帚木(伝説の木) × ニキータ・アレクセーレフ 「ちかく・とおく・ちかく」

ニキータは、1960年代から日本に傾倒したロシアの老紳士である。今回初めて日本に訪れた彼に出会った時、その穏やかな物腰と裏腹な鋭い眼光が特徴的だった。大町を案内しながら、「帚木(ははきぎ)」の話を聞く。信濃(長野県)と美濃(岐阜県)の境界に位置する神坂峠に存在した、 遠くからはあるように見え、近づくと消えてしまう、という源氏物語などの日本古典文学に登場する伝説の木で、「到達できないもの」というイメージと共に彼の制作テーマになっているそうだ。僕はコーディネータ-の鴻野さんと一緒に、大町から帚木の痕跡を求めて神坂峠へ車を走らせた。

園原のインターチェンジを降りて、神坂峠へと向かう途中で車を停め周りを見渡すと、険しい山道の入り口に帚木の文字。杖をついて歩くニキータには登れない山道で、彼を近くの滝見台に残して歩き始める。少し登ると落雷にうたれて朽ちた帚木の痕跡をみつけた。奇跡や運命という言葉に近い空気の密度を感じながら、ここまで来ることができないニキータに渡そうと、帚木の欠片を拾う。ニキータは信濃側の絶景を望む滝見台で待っていて、その欠片を渡した瞬間、彼の表情から「到達できないもの」への想いが自分に流れ込んできて、胸がいっぱいになった。

今回、彼は「ちかく」か「とおく」と書かれた108枚のドローイングを、自らの種を撒くように大町の商店街に貼って歩いた。それらのドローイングを町でみつけると、すでに十分手が届くような距離に対象があるようなドローイングに「とおく」と書かれていたり、対象すら定められない草原の風景に「ちかく」と書かれている。一体何に到達するまでの距離なのか、自分の現在地点すらわからなって、またふと、彼に欠片を渡した時の感覚が蘇った。

ニキータ・アレクセーレフ 「日本についての書簡」文責:鴻野わか菜

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