Liquid Proof-of-Stake 日本語訳

Spenge
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11 min readJun 28, 2020

※この内容は、Liquid Proof-of-Stakeの内容を弊社が独自に翻訳したものです。

テゾスではトークンの所有者が所有権を移すことなく、他のトークンの所有者にバリデーション権を移転(「委任」)することができます。このため多くの人々に、テゾスでのコンセンサスメカニズムをEOSやLiskに特有の委任型Proof-of-Stake(「dPOS」)モデルと混同させます。dPOSでは、ネットワークコンセンサスのために固定されたブロックプロデューサー(つまり、委任先)の選出が必要となります。テゾスでは委任先の選出は任意となっています。私は、テゾスのコンセンサスメカニズムを「Liquid Proof-of-Stake」または「LPOS」と呼ぶことを提案します。LPOSは動的なバリデーターセットを維持し、トークン所有者の調整と責任のあるガバナンスを促進することを目的としています。

テゾスでベーキングする

ビットコインでは、マイナーのブロックを公開する権利が暗号パズルを解くことで決定されるのに対して、テゾスでは、Proof-of-Stakeと呼ばれる仕組みで、ステーク量に基づいてブロックを公開(生成)する権利が割り当てられます。各ブロックは、無作為に選ばれたステークホルダーによって生成(「ベーク」)され、他の32人の無作為に選ばれたステークホルダーによって裏書き(「エンドース」)されます。

ビットコインと同様に、Tezosではインフレ傾向のブロック報酬と取引手数料を使用して、バリデーター(テゾス用語では「ベーカー」)がコンセンサスに参加するように動機付けをします。ブロック作成時の誠実な行動を促すために、テゾスではベーカーに数週間の保証金の預託を義務づけます。もしもベーカーが明白にダブルベークやダブルサインブロックをしようとした場合、この保証金を没収されます。

ベーキングに興味のないトークン所有者は、トークンの所有権を移転することなく、ベーキングする権利を委任することができます。「It’s a baker’s life for me」の記事でも説明されています。

トークンを持っている人全員がベーカーになりたいと思っているわけではないので、トークンは他の人に「委任」することができます。委任された側は決してトークンを所有したり、管理したりすることはできません。特に、トークンを使うことはできません。しかしながら、これらの(委任された)トークンのうちの1つがブロックをベークする権利に選ばれた場合、その権利は委任された側に帰属します。

しかし、マイナーがすべてのインフレ傾向のブロック報酬を獲得するビットコインとは異なり、テゾスの委任先もインフレ傾向のベーキング報酬を委任者と共有した上で競争します。委任の有無に関係なく、すべてのテゾスのトークン所有者は、年率5.5%のインフレによって希釈化される事を避けることができるので、より多くの連携を促します。

委任型Proof-of-Stake(dPOS)

テゾスは委任を許可するため、そのコンセンサスメカニズムは委任型Proof-of-Stake、または「dPOS」として呼ばれてきました。このため多くのユーザーはテゾスのProof-of-Stakeを、EOS、BitShares、TRON、ARK、Lisk*が使用している特定のコンセンサスメカニズムと混同しています。

標準的なdPOSモデルでは、ブロックプロデューサまたは「参考人」(すなわち、EOSでは21人のブロックプロデューサー)への委任はテゾスのようにオプション選択権ではなく、ネットワークコンセンサスのための要件となっています。

コンセンサスのためにdPOSを使用する理由として、一般的に、ブロックチェーンに基づくdAppsを主流に採用するには、スケーラビリティが主な障害になるという考えに由来しています。あるいはEOSの文書の言葉では次のようになります。

EOS.IOソフトウェアでは、分散型アプリケーションの柔軟なスケーリングを可能にするように設計された新しいブロックチェーンの構造を導入しています。毎秒数百万のトランザクションにスケールし、分散型アプリケーションの迅速で容易な配置を可能にするブロックチェーンの構造です。

dPOSの発明者であるDan Larimer氏は、EOSのdPOSにビザンチンフォールトトレランスを追加することによって、1秒未満で99.999%のファイナリティを達成できると主張しています。

言い換えれば、dPOSによって、(イーサリアムにおけるCryptoKittiesのように)デジタルの猫の群れが自身のNFTでワールドコンピューターを混雑させることのない時代が最終的にやってくるかもしれないということです。

このような少数のブロックプロデューサーの誠実さと責任を維持するために、dPOSプロトコルではブロックの公開と検証を行う委任者を選出する投票を継続的に実施しています。

EOSでは、トークン保有者は21人のブロックプロデューサーと100人の予備のブロックプロデューサーを選出し、2分ごとに結果を計算します。Liskでは、トークン所有者は常に101人の委任者を選出します。dPOSプロトコルにおける投票権は、通常、トークン所有者のステーク量に比例しています。

Larimer氏は、マイニング活動がかなり中央集権的になっているビットコインやイーサリアムと比較して、dPOSもより大きな分散化を実現していると主張しています。ステークに比例してベーキングする権利を割り当てるテゾスとは異なり、dPOSは活動的なブロックプロデューサーの中でブロック生成権を平等に分割します。Sybil攻撃や企業連合のリスクはさておき、最も投票された21番目のバリデーターは、技術的には最も人気のあるブロックプロデューサーと同じだけの発言権があります。

また、バリデーター数が固定されているため、dPOSではブロック生成を促進するためのより低いインフレが要求されます。年率5%のインフレのうち、EOSはブロックプロデューサーに1%しか割り当てておらず(予備のブロックプロデューサーに割り当てられる)、その他の4%は、ネットワークの公共財に資金を供給することを目的とした、オンチェーン資金に割り当てられています。

バリデーターの設定を21または101ノードに設定し固定することは、意欲的なブロックプロデューサー間の競争を激化させますが、コンセンサス参加への参入障壁にもなります。結局のところ、EOSの計画では、毎秒数百万件の処理のスケールが計画されており、どのブロックプロデューサーも重要なインフラへの要求を満たす必要があると思われます。EOSのブロックプロデューサーリスト全体が、現代のビットコインのマイニングの規模にまで専門化される可能性が高く(またはビットコインマイナー自身でさえも)、初期のビットコイン時代のGPUマイニングとはかけ離れたものとなっています。

Liquid Proof-of-Stakeに向けて

しかし、dPOSとは異なり、委任はテゾスのProof-of-Stakeの顕著な側面ではありません。このプロジェクトでは、分散化、調整およびセキュリティをすぐにスケーリングする以上に中心となる優先事項としており、スループット(現在は~40tps)は慎重に向上させることになっています。

実際、テゾスのProof-of-Stakeは、dPOSというよりも「Proof-of-Stake、ただし委任もできる」というものです。この混同を解消し、テゾスのProof-of-Stakeをより良く説明するために、私はテゾスのコンセンサスメカニズムを「Liquid Proof-of-Stake」または「LPOS」と呼び始めることを提案します。

ベータネットの立ち上げから数週間で、テゾスは委任者の数が急速に増加し、Cycle15では411人のベイカーがベイクしています。しかし、下の図が示すように、委任先業者は手数料、支払い頻度、評判、その他の指標に基づいて競争しているため、すでにいくつかの解約が発生しています。

テゾスでは、委任先の不正行為(すなわち、報酬を支払わないなど)はすぐに発見される可能性が高く、コミュニティは高額な手数料を請求した委任先業者をすぐに罰します。トークンの所有者は、委任先を変える際のコストが少ないため、委任先に緊張感を持たせ、協調性を促すことができます。

テゾスのベーキング分布、サイクル1から15まで

このプロトコルは最終的に、2017年の基金調達で作成された中央値のtez(2,332 ꜩ)保有量よりも、ベークするために必要な量が少なくなります(例えば、現在の8,000 tzの代わりに2,000 ꜩなど)。これは多くの数千人のユーザーにベーキングの実行可能な道筋を提供しています。

インフラストラクチャーへの取り組みは、BakeChainのような、「取引し、忘れる」ベーキングハードウェア(「簡単なベークオーブン」?)、そして、おそらくいつかはモバイルで動くベーカーは、ベーキングする際のコストをさらに減らすかもしれません。

オンチェーンガバナンスとの関係

このすべてにおいて、特にオンチェーンガバナンスが重要になります。なぜならばコンセンサスの参加者は、テゾスでのプロトコルアップグレードの意思決定者だからです。ベーキングする権利を委任するトークン所有者は、投票する権利も委任することになります。

このトピックに関して、オンチェーンガバナンスは集中的な利害関係に支配される定めであることを警告する有名なブログ記事には事欠きません。そして、Liskにはこの効果を示す真の証拠があります。しかし、ユーザーはバリデーター数が固定されたdPOSプロトコルの経験を直接テゾスに当てはめようとしてます。テゾスが異なる優先順位に基づく異なるモデルを特徴としていることに気づいていません。

これは強力な投票連合が生じなかったり、取引所のような大規模な法人がテゾスの重要なステークホルダーにならないと言っているわけでもありません。しかし、もっとも重要なことは、トークン所有者とユーザーが協調して権力を再編成し、集中した利害関係者に責任を負わせることができるかどうかということです。Liquid Proof-of-Stakeは 、動的なバリデータ数を維持するための参入障壁を十分に低くし、確保するよう促進するべきです。

しかし、infosecと同様に、責任のあるガバナンスは、絶対に「解決」できない挑戦です。

あるいは、ベーキングと投票する権利を分離して、コンセンサスとオンチェーンガバナンスのつながりを緩めることも考えられます。これは、ユーザーがベーキングする権利をある法人に、また投票する権利を別の法人に委任する可能性があるため、強力なデフォルトに変更する必要があるかもしれません。他のすべての潜在的な妥協点は言うまでもありません。しかし、これは興味をそそる研究分野であり、当然のことながらその後のミディアムの投稿を必要としています。

注釈

[*]異なるdPOSプロトコルの間で微妙な違いがありますが、それらは通常はBitsharesによって最初に世界で導入された固定されたバリデーターセットモデルに従っています。

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