32年め


「お父さん、先生がこれをお父さんに渡せって」

父親は封筒を受け取り、中の印刷物を眺めた。一枚の電子ペーパーが入っていた。父親は子供の学校に登録してるものと組になる鍵をバッジを近づけることで入力し、また読んだことを示す署名を行なった。

「あのカードか。お母さんはどう思う?」

子供も電子ペーパーを覗きこむ。

「これ、要らないや」

「まぁ、お母さんの意見も聞いてみよう」

父親が母親に印刷物を渡した。母親も同様にバッジを取り出し、読んだことを示す署名を行なった。

「家なら私かあなたが教えればいいことだから必要ないし。学校で、あった方が便利?」

両親が子供を見つめる。

「分からない。学校の図書サーバにアクセスできなくても、家でどこにでもアクセスできるから、今まで必要だと思ったことはないから」

「なら、欲しいと思った時に申請すればいいわね」

母親が手につける仮想キーボードを取り出し、その旨の返答を電子ペーパーに入力した。

「そうだ。今すぐどうするというわけではないが、私の方に文面を送っといてもらえるかな。それがあれば欲しいと思った時にすぐに貰えるはずだから」

母親は頷くと、手を電子ペーパーをの上にかざし、払うジェスチャーをした。


「お父さん、先生がこれをお父さんに渡せって」

父親は封筒を受け取り、中の印刷物を眺めた。一枚の電子ペーパーが入っていた。父親は電子ペーパーの下端からソフトウェアキーボードをプルアップし、パスワードを入力した。

「おぉ、これか。凄いじゃないか。お母さん、見てごらん」

「凄いわね。これは申し込まないといけないわね」

「私もお母さんも、やっぱり大したものなんだな。その証明だ」

両親とも喜びで笑みが溢れる。

「よし、お母さん返してくれ。申し込むって返事を入力するから。それにしても大したもんだな。同じクラス、いや今はクラスというのはないのか。知り合いだと他にもらった子はいるのか?」

父親は話しながら電子ペーパーのソフトウェアキーボードで入力した。

「一人だけ知ってる。あそこの子」

「そうか。あの子と同じというのは大したものだ」


翌々日は週に3日の登校日だった。朝、登校時に二人の子供が会った。

「申し込むっていうの書いてもらった?」

「ううん。要らないかなと思って」

「なんで? カードがあればいろいろ見れるんだよ」

怪訝な顔をしてもう一人の顔を覗き込む。

「うーん、家で教えてもらえるし、難しいページも見れるから」

「そういうの以外にも得なことがあるじゃん」

「あるけど、そんなに使うわけじゃないから。本の割引もあるけど、お父さんかお母さんに買ってもらえばいいし」

「余裕だよなぁ」

「何が?」

話しかけていた方が黙りこむ。

二人は黙って登校した。


学校で二人は担当教員に電子ペーパーを渡した。教員はすぐに確認すると、一人を呼び止めた。

「君、本当に要らないの?」

「はい」

「なんで? 優秀な人の証明なのよ?」

「うーん、優秀とかそういうのは興味ないので」

「確かあなたのご両親は… それなのに反対しているの?」

教員は子供の目を覗きこむ。

「両親が反対ということではなくて、僕自身がそれは要らないかなと思うので」

「ご両親はもらうように勧めなかったの?」

「はい。書いてあると思いますけど、欲しいと思ったらすぐに貰えるようですし」

教員は怪訝な顔をする。

「欲しいと思ってもすぐにもらえるものじゃないわよ。最低でも2年、テストで上位を取らないと。今回を断ったら、この2年の成績はクリアされて、もらえるのは早くても2年後よ」

教員はそこで何かに気づいた様子だった。

「あぁ、ご両親は二人ともバッジを持っていたのね。それならすぐに貰えるわけね。わかったわ」


教員会議にて。

「というわけで、彼の方は申請しないとのことです」

教員からの報告を聞き、校長が答える。

「片親がバッジを持っている場合も含めて、同じ例があるようですね。」

「これではしめしがつきません。バッジやカードの重みを自覚してもらわなければ」

「難しいところですね。先生方はバッジやカードの実際の目的を知っていますか?」

「優秀な人にいくばくかの優遇を…」

「まぁ、それは表向きの話で。人類にとって異質な人を見分けられるようにするためですよ。化物を野放しにするわけにはいかないが、かと言って檻に入れるわけにもいかない。そこで見えない檻を作っているのですよ。異質物を排除したいが、我々の文明はその異質物に依存している。矛盾ですね」

先の教員が苦虫を噛み潰したような表情で答える。

「ならなおのこそ徹底しないと」

「彼らは人類にとって異質だと言ったでしょう。人間の理屈を通そうとしても無理です。」

「ではもう一人の学生についてはどうなのですか?」

「フォルス・ポジティブでしょう。いや、テスト上位なのは確かですが、彼や彼の家族は人間だということでしょう」

他の教員が話す。

「異質ということは、もう明らかなことなのですか?」

校長がその教員の方を向き、頷く。

「絶対に口外しないでください。彼らをうまく利用していこうというのが、超国家的な合意ですから」

部屋を沈黙が支配した。

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