35年め


あの2人が高校に入学した年の夏。

「聞いたか? 俺達が大学受験する時から、このカードを持っていると合格が優先されることに決まったって」

「そうなんだ」

話しかけられた彼は興味なさそうに答えた。

「入学したときのテストでまた対象になったんだから、発行を申し込むんだろ?」

「テストの後で先生にも言われたけど、やっぱり申し込まないよ。その時にもそう話しただろ?」

「なんで? 大学入学の特典がついたんだぞ。テストの後とは状況が変わってるわけだし」

「受験はどうにかすればいいだけだし。親父の知り合いのF大学の先生の所で勉強したいと思ってるから」

話しかけていた方が怪訝な表情を浮かべる。

「F大学なんて行ってもしょうがないだろ。使える特権があるんだから使わないと損だろ」

「でもその先生がいるから」

話しかけていた彼は家であらましを話した。父親が答えた。

「大学を選ぶことの大切さを分かっていないんだろうな」

母親が答える。

「F大学って、合格率が高い大学でしょう? 何を考えているのか分からないわね」

父親が続ける。

「まぁテストでカード発行の有資格者になったとしても、ギリギリなのかもしれないな。その辺りを自覚しているのかもしれん」

「で、あの先生の所で勉強したいと思ってる」

父親が答える。

「あの先生の所で勉強するのは大変だぞ。やっていけるか?」

「そこは何とかするよ」

父親が天井を見ながら何かを考えている。

「ちょっと待てよ。あの先生は、お前が博士課程の途中くらいの年で定年になるはずだぞ。その後も残るかもしれないし、誰かが研究室を引き継ぐかもしれないが」

「え?」

「そういう事は考えていなかったのか?」

「考えていなかった。でも修士までは勉強できるんだよね。それなら、それまででもそこで勉強したいな」

「まぁ誰かを紹介してくれるかもしれないし、他の面白い先生と知り合いになれるかもしれないからな」

「いざとなったら親父の所へ行くよ」

「全く関係がないとは言わないが。やってることはまるで違うぞ?」

DNAプログラミングだろ? 人工細胞。爺ちゃんがミトコンドリアの研究してて、そういうのに興味を持ったって言ってたじゃん。で爺ちゃんのやってたこととかも見て、そっちも面白そうだとは思ってるから」

翌日、彼は面談室に呼び出されていた。最後に教員が聞く。

「大学入学の件は知っていて、それでもカードは申し込まない。本当にそれで構わないんだな?」

「はい」

教員は額に手を当て、しばらく黙り込んだ。

「本当は話してはいけないのだが。君は州内でテストの順位が2位だぞ。1位の学生は除外して考えていいと思う。誰なのかは言えないが、その学生は遺伝情報を修正されているからな。正直、君に申し込んでもらわないと制度の維持や意義がちょっとな」

「んー、そういうのはどうでもいい事なので」

「どうでもいいって事はないだろう。君たちを優遇する制度なんだから」

「だからそういう制度とかそういうもの自体がどうでもいい事だと思ってるので」

「できることではないが、仮に、申請するように命令したとしたら?」

「規則も命令も、意味が無い事ですから。軽蔑… いや違うな。先生の存在は無意味と考えるでしょうね」

全国規模の教育制度についての会議がオンラインで催された。その資料には、テストの結果によるカード所有の有資格者の中での成績上位者がカードを申し込む率が、有資格者中の中位から下位の者が申し込む率よりも有意に低いことが記載されていた。上位者が申し込まない理由は、揃いも揃って「制度、規則などの外部プログラムは無意味」というものだった。

カードの発行を、テスト結果に基づく申請ではなく、強制とすることを議論することとなった。

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