18年め

フィールド航法は、シミュレーションでは可能である。リアクタの開発も基本的にはできている。航法というほどのものではないが、ジェネレータも起動し、フィールドの移動ができることも確認済みだ。

今回は実際に機体を使う。特に重力圏からの離脱に関する性能および影響の調査のために木星の衛星軌道を周回した後に帰還することとなっている。

だが、不安なのは機体だ。予算と時間の制限から、旧式のロケットを使う。各段ごとに軌道エレベータで持ち上げ、軌道上にて組み立てる。リアクタとジェネレータが、3段目のみ―4段だろうと、5段だろうと―に収まらないからだ。逆に言えば、この実験では各段の切り離しはしない。

木星の衛星軌道上で、多段ロケットの形状で問題はないのだろうか? シミュレーションでは問題はないという結果が出ている。軌道上やその周辺で小片がぶつかったらどうなるだろう? ペラペラの外殻がどれほど役に立つだろうか?

単純な対策は、機体の外側からだろうと内側からだろうと外殻を補強することだ。それに意味がないとは言わない。だが、より大きな機体になった時にもそうするのか? どこまでの小片に対応すればいいのだろうか? 必要な工程ではあるが、おそらく根本的な解決にはならない。

右側の奥から声がする。壁面ディスプレイのスクリーンを後ろにスクロールし、その人が映るようにする。

「単純な発想しれませんが。機体をフィールドで包んだらどうでしょうか? フィールドは空間そのものを保持するので、機体の、謂わば構造維持フィールドとしても使えるのではないかと思うのですが」

私から左の後ろから声がする。スクリーンを前にスクロールし、その人を映す。

「フィールドは航行用の設計だったと思うが。それに原理的に球形に発生するようになっている」

先ほどの人が答える。

「フィールドは航行にのみ使うという制約はありません」

それはそのとおりだ。だが疑問がある。私が質問した。

「つまり、木星でもフィールドを保持し続けると?」

先ほどの人が答える。

「それでは構造維持フィールドとしては役に立ちません。そのフィールドに出入りできないのですから。かといって、フィールドを切れば衝突の可能性がある」

私はディスプレイを見渡す。皆、どうするのかを聞きたいようだ。

「以前、これはチートだろと思えるような方法でモノポールの実現の可能性を示した人がいます。それと似た方法で、フィールドを機体の形状に沿わせる事が可能です」

ディスプレイの中央奥から声が聞こえる。私はまたスクロールする。

「では外部の観測はどうする? それに今回の機体では使わないが、外部へのハッチの開閉をすれば機体の形状が変わるが?」

先ほどの人が答える。

「形状の変化については、機体の形状に沿わせる方法で対応できます。外部の観測については、実はそちらの方がチート的なモノポールの応用の根幹になります」

その人は、大量の資料を配信した。そして続ける。

「条件を設定して、フィールドを一方通行にできます。あるいは双方向でも割合を変えることも。それらを仮に変調と呼びますが」

配信された資料を検討するため、今回の会議は終了となった。


資料を検討し、また、他の人とも討議したが、配信された資料に誤りはないように思えた。

幸い、ジェネレータなどフィールド関連についての手直しは小さいものだった。

フィールド発生の試験においても、問題は発生しなかった。

そして試験機は木星に行き、そして還ってきた。


問題があったのは、試験機の帰還後だった。

計算機の記録を調べていたところ、フィールド航法を行なっている間の記録がおかしいのだ。いや、正確にはフィールドを使用している間は、多かれ少なかれ記録に異常がある。

記録の時系列がおかしい。場合によっては、映像や音声は複数の信号が合成されているようにも思える。

こんな状態で、よく還ってこれたものだ。


記録を解析した。

私たちは時間を手に入れたのかもしれない。

フィールド内では、フィールド発生前から続く―続くという言葉に意味があるのだろうか―1つの主時間が支配的ではあるものの、0個以上の副時間も存在している。これはフィールドの変調によって改善できるだろう。解決はできないとしても。

時間を意識しない者にとっては、おそらく眩暈程度のものだろう。だが、時間を意識する者にとっては?

結果がどうなるものであれ、いずれは試験を行なうように要請されるだろう。その時に選ばれるのは誰だろう?

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