的機動力の本質」だった。リバネスでは日々、新しい知識を生み出して世の中にないことをやろう、という組織文化であるので、タイトルだけでも、なんか役に立ちそうと思い手を伸ばした。パラパラとめくってみると大半の内容がアメリカ海兵隊の組織を論じたもので、後ろ1/3に至ってはアメリカ海兵隊の兵法理論書の『ウォーファイティング』全訳だ。

軍隊を運営するつもりはない。

けれども、どこかで軍事組織の研究は応用可能。大企業やベンチャー、大学の研究室に通じるような普遍的な組織論があるってきいたことあったような気がする。そう思ったのでもうちょっと読んでみようとなった。

存在意義を問われて自己革新しないといけなかった海兵隊

第一部が海兵隊の歴史をなぞる内容なんだが、正直軍マニアでもないので読み飛ばそうとすら思った。けれども、政府や国民から「要らなくない?」「陸軍に吸収しない?」みたいな圧力に耐えながら存在意義を創り出すところに共感しながら読めた。まるで日本の大学のようじゃないか。

そんなお取り潰し圧のかかる海兵隊は、陸海空軍がやってることをやってもダメなので、工夫の1つとして、統合的な装備・陸海空をすべて小規模でも賄える組織にしたこと、それでいて全員ライフル射撃のトレーニングをやったことという話があった。標語としては「Every Marine is a rifle man」というらしい。ライフルマンがヘリに乗ったり、強襲艇に乗っているので、互いにやりたい狙撃がわかるから助け合いが自律的にできる、とされていた。

これ、わかるな。リバネスも全員、子どもの前にたって研究の話ができることを共通特質として備えようとトレーニング系を作っている。こうしておくと、どの仕事に関わっていようと共通するメンタリティや手順については理解が速い。きっと「Every Leave a Nest member is science bridge communicator」というべきなんだろう。

暗黙知を重視して言葉を介さないコミュニケーションをする

上陸作戦のようなグチャグチャな戦場ほど大変じゃないとは思うが、ビジネスの世界も日々矛盾する情報の板挟みになる。それでいて大きいことを成し遂げようとすると、計画もするけど、同時に即興性や自発性もクソ大事だと思う。

なにせ忙しい。ライフルマンが個々に「どう動くべきか」をいちいち言葉にしてるヒマがないんだから、互いに腹落ちした方法でもって自分で考えられるようにしろよ、ということが徹底されているそうだ。新兵が経験するブートキャンプでトコトンしごかれまくるのも組織に入るのでなく一体化するまでやるためだという。「海兵隊に入るのではなく、一つになるのだ You don’t join the Marine, you become one」というらしい。言葉の使用をよくわかった重要なものだけにとどめ、互いに考えていることを察しあうほうが、明示的な指令を使うよりも速くて効果的だと信じるのだそうだ。基盤があれば即興にも応じやすい。ブルースもリズムとコード進行がわかってないとアドリブできない。とは思う。

それで暗黙的なやりとりで通じるよう、指揮命令系統をダブりがあるようにつくっている。最小がライフルチーム4名で、それが3つあつまって、上官1名がついて13名の分隊(squad)になる。これが3つ束なったのが小隊(platoon)で40名。冗長性があることで、情報の信頼性を高め、共同化することができる。

よい組織は「ライフタイムコミットメント」であり、終身雇用は誤訳。言語はライフタイムエンプロイメントではなかった

ほかにもフ~ンと思ったことをコピペしておしまいにしようと思う。

コンビネーション(連結化)は、集団の形式知を組み合わせて、物語や理論的モデルに体系化する。
複数の概念を組み合わせ、編集し、体系化し、ブレイクダウンする。
134

社会現象は、原因と結果が識別できない同時発生であることが多く、そのプロセスを記述することが説明の役割を果たす。複雑系における矛盾解消のダイナミックなプロセスは、数理モデルの因果分析ではなく、物語としてしか形式化できない。
139

絶えず矛盾が発生する戦場に対応するには、行動を通じてコンテクストを変化させ、実践的弁証法を反復しつつ矛盾を解消していく能力が問われる
142

フロネシスの習得には、卓越性を無限に追求する専門的職業意識(プロフェッショナリズム)が要請される
エクセレンスとは、一つの行為ではなく、習慣なんだ
146

知的機動力は二項対立dualismではなく、動的二項態dynamic duality という概念が基盤になっている。どちらも一面的に正しい。文脈に応じて配分を変えつつ実践し有効であることを実証してこそ真理である、というプラグマティックな考え方である。異なる両極端の相互作用からイノベーションが生まれる。
165
%% andの発想が大事という示唆

イノベーションは多様な背景、経験、スキル、妄想癖(パラノイア)をもち、組織の問題に全人的にコミットしたコミュニティから生まれる
169

日本的経営で最も重要な要素は終身雇用制度と言われてきたが、その原語はライフタイムコミットメントであり、ライフタイムエンプロイメントではなかった。それは間違って終身雇用と理解され続けた。一生涯続くコミットメントは組織を去っても続く。良い組織のあり方として普遍的な価値を持つのではないか。
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放て心に刻んだ夢を未来さえ置き去りにして