起業家はメンターポートフォリオを持とう
起業家は明確な答えのない問いに多くぶつかります。会社の戦略といったものから、プロダクトの方向性、社内の人間関係、組織構築や人事評価などのトピックのほかに、今判断すべきかあるいは判断を先延ばしにするべきなのか(先延ばしする、というのも立派な一つの意思決定です)、それが将来会社にどのような影響をもたらすのか、などなど、曖昧な情報の中で際限のない問いに対して答えを出していく必要があります。
そうした問題に対応するため、起業家の多くは相談する相手としてメンターを持っています。実際、私の知っている優れた起業家はメンターをうまく使っていました(使う、という言い方は悪いですが)。
ただ起業家が完璧ではないように、メンターも完璧ではありません。メンターにも得意不得意はありますし、どんなに有名で影響力を持つメンターを持っていても、なかなか会えなければ、それはメンター/メンティーの関係としてあまり良いものとは言えません。
そこでお勧めしているのが、メンターポートフォリオを形成することです。特に幾つかのパターンに分けてメンターを持つことで、様々な課題に対しての答えのヒントを、様々な見地から得ることができます。
メンターポートフォリオの構成例
様々な構成の方法があるので、皆さんに最適な構成をしてみてください。一例を以下に挙げておきます。
経営者メンター
経験談をベースに様々な示唆をもらえます。スタートアップを始める人は経営者やマネージャーとして経験を積んだことがない人がほとんどなので、経営者メンターは是非持つようにしてください。特に経営者メンターはいくつかのフェーズに分けて考えると良いのではないかと思います。また、スタートアップの経営者が外で話す内容は成功事例が多いので、メンタリングセッションでは失敗談などについて話を聞くと示唆的な情報を得られます。
ピアメンター
同じステージ特有の共通の悩みを相談できる相手は心強い仲間です。なお起業してからの年数ではなく、プロダクトや会社のステージが似通っているほうが同じ悩みを持っている可能性が高いです(たとえばプロダクト開発中と開発後とでは悩みが違うことが多いです)。
1–2 年の経営者先輩
直近で起こりうる問題を教えてくれる相手として重宝します。特に問題の症状にいち早く気づき、それを予防するヒントをくれるかもしれません。
5–6 年の経営者先輩
中長期的に起こりうる問題や会社の戦略について話し合える相手になるでしょう。採用のコツや、会社の急成長に伴う痛みがどう発生するのかについて、様々な知見からアドバイスをくれるはずです。
10 年以上の経営者先輩
10 年以上会社が続いているということは、ある程度以上に成功した企業の経営者ということで、トップリレーションをはじめとした様々な人脈を持っているケースが多いです。また企業経営者としての起業家の目線を引き上げることに長けている人が多い印象です。
理論家メンター
投資家やアクセラレーターのパートナーなどが該当します。多くの事例から独自の理論を構築しており、一般論としてのアドバイスをもらうことができます。またビジネスモデルや資本政策について相談に乗ってくれやすい人種の人です。人材のハブになっていることも多いので、適切な経営者メンターや専門家メンターを紹介してくれるかもしれません。
専門家メンター
B2B では特に業界の専門知識がものを言います。そうした専門領域を持つ人が専門家にいれば、その業界に関する知見や人脈を紹介してくれます。
重要なのは相性
起業家と投資家の相性が大事なように、起業家とメンターの相性も大事です。
またメンターの性格も千差万別で、優しい人から厳しい人までいます。人の性質上、厳しい人をどうしても避けがちになってしまいますが、あなたのことを考えて厳しいことを言う人はとても貴重なので(特に利害関係がないのに厳しい意見をあえて言う人はとても貴重なので)、きちんとポートフォリオの中に組み込んでおいたほうが良いと思います。
対価には注意する
メンターの多くは無償であったり、あるいはエンジェルとして投資してくれる人が多いのではないかと思います。
ただ中にはアドバイザー料としてお金やエクイティを求める人もいます。それがリーズナブルな金額やエクイティであれば問題ありませんが、要求額が多すぎる場合には注意しましょう。基本的には Paul Graham の Equity Equation を参照すれば、リーズナブルかどうかはわかるのではないかと思います。
また別の視点として、シリコンバレーでは通常、アドバイザーに渡すエクイティは 0.1–0.25% と言われています。相当貢献した特別なアドバイザーでも 1–2% です。アドバイザーとしてそこそこの時間をスタートアップに割いてもらってエクイティを渡す場合も、少なくとも初期の従業員への納得感を検討した上でその割合を決めるようにしてください。本来的に企業の価値を上げるのは、外部の人からのアドバイスではなく、従業員からの貢献の影響が大きいはずです。
またメンターとしての評価や評判は周りの人に念のため確かめておいたほうが良いでしょう。評判の悪い人には(評判の悪い理由にもよりますが)気をつけて下さい。
メンタリングを徐々に始める
相性や注意を確認する必要があるので、可能であれば徐々にメンタリングを始めていくことをお勧めします。最初は定期的な予定を持つのではなく、何度かカジュアルに話してみて、相性が良さそうであれば次の予定を確保させてもらい、次第に定期的なミーティングの時間をもらうようにしていくのが良いのではないかと思います。いわゆるデートのような形で進めていくのが良いのではないでしょうか。
人気のあるメンターは自分の事業が忙しかったり、すでに多くのメンティーを抱えていたりして、なかなか時間が取れないケースもあります。コンタクトしやすい人や、コンタクトしにくい人などでうまくポートフォリオを組んで、相談したいときにある程度柔軟に相談できて、そして何よりあなたの事業に関心の深いメンターをうまく見つけてください。