3Dフードプリンタで印刷したチョコレート片の形状と味覚の関連性について調査した研究がFrontiers in Psychologyに採択されました

Shigeo Yoshida
OMRON SINIC X (JP)
Published in
Jun 15, 2023

オムロン サイニックエックス(OSX)シニアリサーチャーの吉田です。

3Dフードプリンタで印刷したチョコレート片の形状と、それを食した際の味の感じ方の関連性を調査した研究がFrontiers in Psychologyに採択されました。

本成果は、インターンの緒方胤浩さん(当時は京都工芸繊維大学)とインターンの額見怜央さん(京都大学)との研究によるものです。

Kazuhiro Ogata, Reo Gakumi, Atsushi Hashimoto, Yoshitaka Ushiku, and Shigeo Yoshida. 2023. The Influence of Bouba- and Kiki-like Shape on Perceived Taste of Chocolate Pieces. Frontiers in Psychology, Vol.14, June 2023. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1170674

本研究では「感覚間協応」と呼ばれる、異なる感覚間の相互作用(本研究の場合は「味覚と視覚・触覚」)を利用することで、同じ素材・量で作成したチョコレート片であっても形状の違いによって味の感じ方を変えられることを明らかにしました。詳しい内容は論文を参照してください。

感覚間協応

「明るい声」や「暗い声」というように、視覚や聴覚などの異なる感覚において、人間は自然な結びつきを感じることがあります。このような、異なる感覚の間の非恣意的な連想関係のことを「感覚間協応」と呼びます。

感覚間協応の有名な例として「Bouba-Kiki」が知られています。以下の2つの図形に対して「名前をつけるとしたら、どちらがブーバ(Bouba)で、どちらがキキ(Kiki)か?」という質問をすると、多くの人は左がキキで右がブーバであると回答します。

引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%BC%E3%83%90/%E3%82%AD%E3%82%AD%E5%8A%B9%E6%9E%9C#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Booba-Kiki.svg

Bouba-Kikiのような効果は形と音だけにみられるものではありません。匂いや味に対しても、複数の人の間で一致した連想関係が見られることがわかっています。

例えば、ある匂いを嗅いでもらいその匂いが「ブーバ」と「キキ」のどちらか答えてもらうと、酸っぱい系の匂いを「キキ」、甘い系の匂いを「ブーバ」と答える傾向にあることがわかっています。また、味を示す単語についてブーバとキキ、どちらを示すか答えてもらった場合、酸っぱい味を「キキ」、甘い味を「ブーバ」と答える傾向にあることがわかっています。

一方で、味から想起する形状や、形状から想起する味ではなく、ある形状(例えば、Bouba-Kikiを表す形状)の食品を実際に食した際に感じる味について調べた研究は限られています(*1)。

本研究では、我々の身近な食品でかつ、苦味・甘味・酸味など多様な味を含む「チョコレート」を対象に、チョコレート片の形状とそれを食した際に感じる味の関係を明らかにする実験を実施しました。

*1 ちょうど本研究の実験準備をすすめているときに、Bouba-Kiki形状のゼラチンを食べて味の感じ方を評価する研究が公開されました。

3Dフードプリンタを用いたブーバ・キキ形状のチョコレート印刷

この実験を実施するには、形状の異なるチョコレート片を、実験参加者が食べる分だけ大量に製造する必要があります。

そこで、本研究では「3Dフードプリンタ」を活用することにしました。3Dフードプリンタは食品を扱うことができる3Dプリンタのことで、ペースト状の食品を細いノズルから押し出して層状に積み上げていくことで、任意の形状・構造の食品を印刷することができます。過去のBouba-Kikiに関する研究を参考に、3Dフードプリンタを用いて4つの異なる形状のチョコレート片を印刷しました。

本研究で使用したチョコレート片。ハイフンに続くアルファベットは対称(S)、非対称(A)を意味し、数字は要素の数(本研究では6または10)を意味します

我々が印刷したものと同様の3Dモデルはgithubにおいてあります。

実食・実験

実験参加者には4種類のチョコレート片を順に試食してもらい、それらのチョコレート片の味に関するアンケートに回答してもらいました (n=24)。

実験手順

ベイズ分析により、ブーバ形状のチョコレート片は、キキ形状のチョコレート片よりも甘く感じられることが判明しました(p(Bouba-A6 > Kiki-A6) = 98.7%p([Bouba-A6, Bouba-S6] > [Kiki-A6, Kiki-A10]) = 90.0%)。しかし、酸味や苦味に関する評価に差は見られませんでした。

i行目のチョコレート片がj列目のチョコレート片より甘いと感じられた確率

おわりに

本研究は、摂取する食品の形状が味覚に影響を与えることを示すともに、3Dフードプリンタが新たな味覚体験をデザインできる可能性を示しました。

この研究以外にも、OSXでは人が持つ知覚・認知の性質を活用したシステムの研究・開発(e.g., 感覚間協応を利用した楽器練習支援システム)を行っており、人に対する理解のもと、人と機械が融和する未来をデザインしています。

インターン募集

OSXでは、実社会で人々と協調・共存して活動する機械の実現を目指し、自然言語処理や機械学習、コンピュータビジョン、ロボティクス、ヒューマン・コンピュータインタラクション(HCI)に関する基礎研究を継続していきます。弊社でのインターシップにご興味のある方は、インターン募集ページ(通年)をご確認ください。皆様のご応募をお待ちしています。

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