難民危機:未来のためのイノベーションを共創する
亡命者のクリエイティブな能力を解き放ち、彼らが今置かれている状況の意思決定プロセスに関与させる
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世界は今、第二次世界大戦以来の難民増加の動きを見せている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のレポートでは、2014年末までに、5,959万人がその意思に関わらず家を追われ、3,820万人が国を追われ、1,950万人が住む場所を追われ、180万人が亡命者となっているー言い換えれば、122人に一人が戦争・迫害・暴力によって土地を追われていることになる。
ヨーロッパや中東での何百万もの難民の流入を止める動きに関しては、状況打破に向けて関係各所が努力を続けている。特に、NPOや慈善団体の働きかけにより、漸進的に改善へと向かっている。彼らは、社会的・心理的なサポートを難民に提供し、国家のサポートが手薄な領域をカバーしようとしている。
しかしながら、難民や亡命者が地域コミュニティに溶け込めないことがしばし発生する。その結果として、文化、宗教、社会的属性の違いから、地域住民とのつながりを持つことが難しい。公的、私的どちらかの機関においても、個人に対して施策や対応を実施することはあまり行なっていない。
学術機関が行う実践活動
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)のGlobal Education Projectによって、ある研究が行われた。その研究とは、サービスデザインスプリントが、どれだけ難民や亡命者の創造性を活かすことができるのかというものだ。
2015年9月から2016年4月まで、ブラジルとドイツにて、7つのワークショップに64人が参加した(参加者の主な国籍はシリア)。Adus(サンパウロ)、Gemeindediakonie Lübeck(リューベック)という2つの難民・亡命者支援を行うNGOの協力のもと実施された。具体的には、参加者の募集、場所の確保、アクティビティ実施のための必要な材料の確保、などである。
参加者にとって魅力的なテーマ
テクノロジーがワークショップの中心的なテーマとなった。例えば、地域住民とホスト国を繋ぐオンラインプラットフォームについて、参加者は具体的にどのような機能を持たせるべきか、などを議論・提案した。
SNSやアプリは、難民や亡命者の道のりには欠かせないツールとなっている。例えばWhatsappやFacebookグループなどでは情報のシェアをし、電子コンパスでメッカの方角を探し、サラート(一日5回の礼拝)を行う。GPSで現在地を把握し、情報の翻訳を行なっているのだ。
ワークショップの最中に挙がったこれらのアイディアは、実際にホスト国の地域住民と難民を繋げるアプリを開発するために用いられた。現在は、スポンサーを探しつつ、様々な機能を実装中である。
社会的文脈の中で、サービスデザインスプリントをどのように適用させるか
7回に渡るワークショップによって、難民や亡命者の生活体験・問題意識を、関連施策に繋げていく可能性を見ることができた。この研究はまた、社会的文脈におけるサービスデザインスプリントの適用可能性も示したと言えよう。
「このアクティビティは、我々が様々な組織と共同で、社会課題解決につながるソリューションを創出することができることを示した。」
カマール、サンパウロに居住するシリア難民
気づき
- 複雑な社会的文脈の上で、難民はシェルター、医療、学ぶ環境、仕事などの生活基盤とともにサポートされている。
- 難民は、彼らの未来を決める意思決定プロセスに積極的に関与したいと考えている。サービスデザインスプリントは彼らと支援組織を介在する触媒となりうるだろう。
- クリエイティブな活動は、より我々が彼らにともにあることを印象付けるであろう。文化の違いは超えなければならないハードルではあるが、通訳者やNGOメンバーの参画により、意思疎通を促進することが可能である。