米大統領候補者のディベートで見えたテキスト中継の可能性

ヒラリー・クリントン vs ドナルド・トランプのディベート中継

米国で行われた大統領選挙候補者2名による公開ディベート。テレビで視聴した人は1億人を超えたとも言われ過去最高の視聴者数になったようです。

ネット上でもストリーミングが行われ、Google(YouTube)やFacebook、Twitterも特設サイトで中継を行っています。

こうした「映像」での中継とは別に、テキストでの中継も行われていて、筆者はとくにこのテキスト中継に興味を持ちました。

例えば米国のラジオ・ネットワークnprは、テキスト中継と同時に専門のスタッフによるファクト・チェック(事実確認)を行い、ライブで更新を行ったようです(すみません、あとから知ったので生では見ていませんでした)。

nprのライブ・ファクト・チェックについては、こちらの記事で舞台裏が紹介されています。ファクト・チェックを行ったスタッフが18人、その他のスタッフを含めると50名もの人が共同で作業していたようです。

Google Docsの共同作業機能が活用されていて、字幕を作成するサービスからAPIを介して提供されるテキストをGoogle Docsに流し込みつつ、文書に注釈を付け加えるという方式で記事が作成されたそうです。これまでにもGoogle Docsでの共同作業の経験はあったものの、ここまで大規模なものは初めてだったと書かれています。

記事が書かれた時点で601万1000人がページを訪問、741万3000ページ・ビューを達成し、22%の訪問者は最後まで更新を観続けたとのこと。TVでの視聴者が1億人であったとすると、その6%に相当する人がこの記事を訪問した計算になります。一つの記事としては大きな成果と言えるでしょう。ちなみに、70%のユーザーはモバイル端末でアクセスしていたそうです。

データ・ジャーナリズム専門メディアFiveThirtyEightもテキスト中継を行い、こちらもライブで専門家が注釈やグラフなどを添えてディベートの理解を深める情報提供を行っています。

なぜいまテキスト中継は新しいのか?

テキストによるライブ中継で筆者が真っ先に思い出すのはAppleの新製品発表会です。いまでこそApple自身が映像のストリーミングで発表会を中継していますが、以前は中継はなかったので発表会に入り込んだ人がスマホなどで中継するいわば海賊放送を見たり、あるいはテキストと写真によるライブ更新を見る以外に速報を得る手段がありませんでした。発表会の時間になると、ガジェット系サイトを開いてテキストが更新されるのを待ち、それを見てはTwitterに感想を書き込むのが風物詩でした。

結局Appleが映像を配信するようになって、情報を得る手段は楽になりましたが、ウェブ・メディアはテキスト中継をやめず、自分の知る限り映像と同時にテキスト中継を観ている人も多いようです。

なぜ、映像による中継があるのにテキスト中継も見るのでしょうか?

いくつか理由があると思います。思いつくものを書いてみます。

  1. 発表は英語で行われるので、何を言ってるのかよくわからない場合もある。日本のメディアによるテキスト中継は日本語で書かれているので分かりやすい。
  2. 中継に加えて、以前の機種との比較などの情報(例えばカメラの画素数がどう変わったのか)を付加してくれるメディアは、より理解が深まる。
  3. 発表の内容ごとにTwitterなどでシェアするためのリンクがあるので、自分が興味をもった発表内容をTwitterなどにシェアしやすい。

翻訳による理解しやすい情報への変換、情報の追加による深い理解、そしてそこで得た情報を誰かにシェアしたいという要求への利便性の提供といったところでしょうか。

また、

  • 動画のライブ中継のように画面に張り付いていなくても、ちょっと席を離れて戻ってからこれまでの内容をチェックしてキャッチアップすることが可能である
  • 同じ内容を把握するなら動画より圧倒的に時間がかからない

という点も大きいでしょう。例えばスマホなどのモバイル端末で情報をチェックしているときなら、動画よりもテキスト中継の方が使い勝手が良いと言えます。

大統領候補者のディベートでは、ライブで情報の検証や注釈の追加が行われていましたが、これは上記のテキスト中継の利便性を活かしたものです。動画による中継では事前に用意した情報以外は表示できず、また情報量を多くすることは難しくなります。ディベートは1時間半にも及んでいますが、あとからこれを全てチェックするのは、なかなか億劫です。

少し話しがバラバラになってきたのでこの辺で終わりにしますが、速報性とライブ感の共有、それにリッチな情報、効率的な情報取得など、テキスト中継には様々なメリットがあり、今後ネット・メディアの強力な武器になっていくのではないか?というのがこの文章で言いたかったことです。

そしてそんなテキスト中継に興味のあるメディアの方、企画・開発でご協力しますので、ぜひ声をかけてくださいということも申し添えておきます。以上です。

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立薗理彦(たちぞのまさひこ)
スタジオピグボ

「ナタリー」「ゼゼヒヒ」「ポリタス」いまはこれ→「カラクリ合戦伝」(スマホ用リアルタイム・ストラテジー・ゲーム) https://yoyaku-top10.jp/u/a/MTgwNzA