100年後を目指して
「面倒くさい方法で送ってきたものだな。2種類のややこしい暗号化、閲覧用サンドボックスを構築し、その上でブラウジングさせて」
「あー、いやサンドボックス上での言語も定義し、そこでもう一度復号し、それでディスプレイにデータを送らせた。ディスプレイのチップでもサンドボックと言語を定義し、それで実際に表示させていた。少し画像が読みにくかったと思うが、監視カメラ対策も両方でやらせていた」
「大昔のPostScriptプリンタでマンデルブロ集合を計算させた人だっているんだ。それくらいならな」
「かもしれない。だけど映像と音声のジャミングをさせてもらよ」
私はテーブルの上に4つのジャミングボックスを置き、起動させる。
「監視カメラは無いとしても、計算機に監視デーモンがあるかもしれない。計算機の方で画像を生成させると、それで読まれるかもしれない」
「それは否定できないな。君がそれだけの対策をとる必要があるだけの資料だとは思う」
「そうだな。例えば、クロマニヨン人も現代人もホモ・サピエンスだ。だが、骨格の頑丈さが明らかに違う」
「ならば、両者をホモ・サピエンスとにまとめるのは若干無理があるのかもしれない」
彼が目をつむる。額の前の窓に何かを思い出し、考えをまとめているのだろう。
「なぁ、現生人類はホモ・サピエンスという単一種だという根拠は何だと思う?」
「いや、違うね。政治の問題だ。 一回、科学的であれ政治的であれ、あなた方は『ホモ・サピエンス』ですと言ってしまったんだ。その後、その前提で世の中を回しているのは政治だ。それを今になって、あなた方は『賢い人』ではありませんでしたなんてことを言えるか?」
「いや、ホモ・サピエンスという種名はそのままだっていいだろう」
「だとしても、あなた方より進化した人類が現れましたと言えば、それをどう感じるかはおおよそ同じだろ?」
彼はソファーから立ち上がり、デスクからリーガルパッドとペンを取ってきた。
彼がボールペンで太く青い線を描き、その下にホモ・サピエンスと書いた。
「私としては、もう腹がいっぱいだよ。しかし、おおよその人間はどう考えるだろうね? 正直言って、既に自分達の価値 ―どういう価値かは知らないが― が、どんどん目減りしていると感じているんだよ」
「目減り? 何が目減りするというんだ。言うなら、話し合う仲間が増えてるだけじゃないか」
「そうは考えないさ。幸い、物理学者なんかは普通の人とは違うという類の認識はあるんじゃないかな。その辺りを利用するさ。時間をかけてね」
「4年だけじゃ無理かもしれないが。他のところでも何かできるだろうし、また戻ってくるかもしれないし。その頃にはもっと上の肩書になれるかもしれないからな」
「だが、そう上手くいくとは思わないでくれ。10年オーダーでは、ちょっときつい立場に置かれるかもしれない。だが、まぁ私には付き合える時間だろう」
「きつい時期もあるだろうさ。私と、ある友人は、当面は君に協力できる。できるだけ上手いことをやってくれ」
彼はリーガルパッドから二枚剥がし、丸めてポケットに押し込んだ。私はジャミングボックスを回収し、ソファーから立った。彼もソファーから立った。彼のIDカードには大きく”D.”と印刷してあった。
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