2019年3月9日、昨年に続いて細胞農業に関する研究会「第2回細胞農業会議~実用化が見えてきた!細胞農業・培養肉の最前線~」が、(株)リバネスが主催する 超異分野学会 の1セッションとして開催されました。

Shojinmeat Projectの五十嵐が主催人となって開催された本研究会では、東京女子医科大学先端生命医科学研究所特任講師の原口裕次氏、(株)インテグリカルチャーCTOの川島一公氏に加え、(株)味の素の知念秋人氏、NESTプロジェクト第二期生マスターコースの小中学生、ワイルドサイエンティストの田中雄喜氏・金子颯太氏など、日本で細胞農業を推し進めているメンバーが登壇致しました。

Shojinmeat Projectメンバーが作ったオリジナルオープニングムービーが聴衆の心情を煽る中、東京女子医科大学の原口先生が最初に講演致しました。

原口先生は藻類と動物細胞による共生リサイクル培養用い、三次元組織作製の試みについ発表してくださりました。一般に細胞培養は二次元的な広がり(培養皿の底で広がっていく)しかできません。なぜなら、三次元化(組織を作るように立体的に)する場合、中心付近にある細胞に栄養や酸素が行き渡らずに死んでしまうためです。この問題について原口先生は、光合成によって酸素を生産できる藻類と動物細胞を一緒に培養させることで厚い立体心筋組織の作製に成功。光エネルギーを用いることで生体外において臓器様組織を作製できる可能性を示しました。これは新しい組織工学的手法「細胞シート工学」を用いた再生医療から新たな治療法の確立を目指す傍ら、再生医療技術を利用した食料生産の可能性を示唆されました。オープニングムービーの不安が細胞農業への期待に変わりました。

次にNESTプロジェクトの小中学生による発表です。彼らはJSTジュニアドクター育成塾採択プログラムによって選ばれた子供たちで、研究テーマとして魚の細胞培養によって食料問題を解決することを目的に、実際に魚からの細胞培養方法の確立に挑戦していました。彼らは金魚とアジから細胞を採取し、部位別にどの細胞が培養可能かを検討した結果、金魚の腎臓から採取した細胞の培養に成功していました。その他の臓器由来の細胞も接着はしたが、あまり生育が良くなく、アジに至ってはほとんどの臓器由来の細胞を培養できなかったと報告していました。金魚は比較的手に入りやすいため、細胞培養法が確立されればDIYバイオ、細胞農業の発展につながるとのことでした。小学生による細胞農業の発表は(おそらく)世界初の出来事で、今後に期待したいです。

小中学生の次に、Shojinmeat Projectの田中氏と金子氏によるDIYバイオキットの開発と教育分野への導入について発表を行いました。全国のSSH対象校に向け細胞培養実験のアンケート調査を行ったところ、3~5万円台で納まるなら実施したいという声が多く、二人は3万円以下の価格で細胞培養が行えるキットの開発を行っていました。その結果、最もお金のかかるインキュベーター(温度を37℃に保つ箱)を約8000円(金子氏の人件費抜き)で作製し、実際に都内の高校で1万円程度の予算で20名程度に生徒に向けた細胞培養教室を開催したことをレポートしました。DIYバイオを行う上では高価な機材が参入障壁のひとつとなっていますが、そのほとんどが一般人が扱う上ではオーバースペックなものです。二人は重要な機能だけを残した簡易版を開発することで低価格機材を提供し、DIYバイオの普及を推し進めています。

現在、日本で唯一細胞農業を掲げる(株)インテグリカルチャーのCTO、川島氏は新しく開発したシステムにより、従来の細胞培養に必須であった培養液への成長因子や血清の添加が必要なくなる可能性を示しました。このシステムは既存の細胞培養コストを大幅に下げ、細胞培養による大量生産を見据えた研究成果でした。システムの原理を利用することは個人ベースでも可能と見られ、今後の発展に期待されます。

最後に(株)味の素の知念氏から、細胞培養に必須な培養液の原料であるアミノ酸はどのように生産されているのかについて発表されました。アミノ酸の多くは発酵法(アミノ酸を生産する微生物から回収・精製)により生産されており、高さ約11メートルのタンク内で生産される姿はまさに未来の細胞農業風景に近いものがありました。例えば、このアミノ酸を生産している微生物が乳タンパクや卵白タンパクを生産していれば、それは立派な細胞農業です。味の素さんの細胞農業分野への参入も期待され、もし参入すれば世界で1,2を争う細胞農業企業になるのではないでしょうか。

といった感じで90分、息もつかせないような濃密な時間が流れていきました。細胞培養分野は日進月歩の分野ですが、まだ世界でどこがリードしていくのかわからないような状況です。その中で日本は、世界に先駆けて政府が細胞農業の実現化に向けた予算を付けている国です。日本から世界初の細胞農業製品が生まれ、DIYバイオ先進国と呼ばれるような近い未来を期待しています。

--

--

Shojinmeat Project
Shojinmeat Japan

Japan-based cultured meat and cellular agriculture citizen science project