ICRA2023 に触覚に基づく脆弱物体把持メタ学習の論文が採択されました。

Kazutoshi Tanaka
OMRON SINIC X (JP)
Published in
May 23, 2023

ロボティクスと自動化に関する国際学会ICRA2023に学習に食材を使わない脆弱食材の把持学習に関する以下の論文が採択されました。オムロン サイニックエックスと慶應義塾大学斎藤英雄研究室との共同研究成果です。筆頭著者の矢川さんが以下の解説を書いてくださっています。図表は論文より引用。

[プロジェクトページ]

Learning Food Picking without Food: Fracture Anticipation by Breaking Reusable Fragile Objects, Rinto Yagawa, Reina Ishikawa, Masashi Hamaya, Kazutoshi Tanaka, Atsushi Hashimoto, Hideo Saito

背景

ロボットによる壊れやすい食材の把持は未だに困難な課題として残っている。先行研究では、一般的なロボットグリッパに触覚センサを取り付けて対象食材の破壊データを収集し、そのデータから食材の破壊を予測して把持を行っている。しかしこの研究には、食材ごとにモデルの学習が必要であり、テストする食材が増えれば更なる学習のために望ましくない食材の消費が発生してしまうという問題がある。そのため、本研究では様々な食材を把持できる汎用的なモデルの学習を目指した。

研究概要

本研究の目的は、豆腐やバナナなどの脆弱食材を壊さずに把持することである。先行研究と同様に、食材の破壊を予測して、少し先の未来で破壊が予測された場合にはグリッパの動きを止めて把持を行う。本研究の貢献点は、食材の代わりに壊れた後にもとの形に戻すことができる再生可能物体を破壊して学習データを収集した点、そして食品把持タスクに対してメタ学習によるドメイン汎化手法を適用した点である。

再生可能物体

本研究の大きな特徴である再生可能物体(2種類のトイブロック、ゼラチン、ピンポン玉)は、対象食材(2つの形状の豆腐、バナナ、ミニトマト、ポテトチップス)と似たような破壊特徴を持つ物体を選択した。グリッパを閉じたときに豆腐、バナナ、ゼラチンは潰れ、ポテトチップスとトイブロックはパキっと割れ、トマトとピンポン玉は亀裂が入るように壊れる。このように、テスト食材とある程度似た特徴を持つ再生可能物体を学習データとして選択することで、食材でなくとも破壊を予測できるようになることを期待した。

メタ学習によるドメイン汎化手法

本研究では学習データとして再生可能物体の破壊データを使用し、テストデータとして食材を用いた。そのため、学習データとテストデータの分布が一致しないドメインシフトという状況にある。そこで、モデルが様々な物体に共通する破壊の特徴を学習して、それを食材にも適用できることを期待して、メタ学習によるドメイン汎化手法を採用した。本研究では、異なるドメインはトイブロック、ゼラチン、ピンポン玉というオブジェクトカテゴリの違いを意味する。

実験結果

本研究では、豆腐(横長)、豆腐(立方体)、バナナ、ミニトマト、ポテトチップスの5つの食材に対して実機を用いた食材把持実験を行った。再生可能物体の破壊データを学習データとして用い、メタ学習によるドメイン汎化手法を適用した結果、豆腐(立方体)、バナナとポテトチップスは95%以上の把持成功率を示した。豆腐(横長)は65%、ミニトマトは80%の成功率を示した。一方、メタ学習を用いない場合、豆腐(横長)の成功率はわずか5%だった。

解説動画(英語)
プレゼンテーション動画(英語)

展望

本研究では学習に食材を使わない脆弱食材の把持を実現した。ただし、最適な再生可能物体の選択方法については議論が行われていないため、今後の展望としてこれを考慮する必要がある。

最後に

この場を借りて、共同研究者でありOMRON SINIC Xの濱屋さん、田中さん、橋本さん、そしてインターン生であり研究室の先輩でもある石川さんに、多くのサポートをしていただいたことに感謝申し上げます。皆さんの協力がなければ、この研究を論文として国際学会に投稿することはできませんでした。心から感謝しています。ありがとうございました。

矢川さんの解説は以上です。オムロン サイニックエックスでは、通年で研究インターンを募集しています。ロボットマニピュレーションの他にも、画像処理、自然言語処理、経路計画など、様々な分野の研究テーマがあります。以下のリンクから応募できます。学生、院生、若手研究者の皆様のご応募をお待ちしています。

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