芸術祭 5つのフェーズとその課題
現実を揺さぶる事から、面白い事が生まれる。
そう思って、実現するというミッションへ邁進した今回の北アルプス国際芸術祭。その記録として、撤収までの期間を「探す、繋げる、創る、お披露目、終わる」という5つのフェーズに分類し、その課題を書き留めてみる。
・探す
-実現に必要な、アーティストや場所、賛同者、スポンサーを探すこと。
課題1:サイトリサーチ
課題2:作家リサーチ
課題3:スポンサーリサーチ
課題4:計画書作成
感想
猿を追いかけて大町中をドライブしていた2年間、そしてNPO法人ぐるったネットワーク大町で地域について学んだ2年間の経験を基に、大町市を5つのエリアに分けてそれぞれのテーマを設定したり、参加候補作家を妄想した。そして、地域の理解者を募るためにシンポジウムや勉強会を行い、スポンサーを見つけるために文化庁の上位構想を読み込んで、グローカル事業の大義名分を盛り込んだ企画書を書いた。
2014年に開催した「信濃大町 食とアートの廻廊」の反省を含め、2017年の芸術祭に腹を括ったとはいえ、行政との関係性や、それに伴う公的事業としての責任、芸術祭開催への批判にはそれなりに神経が磨り減った。でも、思い返えせばそれによって様々な視点に気づき、自分の進んでる方向を自覚した。また、反対派の存在はバネの様にそれ以降のフェーズで面白い影響を及ぼしたと感じている。
・繋げる
-場とアーティストが出会う。
課題1:作家の独自性をどう活かすのか
課題2:場所の独自性をどう活かすのか
課題3:作家と場が出会う瞬間にどう立ち会えるか
感想
AFGの現地スタッフとして、今回参加している多くのアーティストが、初めて大町と出会う機会をコーディネートさせてもらった。大町の風土、地勢、歴史を紹介しながら、アーティストがどんな世界認識で今を生きて、大町にどんな印象をもったのか話せたことが収穫。どんな場所にも様々なレイヤーが潜んでいる。それぞれのアーティストが独自の視点とスタイルで「場」を認知し、物理的、予算的、技術的な制約の上で、何を創るか考えながら地域を巡る。あらゆる種類の情報が閃きのきっかけになりえるし、すべての情報はアイデアの邪魔になる可能性もある。そういう無常さ、瞬間の中に、場が立ち上がる可能性があるんだと思う。ある作家が高い集中力で場と対峙しはじめた時、見えない場の力と交信しているのを肌で感じて、その人が何を作るのかとても楽しみになった。
・創る
-作品製作
課題1:作家とのコミュニケーション
課題2:地域理解
課題3:現場管理
課題4:サポーター/業者とのコミュニケーション
感想
妄想と不安の間で揺れる準備期間を経て、2017年の雪解けとともに始まった制作フェーズ。今までの苦労が報われた、と思えるほど面白かった。アーティストが現地に入り、地域のサポーターや施工業者と一緒に作品を立ち上げていく。観念の遊びではなく、実際に一緒につくることによって共感すること。調整も段取りも未熟な自分にととやかく言いつつ、受け入れてくれた人達にとにかく感謝。この「創る」喜びや苦悩、創意工夫と達成感が、アートの存在価値だとさえ思った。
・お披露目
-芸術祭開催期間
課題1:広報
課題2:導線(公共交通機関、駐車場、食事処)
課題3:地域でのおもてなし体制
課題4:作品のメンテナンス
感想
有難いことにテレビ、新聞、雑誌などの様々なメディアに取り上げられ、2万枚を超えるパスポートが売れ、全作品延べ人数45万人を超える来場者が芸術祭をきっかけに大町市を訪れた。運営主体の事務局や地元のボランティア、動員の市役所職員のおもてなしは連日の来訪者対応で鍛えられ、町全体で祭の雰囲気を醸しはじめていたと思う。周遊方法であるスタンプラリー形式の良い点は、ツアー化できる余力を残しつつ、それぞれの鑑賞者が旅をするように自由に周遊できること。逆に残念なのは、スタンプラリーを埋めるために、それぞれの作品の鑑賞時間が短くなってしまうこと。ある場所に立ち止まり、感覚をひらくチャンスをどう伝えられるのか、考えさせられた。
・終わる
-どう評価し、次につなげるのか
課題1:記録
課題2:評価基準の設定
課題3:次回の計画
感想
芸術祭が終わり、作品撤収もほぼ完了した。9月の市議会で芸術祭を続けるかどうか議論されるはずなので、静かに見守っていこうと思う。行政主催の公益事業として芸術祭を成立させるための様々な目標は、多くの人を巻き込むことで、様々な人がアートに関わるチャンスになる。経済効果や交流人口という視点だけではなく、そこで起こる現象をどう面白がり、どんな変化のきっかけにするのか、そのための意志がポイントだと思う。