細胞農業の普及シナリオ
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9 min readMar 2, 2022
元々使っていたSlideshareはログインが必要になったり、情報公開ツールとして使えなくなったので、こちらに転載します。他の資料も順次移行します。元⇒ https://www.slideshare.net/2co/ss-235586436
細胞培養肉の普及するシナリオについて、①価格等価点に未達の場合、②最小最適規模が大きい状態で価格等価点に到達、垂直統合の巨大企業が生まれる場合、③最小最適規模が小さい状態で価格等価点に到達、水平分業で多数のプレイヤーが生まれる場合 など
- 1. 細胞農業の普及シナリオ 2020.06 スライド追加
- 2. 細胞農業の普及後の世界のイメージ? 家畜と農村風景はどうなる? 独占大企業と大規模培養工場? 培養肉を誰がどうやって売る? そこに至るまでに何が起こる?
- 3. 新技術に関する一般論 時間 従来技術 価格等価点 Price Parity(PP) 新技術 ・技術進歩により、新技術のコスパは上がり続ける。 ・価格等価点(PP)到達で、従来技術のコスパを超す。 ・本質的に劣った技術の場合はPPに到達しない。 Performance Time 現状↓ 参考Wiki 「破壊的技術」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7% A0%B4%E5%A3%8A%E7%9A%8 4%E6%8A%80%E8%A1%93 「コスパ(体験/価格)」 「体験」を「価値」と読み替 えても良い。
- 4. 細胞培養肉の場合 時間 従来肉 価格等価点 Price Parity(PP) 細胞培養肉 ・技術進歩により、培養肉のコスパは上がり続ける。 ・価格等価点(PP)到達で、従来肉のコスパを超す。 ・前提が誤っている場合は現状維持になる。 Performance Time 現状↓ 「コスパ(食体験/価格)」 ※食体験は味・食感・インスタ映え・ 倫理的優越感など、すべてを含む。 ※本資料では「細胞培養 肉は従来肉よりも本質的 に優れた技術である」とい う前提を置いている。
- 5. 細胞培養肉の普及シナリオ 時間 コスパ 食体験/価格 従来肉 価格等価点 PP点今 一極集中 多極分散 細胞培養肉 ・培養肉のコスパが従来肉を超えるまでに、何が起こる? ・越えたあとは、何が起きてどんな景色に? ・その新たな景色の中では、何をすれば良い? ?
- 6. PP未達の時代 ・細胞培養肉のハイプ曲線は 2021–22にピーク? ・高価なナゲットかフォアグラ 程度で、商品力が不足 ・2030頃には谷を抜けるも、 シェア0.1%程度 ・それでも技術は進歩を続け、 PP突破は時間の問題 ・各社とも「がっかり」を耐える 戦略が求められる発明 期待の山 がっかり 啓蒙活動 実になる “ハイプ曲線” https://ja.wikipedia.org/wiki/ %E3%83%8F%E3%82%A4 %E3%83%97%E3%83%BB %E3%82%B5%E3%82%A4 %E3%82%AF%E3%83%AB PP到達 https://www.digitalfoodlab.com/top-foodtech-trends-2019-dfinsights/
- 7. PP到達前夜(2020’s後半) 動物愛護団体が「カナリア」役 「〇〇(培養肉製品の名称)を食べよう」という情報が多く流れ 始めたらPPが近い 畜産ロビーの抵抗はすでに起きている 食品安全・表示などの法規制や、イメージ戦略が主戦 場になる(ロビー活動・ネガキャン等) シンガポールなど、畜産ロビーが弱い地域に注目 普及曲線の谷間で、抑制 したい勢力と越させたい勢 力でせめぎあい
- 8. PP到達、いわゆる「ディスラプション」 デジタル写真: 富士フイルムとコダック ・細胞培養肉のコスパはじりじりと上昇 し、いつのまにかPP到達。 ・PPに到達するとディスラプションが起 き、急激に普及する。 ・普及と同時に、従来技術では対応不 能な市場も次々に顕在化する。 ・食肉加工や皮革などの周辺産業も対 応に乗り出す。 ・視界外から新規プレイヤーが入ってく る。 ・パソコン部品のnvidiaが自動車へ ・美少女ゲームの新海誠が長編映画へ (参考文献) Clayton Christensen 「イノベーションのジレンマ」
- 9. PP到達の順番と参入障壁 フォアグラ 6000円/kg 養殖まぐろ 3100円/kg さざえ(可食部) 2500円/kg ズワイガニ(可食部) 4500円/kg 豚肉・鶏肉 200円/kg 牛肉 450円/kg 牛肉末端価格(2019) 2230円/kg 価格順にPP到達、順次「ディスラプション」が発生 ※技術が共通なので、途中 (例えばまぐろ)からの参入は知財・ノウハウ的に困難と想定される 香港 1810円/kg シンガポール 1370円/kg ドイツ 1280円/kg アメリカ 1260円/kg
- 10. PP到達後のシナリオ分岐 時間 コスパ 従来肉 価格等価点 (PP) PP現在 培養肉は大資本が必要 培養肉は大資本は不要 細胞 培養肉 ? Q. 培養肉市場への参入 には、どのぐらいの資 本が必要か?
- 11. 参入に必要な初期投資はいくら? プラントの建設コストは規模の 0.6乗に比例することが経験的に 知られている(0.6乗則) (New Scientist vol.17, №326 p355) https://www.city.mitoyo.lg.jp/div/kankyo/pdf/kentou/10-2.pdf CA =Aプラントの建設価格 CB =Aと同種のBプラントの建設価格 SA =Aの能力(規模) SB =Bの能力(規模) CB=CA×(SB/SA)⁰.6 競争力のある価格(¥570/kg)での 製造には、4.8億円の設備費が必 要で、初期投資額は大きめ。 ⇒培養肉の製造設備は地 域単位で建設されそう? 生産規模 設備費 肉1kgあたり設備費 100kg/月 0.3億 ¥3600 1t/月 1.2億 ¥1420 10t/月 4.8億 ¥570 100t/月 19億 ¥230 1000t/月 75億 ¥90 Q: 培養肉の最小効率規模 (MES*)はどのぐらいか? 設備の初期投資はいくら? *MES(Minimum efficient scale) — 市場競 争力を持つ製品を作るための最小規模 (インテグリカルチャー(株)による試算 (2017年) 設備の減価償却は7年を想定、0.6乗則で試算
- 12. 大資本が必要な場合の景色(一極集中) ・自動車産業のように、1国あたり2~3社 ・規模の経済が働く間は、参入には巨大な資本が必要 ・鴻海型の「培養ファウンドリー」による水平分業の可能性 ↑小麦タンカーのような船で糖分 アミノ酸を工場へ輸送 ←沿岸石油化学プラントが細胞 農業プラントへ建て替わる
- 13. 大資本が不要な場合の景色(多極分散) ・飲食産業型⇒機材や材料はコモディティーで、無数の事業者がいる ・中国/インド/アフリカ含めて数百万の個人や企業が製造している ・オープンソースDIY培養肉、レシピ公開、お手製培養装置
- 14. 一極集中と多極分散の中間のシナリオ(例:ビール産業) (株)大脇エンジニアリングサッポロビールHPより ・大手ブランドがある一方で、地ビールや個人製造もある。 ・大手は規模の経済を活かした商品展開を行う。 ・小規模事業者はご当地やニッチなどの差別化戦略で攻める。 PicoBrew : 家庭用ビール醸造機 大手マスブランド 地ビール 個人用(国内では酒税法違反 )
- 15. 細胞培養肉の普及シナリオまとめ 必要な資本 時間 非現実的 一極集中 多極分散 培養も 調理の 一種 超多様化 ・PP点到達時点での必要資 本(MES)の大きさでシナリオ が決まりそう ・PP点到達の兆候は動物愛 護団体やシンガポールなど の地域から ・細胞培養肉だけでなく毛 皮、木材、海産物などの他 の細胞農業も同じ傾向をた どりそう 大資本が必 要な状態で PP到達 大資本が不 要な状態で PP到達 実際は2030年頃 にこの辺から?
- 16. 非現実的 一極集中 多極分散 超多様化 ・DIYバイオ技術の進歩で製 品単価軸以外での競争の余 地が生まれ、より右側の可 能性が上がる。 ・DIYバイオの存在自体が事 業や政策の判断を右側に寄 せる圧力となる time 「自宅で培養肉」などDIYバイオの影響 必要な資本 培養も 調理の 一種
- 17. 「超多様化」後の世界:個人農家も培養肉に参入 ・地元農家や街の肉屋も独自の細胞培 養肉を開発し、ブランドオーナーとなっ て地方名産品を作りだす。 ・個人の肉愛好家も新たな肉を独自開 発して新ブランドができる。 ・牛舎にバイオリアクターが並び、 細胞提供元の牛は丁重に飼育する。 詳細解説↓ https://www.slideshare. net/2co/ss-145810373
- 18. 細胞農業時代にありうる農村風景 飼育頭数の減少 培養設備の併設 多数の家畜を飼育 牛の個体を出荷 細胞もしくは精肉を出荷 従来の畜産農家 細胞農業の農家 畜産農家は牛(1600円/kg)より肉(7500円/kg)を売る 畜産農家は動物細胞を売る・貸すなど