食料危機の解決策となるか?5分でわかる「細胞農業」

「細胞農業」とは、細胞培養によって農作物を生産する方法です。

農作物には、非細胞性作物と細胞性作物の2種類があります。非細胞性作物はたんぱく質や脂質などの有機分子でつくられ、細胞や生物を一切含みません。細胞性作物は、生きた、あるいはかつて生きていた細胞でつくられます。

農作物は非細胞作物(細胞を含まないもの)と、細胞作物(細胞を含むもの)に分類される。

細胞培養で収穫された作物は、動物や植物から収穫されるものとまったく同じです。唯一の違いは、その作物が作られる過程にあります。

細胞農業によって非細胞性作物を作る方法

非細胞畜産物は、酵母やバクテリアのような微生物を用いることによって、動物なしでも作ることができます。

動物性たんぱく質を作る種培養を作り出すためには、オンラインでたんぱく質遺伝子を検索し、そのたんぱく質遺伝子を微生物に注入する。すると微生物は狙いのたんぱく質を作ることができる。

酵母でつくられる牛乳をみてみましょう。カゼイン(牛乳タンパク質)の遺伝子を酵母に導入することで、その酵母は性質が変わります。全ての細胞は同じ遺伝子コードを読み取るため、牛のカゼインの遺伝子を導入された酵母は、牛が作り出すカゼインと同じカゼインをつくります。

通常牛乳は、酪農設備の中で授乳状態にある母牛が作り出す。この代わりに、ミルクプロテインを作り出す単糖を消費する培養によってそれを醸成し、まったく同じ牛乳を作ることもできるのである。

人類は昔から細胞培養で非細胞性作物を作ってきた歴史があり、動物のインスリンは初の細胞農業と言えます。1922年、フレデリック・バンティング、チャールズ・ベスト、そしてジェームス・クリップは、インスリン注射によって初めて糖尿病患者を治療しました。インスリンはもともと、豚や牛のすりつぶしたすい臓から集められていましたが、1978年、アーサー・リッグズ、イタクラ・ケイイチ、ハーバート・ボイヤーは、人間のインスリンになる遺伝子をバクテリアに注入することで、バクテリアが人間のインスリンを作るようにしました。

今日、インスリンの大半がこのような人工的イーストやバクテリアから作られています。より安全で均質な、そして人間が生み出すインスリンとまったく同じインスリン供給が実現されたのです。

糖尿病患者の治療に使われていた動物のインスリンは、最初の60年間豚や牛のすりつぶされたすい臓から集められていた。今は、人間のインスリンを作り出す微生物によってくつくられている。

すでに我々は、家畜を使わずに畜産製品を生み出すことができます。レンネットはチーズ作りに使われる複数の酵素の集合で、牛乳をチーズ作りで必要となるカードやホエイに変性させます。これまでレンネットは子牛の第四胃の内層から抽出されてきましたが、1990年3月24日、FDAはレンネットを生み出すために遺伝子操作されたバクテリアを安全なものとして承認し、世界初の遺伝子組換え食品が誕生したのです。今日ではチーズメーカーの大多数が遺伝子操作されたバクテリアや菌類、酵母からレンネット酵素を使用しています。細胞培養により収穫されたレンネットはより純度が高く均質で、動物由来のそれよりも安価です。

レンネットはもともと子牛の第四胃より採集されていた。こんにちはレンネット酵素を生み出すバクテリアによって製造されている。

畜産物以外の例を挙げてみましょう。

エヴォルヴァというスイスの会社は、酵母からヴァニリン(バニラ香料の主要素)を製造しています。ヴァニリンの大半が石油化学物質から製造されるか、あるいはリグニン(多くの植物の細胞壁を構成する物質)から化学的に抽出されたものです。熱帯雨林のバニラ園からバニラビーンズを採取し、そこからヴァニリンを取っても、割合が極めて微量なので巨大なバニラ園が必要になってしまいます。一方で、培養されたヴァニリンは熱帯雨林を農地開拓で傷つけることもなく、バニラを科学合成することもありません。

ボストンに拠点を持つGinkgo Bioworksという会社は、花からではなく微生物から花の香料を製造するという、細胞農業を行っています。

細胞農業で細胞性作物を作る方法

大半の細胞とその生産物は、生きた細胞組織の中にあります。細胞組織を体の外で作る場合は、細胞組織工学(ティッシュ・エンジニアリング)と呼ばれる技術が使われます。細胞は、成長するための足場の上で、血清(成長のための細胞のエサとなる)のような成長を促進する環境の中で形成されます。

細胞組織工学は比較的新しい科学的研究分野であり、現在は、火傷を負った人のための皮膚細胞の作成、臓器移植を必要とする患者の臓器の作成など、生物学的機能をもつ組織に当てられています。つまり、これらの目的のために組織工学で作られた臓器は、生きた人間の体の中で機能する必要があります。

細胞組織工学の目的は、たいていの場合、患者の体内で機能する臓器を育てることである。生検は患者から採取され、臓器は適切な足場のもと患者の細胞とともに成長する。目的は、拒絶されることなく患者に移植することのできる臓器の培養である。

臓器移植のための細胞培養を目指す科学は、食料のために筋組織を成長させることと一見似ていますが、実はその両者にはまったく異なる考慮すべき事柄があります。たとえば(食用の)肉や(装飾用の)皮革になる細胞は、誰かの体内のなかの臓器として働く必要はありません。そのかわり、肉には何らかの栄養価や食感、味がなければならず、皮革にはある程度の強度、質感、しなやかさがなければいけません。さらに、全ての細胞農業製品を安価に作るためには、臓器移植を必要とする患者の必要量よりもずっと大きな規模で、細胞を製作しなければならないのです。

患者の臓器を作るための技術は、ステーキを作るために用いられる技術と大変似ている。主な違いはステーキが人体の中で機能する必要はないが、よい食管や適切な栄養価を備えたおいしいものである必要がある。

わたしたちの体の中では、血管が栄養を運び、細胞から老廃物を除去することで、人体の分厚い細胞組織を生存させています。もし血管がなければ、細胞は成長に必要なものを手に入れることができなくなります。培養においても、細胞組織は血管がないとせいぜい0.5mmの厚さにしか成長しません。医療目的で臓器を成長させる際には、これが問題として立ちはだかります。しかし、純肉(人工培養肉)の生産においては、厚さは問題には必ずしもなりません。

培養をすると細胞は0.5mm以上の厚みまで育つことが出来ないため、ステーキのような厚みのあるものよりもひき肉を培養するほうが容易である。筋肉組織はバイオリアクターの中で、表面積が広いビーズの上で育つ。筋肉組織が取り除かれるとき、それはハンバーガーの食感を有しているだろう。

細胞農業の利点

従来の手法と比較して、細胞農業は環境に対する負荷がより少なく、安全で純度の高い製品を、より安定的に供給することができます。これは製品が安全な滅菌状態の、制御された環境のなかで製造されるからです。

細胞農業のもうひとつの利点は、作るものをデザインし、調節できるという点です。たとえば飽和脂肪酸を減らし、不飽和脂肪酸を増やした肉をつくることもできるし、異なる厚みの皮革をつくることもできます。ラクトースのない牛乳や、コレステロールのない卵をつくることも可能です。

そんな細胞農業の利点やチャンスにもかかわらず、細胞農業は依然として概念や分野として認知されておらず、研究資金が不足している状況です。

畜産物生産の現状

現在、われわれが畜産物を大量生産する手段は、環境や公衆衛生、そして動物にとって深刻な脅威となっています。

環境への影響

●人為的な温室効果ガスの排出量の18%は、家畜の飼育によるものである。一方運送・輸送による排出量は全体の13%である。(注1)

●氷のない地表の26%が家畜の飼育のために使われている。これは全ての農耕地の7割に相当する。(注2)

●地下水の消費量の27~29%が畜産に使用されている。(注3)

●畜産は森林破壊、地盤沈下、水質汚染と砂漠化を助長する主要要因である。(注4)

公衆衛生への影響

●ウイルスの突然発生:感染性のウイルスは過密な家畜の飼育状況から発生する。世界中の人々を襲うブタインフルエンザやトリインフルエンザなども、畜産から発生したものである。

抗生物質への耐性:全ての抗生物質の80%が家畜に投与されている。これらは人間に使われているのと同じ抗生物質であり、耐性菌の出現の最大の原因となっている。

●食料汚染:実際全ての微生物汚染が引き起こす、食物に起因する病気は畜産に起因する。サルモネラ菌や大腸菌など食物が媒介するバクテリアは家畜廃棄物から生じ、果物や野菜と同様畜産物を汚染する可能性がある。

家畜生産物供給プロセスへの影響

不安定な供給:密集する動物の間で、病気が蔓延するスピードは大変速く、畜産農家に大きな損失を与える。たとえば2015年5月にアメリカ中西部で鳥インフルエンザが発生した際、4800万頭の鳥が殺処分され、アメリカの納税者は10億ドルを負担する羽目になり、卵の価格は2015年の5月から6月の間で。84.5%上昇した。(注5)

●不均質な供給:畜産物は常に品質管理がなされていなければならない。それは生産物が飼育環境や食事、動物の健康状態に左右されるからである。均質さを保つための多くの努力もむなしく、畜産物には膨大なさまざまな質の違いがある。

●安全性を欠く供給:食物の病原菌汚染による畜産物のリコールは、定期的起きている。食物由来の病気への対策として、アメリカでは年に1520億ドルもの費用がかかっているとされる。(注6)

動物への影響

2007年、FAOは560億の陸生動物が飼育され、食糧として屠殺されているという試算を出した。これらの動物の多くが工場の中で、大変劣悪な環境で飼育されている。その飼育の現状とは、以下のとおりである:

・厳格な監禁状態

・鎮痛剤を使用しない去勢

・獣医による治療や安楽死のない病気

・過密飼育による踏み付けや窒息

・生きたままの長距離輸送

・乱暴な屠殺方法

・不完全な屠殺手法

FAOは世界規模で、96億人分の食糧を得るために、2050年には畜産物が70%増加すると予測しています。しかし、さらなる大規模な畜産は、動物福祉の問題を深刻化させるばかりです。

家畜の飼育に関するこれらの影響や脅威、課題を考慮すると、地球規模の人口増加に対する食糧問題には、従来の畜産とは異なる方法を模索することが大変重要なのです。

細胞農業は地球規模の人口増加に対する食糧問題を解決するための安全で持続可能な方法なのかもしれません。

脚注

  1. Steinfeld, Henning (2006) Livestock’s long shadow: environmental issues and options. Rome: Food and Agriculture Organization of the United Nations.
  2. Ibid FAO (2006) and in FAO 2012 Report Livestock and Landscapes
  3. Hoekstra, Arjen Y. (2012) The hidden water resource use behind meat and dairy, Twente Water Centre, University of Twente, PO Box 217, 7522AE Enschede, the Netherlands
  4. Koneswaran, Gowri et al. (2008) Global Farm Animal Production and Global Warming: Impacting and Mitigating Climate Change. Environmental Health Perspectives. 116.5 (2008): 578–582. PMC. (retrieved 28 Apr. 2015)
  5. US Department of Labor statistics
  6. Hoffmann, Sandra et al. (2012) Annual Cost of Illness and Quality-Adjusted Life Year Losses in the United States Due to 14 Foodborne Pathogens, Journal of Food Protection®, Number 7, July 2012, pp. 1184–1358, pp. 1292–1302(11)

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本解説の原書は、細胞農業研究を支援するNPO、「New Harvest」によりご提供頂いております。

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