群ロボットを自分の身体の一部であるかのように感じるか調査した研究がCHI 2024に採択されました

Shigeo Yoshida
OMRON SINIC X (JP)
Published in
Apr 5, 2024

オムロン サイニックエックス(OSX)の吉田です。群ロボットを自分の身体の一部であるかのように感じ、扱うことができるかを調査した研究がHuman-Computer Interaction(HCI)分野のトップカンファレンスであるCHI 2024(採択率26.3%)に採択されました。

本成果は、インターンの市橋爽介さん(ジョージア工科大学)とプロジェクトリサーチャーの黒木颯さんとの研究によるものです。

Sosuke Ichihashi, So Kuroki, Mai Nishimura, Kazumi Kasaura, Takefumi Hiraki, Kazutoshi Tanaka, and Shigeo Yoshida. 2024. Swarm Body: Embodied Swarm Robots. In Proceedings of the CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ’24), May 11–16, 2024, Honolulu, HI, USA. ACM, New York, NY, USA, 19 pages. https://doi.org/10.1145/3613904.3642870

「群ロボット」は、アリの群れのように多くの個体が共に一つの目標を達成する形態のロボットシステムのことをいいます。本研究では、群ロボットを用いて身体部位(今回は手のみに着目)を表現するシステム「Swarm Body」を構築し、群ロボットを自分の手のように感じながら操作できる可能性を示しました。詳しい内容は論文や下記の映像をご覧ください。

本稿では、第一著者である市橋さんに本研究の解説を行っていただきます。

身体化

「どこまでが自分の身体でどこからが外の世界なのだろうか?」

この疑問へ答えるのは容易なことのように思われます。ですが、箸で料理をつまむ、ラケットでボールを打ち返す、乗り物を運転する、といった状況において、自分の身体と道具との境界を曖昧に感じるときがないでしょうか。適切な条件下において、人は道具をあたかも自分の身体の一部や延長であるかのように感じることができ、これにより道具の直観的な操作を可能とします。こうした状態を道具の「身体化」と呼びます。

身体化は、バーチャルリアリティ(VR)のアバター操作において重要な概念でありつつ、重機の操作にもその考え方が応用されつつあります(例えば、手でものをつかんで持ち上げる動作に合わせて、重機が部材をつかんで持ち上げる)。重機の身体化は、繊細かつ直観的な動作が可能な人の身体を、重機の大きさやパワーで拡張するものだと言えます。このように、身体化技術は私たちに新たな身体特性・能力を与えてくれます。

私たちは、どのような身体を手に入れたいか考えました。パソコンやスマホの画面は、ピクセルの光という単純なものの集合で様々な情報を描き出します。では、ピクセルの代わりに、たくさんの小さなロボットで身体ができていたら、目的や状況に応じて、自在に身体の形状や動きを変化させられるのではないでしょうか。これが本研究のアイデアです。

本研究では、群ロボットを用いて人の手を表現するシステム「Swarm Body」をVR環境と実環境において構築し、群ロボットを自分の手のように感じながら操作できるかユーザ実験を通して調査しました。

群ロボットによって手を表現するシステムの開発

操作者の手の形・動きを群ロボットで表現するシステムをVR環境および実環境で構築しました。

まずは、手の形・動きに応じた群ロボットの制御を実現するフレームワークを開発・実装しました。このフレームワークでは一定時間ごとに、(1) まず手の形・位置に応じていずれかのロボットが行くべき位置を決め、(2) どのロボットがそこへ行くのか決め、(3) 最後にロボットたちがぶつからないようにそこへたどり着く移動経路を求めます。

手の形・動きに応じた群ロボットの制御を実現するフレームワーク

また、(1) のロボットが行くべき位置の設定方法には、手の骨格情報に基づいたもの(ボーン)と、手の外形情報に基づいたもの(シルエット)とを用意しました。

上:ボーンアルゴリズム、下:シルエットアルゴリズム

実環境での実験のために、高速で移動可能な二輪小型ロボットを、VR環境での実験結果に基づき開発しました。このロボットは、株式会社カラクリプロダクツクラスター株式会社 メタバース研究所と共同で開発しました。

開発したロボット

VR環境・実環境でのユーザ実験

VR環境において、ロボットの大きさ・密度(群を構成するロボットの数)・制御アルゴリズム(ボーン・シルエットなど)でどのように身体化度が変化するか調べました。実験参加者は、いろいろな手の形に合わせるように群ロボットを移動させる動作を繰り返したあと、身体化度に関するアンケートとインタビューに応えました。

その結果、ロボットの大きさに関わらず、群ロボットを身体化できることがわかりました。また、シルエットアルゴリズムよりもボーンアルゴリズムのほうが、より群ロボットを手のように感じる傾向が判明しました。

この結果を参考に、実環境においてもロボットの密度・制御アルゴリズムがどのように身体化度に影響するか調べました。その結果、実機でもボーンアルゴリズムのほうが高い身体化度につながることが示唆されました。

VR環境での実験
実環境での実験

群身体「Swarm Body」の応用

Swarm Bodyの応用先として、遠隔コミュニケーション・コラボレーションでの利用が考えられます。Swarm Bodyを使うことで、遠隔地の人や物に対して身体性を伴って物理的に働きかけることができます。

左:ジェスチャ、右:触覚コミュニケーション

さらに、群である利点を活かすことで、遠隔の人物がロボットアームや人型ロボットを操縦する、これまでのロボット遠隔コミュニケーションとは異なる表現が可能です。例えば、操作する手が増えたら群を分割したり、対象や目的に合わせて手の大きさや形状を変化させたり、人の身体に群ロボットの持つ柔軟性や拡張性を付与することができます。

左:分割、右:手の大きさ変化

おわりに

本研究では、多数の個体から成る群の要素を持つ身体システムとしてSwarm Bodyを提案し、ロボットの大きさや密度、制御アルゴリズムが身体化度へ与える影響を調査しました。本研究が、人類が自己の身体形状・動作を変幻自在に操る未来への第一歩となることを期待しています。

インターン募集

最後に、OSXでは実社会で人々と協調・共存して活動する機械の実現を目指し、自然言語処理や機械学習、コンピュータビジョン、ロボティクス、HCIに関する基礎研究を継続していきます。弊社でのインターシップにご興味のある方は、インターン募集ページ(通年)をご確認ください。皆様のご応募をお待ちしています。

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